現代パロ
「…で、あるからしてこれは……」
教師の言葉を聞き流しながら窓の外を眺めた。
学校の外にはゴミのように十人十色な人が歩いている、犬の散歩をしている人、ランニングをしている人、買い物袋を持って帰路を辿っている人、くだらないことだがこうやって見るのは案外飽きない。
駐車場に桃色白色緑色と止まっている車がなんだか三色団子のように見えた。
「ここは…じゃあ坂田」
「団子?」
笑い声が教室にこだまする。
銀時はその反応で初めて問題の答えを聞かれていたのだと気づいたが数字も団子もそう変わんないだろ、と気にすることは無かった。
そうこうしていればキンコンカンコンと特徴的なチャイムの音が鳴る。
その音を聞くと先程まであった眠気が消し飛ぶ、聞き慣れたはずの音なのに不思議なものだ。
銀時は冬休み、しかも元日であるにも関わらず補習を受けさせられている。
正直この事実だけでいくらでも文句が出る。
冬休みの休みとはなんなのか、補習を受ける休みなど休みでは無いのではないだろうか。
話を聞いていなかったことで教師の説教を受けながら思いを巡らせる。
今日なんて神社に行く約束があったというのにこの補習のせいで時間が遅らされた。
良いこと無しが過ぎる、どうせ勉強なんてしていないのだから補習に行かせても意味なんて無いことが分からないのだろうか。
などと、恐らく説教されているときに殆どの学生が思うような理不尽な怒りを募らせる。
こういう時に素直に駄目な所を認めるやつは少数派だと思う、なんせ高校三年生といっても体は成長しようがまだ心は子供なのだから。
「おじさんの話聞いてるか?」
「あーうんうん」
「……」
「待って、無言でチョーク構えんのやめて松平せんせー」
「…三年」
「は?」
「この学校入って約三年、やっと先生呼びを覚えたか」
お前がうるさいからだろと口を尖らせる。
先生、というただの肩書きがなんだか言い慣れないのだ。目の前の人物は先生というにはあまりに乱暴であるし教師だろうがなんだろうがただの呼び捨てが一番しっくりくる。
自分の家族にだって、義父だとか義兄だとかそんなもので呼んだことは一度も無いのだからもうそういう性分なのだろう。
「なぁ、下で待ってるヤツらいるから早く行かせてくんねぇ?」
「良いがついでに高杉に言っとけ、今回は奇跡的に補習を免れたがあんまり調子こいてると学力でビリになってもおかしくないぞってな」
「はいはい」
誰が言うものか、アイツはそのままビリ突っ走っとけばいいのだ。
松平は本当に言うか?とでも言いたげな表情だったが結局何も言わずに職員室に戻って行った。
自分も鞄を背負って下駄箱へと向かう。
階段を降りてみれば見慣れた姿が三つあった。
「おー金時、遅かったけど何かあったが?」
「松平にしこたま怒られてた、アイツすぐ暴力で解決しようとすんだよ」
「貴様が叱られるようなことをするのが悪いのだろうが」
「ハッ、こんな日にも補習なんざ大変だなァ?」
口調が訛っている茶髪天パ馬鹿、優等生風ロン毛電波馬鹿、ただの眼帯厨二病馬鹿だ。
正月だからと銀時はこの三人と神社に行こうと約束をしていたのだ。
「補習の話はいいだろ、んなことより早く行こーぜ」
「そがな信心深いやつやったかいの」
「補習の話をされたくないだけだろう」
図星だったため早歩きで目的の場所へと向かっていった。
◆◇◆◇
__カランカラン
鈴の音が鳴る。
四人は先程とは打って変わって物静かな様子でお辞儀を二度、手を二度叩きそれぞれ思い思いに何かを祈れば、またお辞儀。
銀時はお参りの礼儀など知らないため三人に合わせていたが大人顔負けの姿に少しばかり感心した。
そのすぐ後、神社でやっている百円程のおみくじを四人で引くこととなった、銀時はゴクンと息を飲んで紙を開く。
「…どうだ?」
「ワシ中吉じゃ!」
「俺ァ末吉だとよ」
「俺も末吉だ…皆あまり結果が良くないな、銀時はどうだ?」
続々とおみくじの結果を言っていく。
ヅラの言う通り、皆結果が良くない。人生経験上神社のおみくじは大吉が多く出るように設定されているように感じていたのだが…それに今、目の前にある結果なんて誰のものでも見た事が無い。むしろ実在したのかと衝撃を受けているくらいだ。
見た通りに、その書かれている二文字をポツリと呟く。
「__大凶」
「____」
三人は唖然としていた…というのは少し大袈裟な表現だ、ただ驚いていることには変わりは無いだろう。実質神様に宣言されたようなものだ、お前は今年悪いことが起こるのだと、新年始まったばかりで補習を受けさせられたばかりであるというのにおみくじの結果が悪いとなれば本当気が重い。
「__大凶つーと凶より悪い…一番悪い結果じゃねぇか」
「大凶など見たのは初めてだ、ある意味運がいいのでは無いか」
呆れたように二人は言い放つ。
__そもそもおみくじなんて嘘っぱちなんだから信用しなくていいじゃねえか。
そんな思考が頭を掠めた、自分にとって悪い事とならないように詐欺師もびっくりなほど手のひらを返している。人間とはなんと都合のいいものだろう。
「テメェが性悪なのは既に周知の事実だろ」
「なんで考えてること分かるんだよ」
「さっきからブツブツ呟いておったぜよ」
どうやら思考が思わず口に出ていたらしい、よく漫画で心を読むなんて能力があったりするが読まれる側の気持ちが分かる、心の中を素っ裸にされている気分で耐えられそうにない。
「また口に出ているぞ」
「俺の口ペラペラだな!」
◆◇◆◇
アホ丸出しの会話をした帰り、自分の家の屋根が視界の端に写った。同時に運勢が大凶であったことが重く伸し掛る。
この間の0点のテスト用紙なんて見つかってしまったらゲンコツ間違いなしだ。想像するだけで帰路につくことが拒まれる。
吉田と書かれた札を見つけ扉のドアノブに手をかけるがその時銀時はある違和感に気づいた。
「あ?鍵開けたままだったっけ」
不審に思いドアを開けてみれば物が散らかったり…ということは無かった。
思い過ごしだったのかもしれない。
「たでーま」
いつものおかえりという返事は無かった、家に義父も義兄も居ないのだろうか。
大雑把に靴を脱いで靴箱に入れる、廊下に足を踏み入れればふと"鉄臭い匂い"が鼻をかすめる。
__その意味を理解はできなかった。否、分かっていたとしても理解したくはなかった。
足取りが鉛のように重い。その臭いの根源に薄々気づき始めていたからか物々しい雰囲気も感じ取れるようになっている。
行くなと、後悔すると脳の自制心が正確な判断出した結果の産物であるのだろう。
それでもこの足を止めてはいけないと思ったのは怯えることを許さないプライドによるものだ。義父の部屋に近づけば、先程よりも数段キツい臭いがするのが身に染みて分かった。この、扉の奥から臭いがしているのだ。
取手を手に取らなければ、その先の光景を、この目に焼き付けなれば…そんな使命感に駆られてしまう。
取りたくないと叫ぶ自分を無視して、扉を開いた。
__そこには血を流して倒れている義父の姿があった。
まるで走馬灯のように今までの思い出が脳を駆け巡る。しばし唖然とし固まっていた、がすぐにハッとしてそこに駆け寄った。
「松陽!松陽!!」
「……銀時?」
酷く掠れた声、それにはすぐに消えてしまう蝋燭が放つ寸前の灯火のような儚さがあった。
「一体何が…いや、その前に救急車を…」
「呼んでも助かりませんよ」
「んな悲観すんなよ…じゃあ俺はどうすりゃいいってんだ」
「…最期に一つだけお願い聞いてくれますか」
何を言う。
__お願いだなんて、最期にだなんて、まだ終わっていないのに、助かるかもしれない希望の言葉も吐かないなんて…そんなのまるで死の直前の遺言ではないか。
「私のことを…吉田松陽という、人のことを忘れないでください」
「……んなの言われなくても分かってるよ…」
そんなの当然だと言いたくなる言葉を最後に松陽の体は暖かみを失い冷たくなっていた。
一言も話さない、ただの屍に成り果ててしまっていたのだ。
その場があまりにも静まり返っているものだからドクドクと、自分の心臓の鼓動がよく聞こえる。
銀時は為す術もないまま力無く「松陽…松陽……」と嘆いているだけだった。
教師の言葉を聞き流しながら窓の外を眺めた。
学校の外にはゴミのように十人十色な人が歩いている、犬の散歩をしている人、ランニングをしている人、買い物袋を持って帰路を辿っている人、くだらないことだがこうやって見るのは案外飽きない。
駐車場に桃色白色緑色と止まっている車がなんだか三色団子のように見えた。
「ここは…じゃあ坂田」
「団子?」
笑い声が教室にこだまする。
銀時はその反応で初めて問題の答えを聞かれていたのだと気づいたが数字も団子もそう変わんないだろ、と気にすることは無かった。
そうこうしていればキンコンカンコンと特徴的なチャイムの音が鳴る。
その音を聞くと先程まであった眠気が消し飛ぶ、聞き慣れたはずの音なのに不思議なものだ。
銀時は冬休み、しかも元日であるにも関わらず補習を受けさせられている。
正直この事実だけでいくらでも文句が出る。
冬休みの休みとはなんなのか、補習を受ける休みなど休みでは無いのではないだろうか。
話を聞いていなかったことで教師の説教を受けながら思いを巡らせる。
今日なんて神社に行く約束があったというのにこの補習のせいで時間が遅らされた。
良いこと無しが過ぎる、どうせ勉強なんてしていないのだから補習に行かせても意味なんて無いことが分からないのだろうか。
などと、恐らく説教されているときに殆どの学生が思うような理不尽な怒りを募らせる。
こういう時に素直に駄目な所を認めるやつは少数派だと思う、なんせ高校三年生といっても体は成長しようがまだ心は子供なのだから。
「おじさんの話聞いてるか?」
「あーうんうん」
「……」
「待って、無言でチョーク構えんのやめて松平せんせー」
「…三年」
「は?」
「この学校入って約三年、やっと先生呼びを覚えたか」
お前がうるさいからだろと口を尖らせる。
先生、というただの肩書きがなんだか言い慣れないのだ。目の前の人物は先生というにはあまりに乱暴であるし教師だろうがなんだろうがただの呼び捨てが一番しっくりくる。
自分の家族にだって、義父だとか義兄だとかそんなもので呼んだことは一度も無いのだからもうそういう性分なのだろう。
「なぁ、下で待ってるヤツらいるから早く行かせてくんねぇ?」
「良いがついでに高杉に言っとけ、今回は奇跡的に補習を免れたがあんまり調子こいてると学力でビリになってもおかしくないぞってな」
「はいはい」
誰が言うものか、アイツはそのままビリ突っ走っとけばいいのだ。
松平は本当に言うか?とでも言いたげな表情だったが結局何も言わずに職員室に戻って行った。
自分も鞄を背負って下駄箱へと向かう。
階段を降りてみれば見慣れた姿が三つあった。
「おー金時、遅かったけど何かあったが?」
「松平にしこたま怒られてた、アイツすぐ暴力で解決しようとすんだよ」
「貴様が叱られるようなことをするのが悪いのだろうが」
「ハッ、こんな日にも補習なんざ大変だなァ?」
口調が訛っている茶髪天パ馬鹿、優等生風ロン毛電波馬鹿、ただの眼帯厨二病馬鹿だ。
正月だからと銀時はこの三人と神社に行こうと約束をしていたのだ。
「補習の話はいいだろ、んなことより早く行こーぜ」
「そがな信心深いやつやったかいの」
「補習の話をされたくないだけだろう」
図星だったため早歩きで目的の場所へと向かっていった。
◆◇◆◇
__カランカラン
鈴の音が鳴る。
四人は先程とは打って変わって物静かな様子でお辞儀を二度、手を二度叩きそれぞれ思い思いに何かを祈れば、またお辞儀。
銀時はお参りの礼儀など知らないため三人に合わせていたが大人顔負けの姿に少しばかり感心した。
そのすぐ後、神社でやっている百円程のおみくじを四人で引くこととなった、銀時はゴクンと息を飲んで紙を開く。
「…どうだ?」
「ワシ中吉じゃ!」
「俺ァ末吉だとよ」
「俺も末吉だ…皆あまり結果が良くないな、銀時はどうだ?」
続々とおみくじの結果を言っていく。
ヅラの言う通り、皆結果が良くない。人生経験上神社のおみくじは大吉が多く出るように設定されているように感じていたのだが…それに今、目の前にある結果なんて誰のものでも見た事が無い。むしろ実在したのかと衝撃を受けているくらいだ。
見た通りに、その書かれている二文字をポツリと呟く。
「__大凶」
「____」
三人は唖然としていた…というのは少し大袈裟な表現だ、ただ驚いていることには変わりは無いだろう。実質神様に宣言されたようなものだ、お前は今年悪いことが起こるのだと、新年始まったばかりで補習を受けさせられたばかりであるというのにおみくじの結果が悪いとなれば本当気が重い。
「__大凶つーと凶より悪い…一番悪い結果じゃねぇか」
「大凶など見たのは初めてだ、ある意味運がいいのでは無いか」
呆れたように二人は言い放つ。
__そもそもおみくじなんて嘘っぱちなんだから信用しなくていいじゃねえか。
そんな思考が頭を掠めた、自分にとって悪い事とならないように詐欺師もびっくりなほど手のひらを返している。人間とはなんと都合のいいものだろう。
「テメェが性悪なのは既に周知の事実だろ」
「なんで考えてること分かるんだよ」
「さっきからブツブツ呟いておったぜよ」
どうやら思考が思わず口に出ていたらしい、よく漫画で心を読むなんて能力があったりするが読まれる側の気持ちが分かる、心の中を素っ裸にされている気分で耐えられそうにない。
「また口に出ているぞ」
「俺の口ペラペラだな!」
◆◇◆◇
アホ丸出しの会話をした帰り、自分の家の屋根が視界の端に写った。同時に運勢が大凶であったことが重く伸し掛る。
この間の0点のテスト用紙なんて見つかってしまったらゲンコツ間違いなしだ。想像するだけで帰路につくことが拒まれる。
吉田と書かれた札を見つけ扉のドアノブに手をかけるがその時銀時はある違和感に気づいた。
「あ?鍵開けたままだったっけ」
不審に思いドアを開けてみれば物が散らかったり…ということは無かった。
思い過ごしだったのかもしれない。
「たでーま」
いつものおかえりという返事は無かった、家に義父も義兄も居ないのだろうか。
大雑把に靴を脱いで靴箱に入れる、廊下に足を踏み入れればふと"鉄臭い匂い"が鼻をかすめる。
__その意味を理解はできなかった。否、分かっていたとしても理解したくはなかった。
足取りが鉛のように重い。その臭いの根源に薄々気づき始めていたからか物々しい雰囲気も感じ取れるようになっている。
行くなと、後悔すると脳の自制心が正確な判断出した結果の産物であるのだろう。
それでもこの足を止めてはいけないと思ったのは怯えることを許さないプライドによるものだ。義父の部屋に近づけば、先程よりも数段キツい臭いがするのが身に染みて分かった。この、扉の奥から臭いがしているのだ。
取手を手に取らなければ、その先の光景を、この目に焼き付けなれば…そんな使命感に駆られてしまう。
取りたくないと叫ぶ自分を無視して、扉を開いた。
__そこには血を流して倒れている義父の姿があった。
まるで走馬灯のように今までの思い出が脳を駆け巡る。しばし唖然とし固まっていた、がすぐにハッとしてそこに駆け寄った。
「松陽!松陽!!」
「……銀時?」
酷く掠れた声、それにはすぐに消えてしまう蝋燭が放つ寸前の灯火のような儚さがあった。
「一体何が…いや、その前に救急車を…」
「呼んでも助かりませんよ」
「んな悲観すんなよ…じゃあ俺はどうすりゃいいってんだ」
「…最期に一つだけお願い聞いてくれますか」
何を言う。
__お願いだなんて、最期にだなんて、まだ終わっていないのに、助かるかもしれない希望の言葉も吐かないなんて…そんなのまるで死の直前の遺言ではないか。
「私のことを…吉田松陽という、人のことを忘れないでください」
「……んなの言われなくても分かってるよ…」
そんなの当然だと言いたくなる言葉を最後に松陽の体は暖かみを失い冷たくなっていた。
一言も話さない、ただの屍に成り果ててしまっていたのだ。
その場があまりにも静まり返っているものだからドクドクと、自分の心臓の鼓動がよく聞こえる。
銀時は為す術もないまま力無く「松陽…松陽……」と嘆いているだけだった。
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