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其の二 拾い犬

定春と散歩をしていたら銀ちゃんの話し声が聞こえ、こっそり見てみれば何かの紙を持った知らない奴と話していた。
随分と親しげだから恐らく自分が居候する前からの知り合いだろう。

「…ところでお前のとこであの犬飼えたりしねぇの?」

あの犬?犬といえば自分が連れている定春しか思いつかない。それを、知らない奴が飼う?何を言っているのだろう。
話の内容が知りたくてもっと近づいてみれば、定春の写真と何か文章が書いてある紙が見えた。

『里親募集中』

里親、その言葉の意味を必死に頭の中から捜す。何故その紙を壁に貼っているのか、順当に考えれば定春の里親を探すということだ。が、どうして銀ちゃんが里親を探しているのかが分からない。世話なら自分達ですればいい、なのに…気づけば口から言葉が出てしまっていた。

「…銀ちゃん、それ何アル?」

「何って里親募集の紙だけど」

銀ちゃんはいつものように飄々と話す。
頭の中が真っ白になって思わず定春も置いて走り去ってしまった。

なんで、どうして、グルグル渦巻く疑問が湧き出て仕方ない。
定春の何がダメだったんだろうか。否、最初から分かっていたはずだ。神楽の食費が凄いと新八と姉貴が、新八が過労死してしまうと銀ちゃんが言ってたでは無いか。
それを無視して自分は犬を飼いたいなどと我儘を言ってしまっていたのだ。

ドンッ

誰かとぶつかる、タイミングの悪い奴だ。
今なら相手が誰であろうと八つ当たりしてもおかしくはないだろう。そう思い顔を上げてみれば…

「神楽ちゃん?」

────ハゲがいた。

「パピー帰ってきてたネ?」

「今から家に帰ろうと思って来たところだがどうした?何かあったか」

自分の父はこういう都合の悪い時だけ察しが良く良い時だけ悪く髪が生えていれば格好良いように見えるだろうにツルツルのハゲ、そういう一つ欠けたパズルのような人間だ。
母はこの男のそういうところに惚れたのだから不思議なものだろう。

「…なんでもねぇヨ」

「なら一緒に帰ろう、神楽ちゃん」

「私は帰れないアル」

ただでさえ夜兎家の人達に居候を続けたいと言ってしまったのにこうやって仲違いをしてしまったと言えば悲しむか、怒るか、どっちにしても自分のせいでそんな皆の姿を見たくは無い。

「なんだ、アイツらまさか神楽ちゃんに粗相を…」

「んなことされたらぶっ飛ばしてるネ」

「神晃様!お帰りに…神楽様と共に居られていたのですか!」

どうやら父が帰ってきたという話を聞いてか迎えに来たようだ。どうしたものか、自分は新八の家か夜兎家に帰されるだろう。どちらにしても最悪なのは間違いない。

「迎えも来たことだし帰るぞ」

「だから…」

ガシャァァン

けたたましい音が鳴る、すぐそこの外壁が抉れている。それが目に入ることは無く、ただ一点を見続けた。
白いモフモフの毛並みの犬にそこに乗っている銀色の髪がある。それがどう見ても覚えのあるもので。

「ワン!」

「オォォイ!ワンじゃねーよ定春!こりゃ弁償モンだよ!」

「銀ちゃん?定春?」

「うちの娘泣かしたのはお前かァ!」

「誰このおっさん!」

銀ちゃんは勘違いして傘を向けてくる父に思わず腰に刺してあった刀で受け止めれば刀が木っ端微塵となると同時に父が怪訝な顔をする、それを見ても何も思わない程神楽の頭は思考停止をしていた。
なぜ、どうして、先程とは全く違う疑問が次々と湧き出る。

「なんで、なんで来たアルか」

「いやーお前ん家に定春預けようつーのに肝心の娘がいねーもんだからよ」

「定春を?」

勘違いをしていたのは自分だったらしい、資金面はどうにもならない、だから銀ちゃんは出来るだけ神楽の手が届くところに定春を預けようとしたのだ。他でもない神楽と定春のことを想って。

「定春…定春!」

「ワン!」

白い毛に包まれる、それだけで心が暖まった。
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