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其の四 分岐点

突然の出来事なためすぐには飲み込めはしなかった。
そりゃそうだろう、誰が無人島に迷い込んだなど考えるものか。
無人島生活なんて自らやろうとするのはテレビ企画だとかそんなものでしか見たことが無い。
話を聞けば坂本は新八達が乗っていたあの船に乗っていたらしい。
船酔いがあるらしく口を抑えて我慢していたところ、突然船が揺れだして大きい音も鳴るものだから我慢出来ずに嘔吐してしまったところで意識を失い、気づけば無人島で傍に新八と神楽が倒れていたのだと。
__そう、新八と神楽だけしか居なかった。
先程まで船で共に居たはずの銀時が居なくなっているのだ。
最悪の場合何処にも流れ着くことなく沈んでいったかもしれないという焦りが新八を、平気そうな顔をしている神楽をも襲っていた。
そんな様子を見ていたからなのだろう、坂本は新八達に休むよう言った。
数時間の間で分かったことだが坂本が絶え間なく笑って暗い顔をしないのはまだ子供である新八達にこれ以上気負わせないためだ。
大人であるがために自分なりのやり方で子供を護ろうとしている、それが坂本辰馬という人の人相を表していた。
とはいえまだ安心は出来ない、そもそも銀時の行方が分からない以前に新八達は脱出の目処も無いままたった三人で無人島に閉じ込められているのだから。
大抵こういう状況に陥ったとしたら石でSOSを作ったりするのが定番なものだがそれを作れる程の石がこの無人島には無かった、たまたま通りかかった誰かに助けを求めることさえもままならないらしい。

「あちー早く帰りたいアル…」

「帰る方法は今探してるから我慢して神楽ちゃん…あ、坂本さんどうでしたか?」

「なーんにもないぜよ!あははははは」

坂本はそれを軽い口調で言い放っていた。
前言撤回しよう、この人は見本にしてはいけないタイプの大人だ。
所謂まるでダメな大人、略してマダ…いや、仕事は持っていると言っていたか。
株が上昇すれば急降下したりまた上がったりと忙しいものだ。
大人なんてそんなものなのだろう、良く見えるときもあれば悪くも見える。
それくらいでいい、だからこそ信頼できるのだから。

__ザ、ザザ…

機械音、だろうか。そんな音が聞こえる。
何も無い無人島で機械音が聞こえることは中々無い、というよりさっきまで無かった。
まさか人がいるのか、という期待が少なからずとも新八にはあった。
それを期待していたのは新八だけでは無いのだろう、神楽も…坂本でさえも息を飲んでいる。

『聞こ……答を…』

恐らく女の人の声だろう。
その声を聞いて坂本は「あぁ!」と何かを思い出したかのように手を叩いていた。

「そういえば無線機持っとったのを忘れちょったぜよ」

…………は?
二人がそう心の中で呟かざるを得ない発言が坂本からこぼれたのを聞くとブチッと何かが切れる音がした。

「なにやってんだァァァ!!!」

「それあればすぐに帰れたアル!今までの苦労返せヨ!」

そう叫び気の済むまでムカつくモジャモジャ頭を殴って蹴ってを繰り返す。
それはさながら浦島太郎に出てくる虐められた亀の様だったと言えるだろう。

『おい、聞こえちゅうか』

「すみません!この馬鹿を引き取りに来てくれませんか!!」

「ちょい待…」

『分かった、場所を教えてくれ』

扱いがおかしいと嘆く坂本の声は無視した。

◆◇◆◇

「すまん、この馬鹿が迷惑をかけた」

暫く待って来たのは声通り陸奥という美人な女の人だった。日除けの為か編笠を被っている。
どうやら坂本は『快援隊』という"本部"に物資を運ぶ割と偉いところの社長だったらしい。
今回は別件で物の引き渡しがあったそうだが坂本が乗る船を間違え、陸奥が止めようとした時にはもう出発しておりその後船が沈んでしまって連絡もつかないものだから探すのに手間取っていたのだと。

「…?おまんら乗らんのか?」

「私たちまだ探さなきゃいけないヤツがいるネ」

「銀髪で天パで…十五くらいの子供を見かけませんでしたか?」

行き当たりばったりになるわけで流石に首を縦に振ることはないだろうと悲観的なことを思いながらの発言だった…が、陸奥が口にした言葉は思いもよらないものだった。

「あぁ居たぜよ、船で迷子になっちょったき保護した」

二人で顔を見合わせる。
銀髪で天然パーマの人間なんて中々居ない、それも子供となればかなり珍しい。
と、いうことは……

「さっきまでそこにおったきに…どこに行った?」

「どこから来たんじゃおんし、離せって言われてもこがなとこに一人じゃな…おーい陸奥!こがなとこに子供がいるぜよ」

坂本の発言にもしやと思いそちらを向けば異様に目立つ銀色の髪が見えた、自分たちが探していた坂田銀時その人だ。
坂本が抑えてはいるが子供だというのに随分な暴れっぷりだ、理由は分からないが余程逃げたいらしい。

「坂本さん!その人こっちに連れてきてください!」

「おいバカやめろ!あいつら他人!知らねぇ奴!これ誘拐っていうんだよ分かってんのか!」

「分かったぜよ〜!」

「全然聞く耳持たねぇなコイツ…」

いくらなんでも大人の力には勝てなかったらしくズズズ…と引き摺られている。
新八には銀時の様子に違和感を覚えていた。そもそも新八達を他人扱いしているところからおかしい、いつもの照れ隠しにしては過剰だ。というより、今の流れで照れ隠しをする理由が無いのだ。
__どこか引っかかりを覚えながらもその日は家に帰してもらい坂本達に別れを告げた。
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