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1010回目のバットエンド

崖、そんな場所に銀時がいるのは風を感じたいだとか飛び降りようとしてるだとか、そんな理由では決して無い。で、あればどんなに楽だったのだろう、そんなことを考えても今起こっているその事象が辛くなるだけだと言うのに。目の前には二つの死体が横たわっている、どちらとも首の皮一つ繋がっていない。
彼らを殺したのは他でもない銀時自身だ。
師か仲間か、性悪なその選択を突きつけられた銀時は__仲間の願いを尊重した。
正しかったとは思っていない、思っているはずがない。勿論師は大切な人間だ、だがそれと同時に彼らも銀時にとっては大切な人間だったのだから。
込み上げてくるものがあった、熱い。目から溢れてくるモノを手で擦って必死に止めようとする。涙することには何の意味も無い、この泪には何も無い。ただ頬を伝うだけの流れるだけの水なのだから。
「なんで__」
師の声だ。それは恨み言では無く自分自身に対する怒りを含んだ言葉であったのだがそのことに銀時は気づかなかった。ただ自分の選択に師は失望しているだろうと信じてやまなかったからこそ、ごめんなさいの一言すら口から零すことも出来ていなかったのだ。
「銀時」
応える声は無い。
「…銀時」
先程と同様、応える声は無い。
「銀時!!」
「─っ」
荒げられた声に銀時はハッとした。
耳鳴りがする、なにかを伝えるかのような。地面がグラグラと揺れている、これはただの地震ではない。松陽は呆然としていたが何故か銀時には分かった。
__どうやら、間違えてしまったらしい。

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◆◇◆◇

崖、そんな場所に銀時がいるのは風を感じたいだとか飛び降りようとしてるだとか、そんな理由では無い。で、あればどんなに楽だったのだろう、そんなことを考えても今起こっているその事象が辛くなるだけだと言うのに。
ここには誰もいない。否、いないのではなく皆死体に成り果てていただけだ。
あの時、どうしてか銀時は縛り付けられ地面に伏せていた彼らの願いを聞き入れてはいけないと思ったから師の首をはねた。だが天はそんなものでは満足いかなかったらしい、拘束されているのを良いことに二人を殺すよう烏に命じたのだ。"止める人間"もいないままその命令は実行に移され…
__そして、二人は松陽と同じ様に首をはねられた。
どうしても我慢ならなかった。だから烏の羽をもいで、踏み潰して、天を名乗る老害の心臓を潰す。残忍な殺害であったにも関わらず不思議と心は傷つかなかった。
耳鳴りがする、なにかを伝えるかのような。地面がグラグラと揺れている、これはただの地震ではない。
__どうやら、間違えてしまったらしい。

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戦場、死屍累々の景色に思わず溜息が出る。
目の前には鼠色の髪の烏の親玉が立っている。銀時にはこの男を見た覚えがある、松陽を連れ去った烏の中でいた燃え盛る村塾を見つめていた男だ。
「お前の仲間達は捕らえた、助けたくば着いてくると良い」
明らかに罠だ。聞き入れて大人しくついていってしまえば突然襲われてもおかしくは無いだろう。__だが、もしこの男の言葉が本当であるなら?あいつらが本当に捕らわれているとしたなら、銀時は助けに行かなくてはいけない。
『俺がおっ死んだら先生を頼む』
__本当に、そうするべきなんだろうか。
今自分がやらなければいけないことはなんだ。仲間の願いを踏み滲んででも仲間を助けることか、そんなことをしてもアイツは喜ばないだろう。
「何をモタモタしている」
_なんだ、別について行かなくても良いじゃないか。この手を汚してでも助けたいもの全部助けてしまえるのなら何の問題も無い、誰も苦しまない。
「…行くからさっさと案内しろよ」
「フン、最初からそう言えばいいものを」
そんな言葉を残し烏が銀時に背を向けたと同時にその背中を刀で刺した。もう二度と煩く鳴かせないように、二度とその翼で天を飛んで見下ろさせないように。
耳鳴りがする、なにかを伝えるかのような。地面がグラグラと揺れている、これはただの地震ではない。
__どうやら、間違えてしまったらしい。

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単独で幕府に乗り込む。なんて言ったら馬鹿共二人にこっぴどく叱られ、終いには頭を冷やせと寒い外に追い出された。
何かおかしかっただろうか、師は幕府に囚われている。銀時を犠牲にして助けることの出来たなら上々だろうに、そう心の中で呟くも何に怒っているかなんて銀時にはさっぱり分からなかった。
「のう金時、こんな時は酒が一番ぜよ。パーっと忘れちゃうに限るきに」
目の前の男はもじゃもじゃな頭の後ろに手を回しアハハと笑っている。
確かに忘れる、というのも手だろう。だが、
「…遠慮しとくよ」
どんなことも一つ残らず忘れてはいけないのだ、そうすればするほど自分の首を絞めることになるから。
銀時がそう言って断るとそうかアハハとこれまた笑いながら部屋を出ていった。表情筋が笑顔で固まってるんじゃないだろうか、というか坂本に真剣な表情など出来るのだろうか。想像すると思わず笑ってしまいそうだったから考えるのをやめた。
それにしても、寒い。
ヒューヒューと風が吹いている、こんな冷たい風を感じたことが前にもあったような気がするが__
思い返してはいけないような気がするのはなぜだろう、というより最近こんないつも感覚がある。思い出せそうで思い出せない、自ら記憶に蓋をしたような、モヤがかかっているような、脳に厳重なセキュリティがかかっているような気分だ。
ボーッとしていたら誰かの叫び声が聞こえてきた為思わず振り返ってみれば基地はさんさんと燃え上がる炎に包まれていた。
「奇襲だー!」
そんな声はしっかりと銀時の耳に届く。
刀に手をかけ入るなと言われていた基地に飛び入る、緊急事態なのだから問題は無いだろう。言い訳を他所に一二三……と敵方の人間が目に入ったためヒュンと斬り伏せていく。
相当な人数を連れてきたらしい、恐らく真っ向勝負では此方に勝てないと分かり捨て身覚悟で乗り込んできたのだろう、その精神性はもっと別の場所で役立てるべきだろなんてツッコミ心を抑え進んだ。
この出来事は初めてでは無い気がする、そんな気がするのは先に感じた思い出してはいけない記憶だからか。
耳鳴りがする、なにかを伝えるかのような。
__どうして?まだその時じゃないだろう。
地面がグラグラと揺れている、これはただの地震ではない。
__まだ終わっていない、負けている様子が見受けられないのが証拠だ。なのに、
最後、その時その瞬間この目に映ったのは大量の血と宙に舞っている仲間の_
__どうやら、間違えてしまったらしい。

◇◆◇◆
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◇◆◇◆

憎々しい青空の下に在るは無惨に燃え尽きた自分達の居場所、姿を変えた松下村塾。
結局燃えていようがいまいが教育者が居ないのでは塾としては成り立た無かっただろう、そこに未練を抱いてしまうならいっそ燃えてしまうのが正解だったのかもしれない。
__どうせ何が正解かなんて、分からない。
「テメェ、なんつーアホ面晒してんだよ」
穴が開きそうなほど睨みつけてくる目の前のチビが何を言いたいかはすぐに分かった。
__先生が連れ去られたのに何故そこで悠々と空を眺めているのかと、訴えたくなる気持ちは当然だろう。高杉は松陽を誰が見ても分かりやすいほど慕っていたのだから。
ただそれは銀時が動く理由にはならない、だってアイツはすぐ帰るって言ってたからと独り言のように零す。それを高杉は聞き逃さなかった。
「じゃあテメェは今先生が何されてるかも分かんねぇのにそこでグズグズ待ってるつもりか?」
「高杉!やめないか!」
桂の制止も聞かず高杉は胸ぐらを掴んで銀時の目を真っ直ぐ見る、今にも殴りあってしまいそうな雰囲気が醸しでていた。
「俺がどうしようが俺の勝手だろうが」
「チッ埒が明かねぇ」
そう舌打ちして高杉くるりと銀時に背を向け歩みを進める。
「どこに行くつもりだ?」
「決まってんだろ、戦争しにいく」
「……それで死んだらどうすんだよ、松陽だって自分のこと助けるためにてめーが死んだなんて聞きたくねぇだろ」
「それでも俺ァ先生を助けに行く」
「はっそうかよ、勝手にしろや」
不穏な空気だ。走る緊張、師を想う心は同じはずなのに各々のやり方の違いでぶつかり合う。最初から松下村塾の弟子達はこうだった、喧嘩してぶつかり合ってそれでも最後は分かり合った、分かり合えていた。
そのはずなのに、今はぶつかり合ってそっぽ向いたまま、時が経つにつれて亀裂がじわじわと広がっているのが目に見えて分かっているのに銀時はここを動く気に、戦争に出向く気になれなかった。銀時をそうさせているのはやはりごちゃついた頭の中にあるおかしな記憶のせいなのだろうか。ずっとあるこのうっすらとした記憶が今銀時を突き動かす根源のようなものだった。そんな調子だから何も行動を起こさない銀時を放って「テメェが居なくても先生は必ず取り戻す、だから足踏みして待ってろ」とだけ言い残して去った。結果は目に見えている、そう思ってしまう自分は愚かだと思う。
__空は今も憎いほど晴れていた。

◇◆◇◆
count1005
◇◆◇◆

ただの平凡な一日だった。
永遠にこの時を過ごしたいと思えるような日常、もう二度と戻れないと思っていた日常。
廻り始めて最初はそもそもの"自覚"が無かった、どういう仕組みかは分からないが回数を重ねるごとにうっすらと思い出していく感覚があり今にはもう絶対に攻略出来ないゲームをやっているような感覚に囚われてしまっていた。
「失敗は成功のもと、なんて言葉があるがあんまりにも失敗し過ぎじゃねぇか、そりゃあないぜ運命さんよ」

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戦禍、森の中を掻き分けるように二人の男が突き進む。嘘であってくれ、そう信じて。
__だが、遅かった

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絶対に離さない手放さない許さない許せない、これが別れだなんて、そんな。なんで、優しい顔をしないでくれ、見せないでくれ。思い切り掴んで引っ張る、いかないで。
__刹那背中に痛みが走った。

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count1008
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__仲間が死んだ

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count1009
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__未来を見届ける前にくたばった

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count1010
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崖、そんな場所に銀時がいるのは風を感じたいだとか飛び降りようとしてるだとか、そんな理由では決して無い。で、あればどんなに楽だったのだろう、そんなことを考えても今起こっているその事象が辛くなるだけだと言うのに。後ろには幼馴染であり戦友であり仲間である高杉と桂が頑丈ににロープを巻かれた状態で突っ伏している。そして前には同じようにロープを巻かれている師の姿、もはやテンプレと化している天導衆のセリフは聞き飽きてしまっていた。もう、終わりにしよう、分かっていたのだ、だからこそ避けた道。
なんという皮肉だろう、結局銀時は何も変えることが出来なかった、そもそもここから続くのか、終わるのかなんて考えるのすら億劫だった。握り締めたせいで震えてしまっている左手をよそ目に刀を持つ右手を振り上げる。悲鳴、やめてくれという懇願の声、全て無視して、手を動かした。宙に浮かぶ、血飛沫が空に散っている。
は、はは、
__正解すらバットエンドだなんて誰が予想出来たか、何であろうが終わったことは確かだった。
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