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雨の中咲く花

「あ、紫陽花」

「紫陽花がどうかした?」

この街は雨しか降らない。
他のところではあるという"晴れ"は無いのだ。
だから、ずーっと薄暗いまま。
母が病気なことも相まって自分達はどんよりとした気持ちで息苦しい毎日を過ごし続けている。

「私この花好きヨ」

「なら摘んで家に持って帰るか」

そう言って紫陽花を摘もうとする兄を神楽は焦って腕を掴み止める。
兄はこちらを振り向いて怪訝な顔をしていた。

「好きなんじゃなかったの」

「摘むのは駄目ネ、写真撮るくらいにするアル」

「え〜、どういう基準?」

「こうやって咲いてるのが好きネ、摘んだら魅力半減ヨ」

「お兄ちゃんはよく分かんないな」

「一生分からなくていいアル」

◇◆◇◆

家に帰ればゲホゲホと咳き込む母の姿が見えた。兄は「母さん!」と真っ先に駆け寄る。
神楽は年齢の差によるものか兄の一歩後ろに続いて母に駆け寄った。
こんなときでも父は居ないらしい。
寂しさを覚えながらも咳き込む母を覗き込む。
子供に心配させまいという想いがあるだろうか、母は苦しいはずなのに二人の前では絶対にいつも笑みを浮かべていた。

兄と出掛けていた途中で見た紫陽花を思い出す。

雨の中、健気に咲いている紫陽花が好きだった。
どんなにジメジメとしていても綺麗に咲き続ける、まるで病気でも気を強く持っている母を見ているようだったから。
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