ヒプマイ短編
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仏のような人、皆は彼をそう呼ぶ。 でも、そんな彼に嫌われている人物がいる。
一人は飴村乱数。 もう一人は、この私だ。
皆、一様に私が何かやらかしたからだと思っている。 でも、違う。 私は何もしていない。
なのに彼、神宮寺寂雷の私に対しての態度は酷い。 絶対に目を合わせてくれないし、話すときも眉間に皺がよっている。
初対面のときは違った。 新しく入った看護師として挨拶したとき、彼は皆に見せるのと同じ顔で私を見てくれた。
そして、その翌日から彼の態度が変わってしまったのだ。 会った次の日だ。 私の第一印象が悪かったとしか考えられない。
しかし私は至って普通の挨拶をしたはずだ。
初めまして、本日からこの病院で働くことになりました名字名前と申します。 これからよろしくお願いします。
これの何処がいけないのだ。 むしろ模範解答だろう。ここまで言えば分かるだろうが、本当に心当たりが無いのだ。
まぁ、私がいくら分からないと言っても噂好きな奴らは、私が先生を口説いた、とか先生に対して物凄く失礼なことをしたクズだ、とか裏で散々話している。 全く持って迷惑な話だ。
こんな愚痴ばっか言ってたって意味が無いことは分かっている。 でもその噂のせいで皆、私のことを避けるのだ。 愚痴の一つや二つくらい言ったって罰は当たらないはずだ。
だが、私は別に今更そのことをとやかく言おうとは思っていない。 いくら仏の先生でも嫌いたくなる人はいるのだろう。 それが私だったというただそれだけの話だ。
この環境が辛くないといえば嘘になる。 裏で言われ続ける悪口に耐えられるほど私は強くない。むしろ一年も我慢したのだ、褒めてもらいたいぐらいだ。
そんな生活ももう終わりだ。私は今、退職届を持っている。これをそのまま看護師長のいるという部屋に持っていけばいい、それだけの話。
そう、それだけの話……のはずだった。 部屋のドアを開けると、私は自分の目を疑った。
今、私の目の前にいるのは誰だ? 背が高くて長髪で、白衣を着て私の目の前にいる人、それは間違いなく神宮寺寂雷。 私の退職の根本的原因の人だった。
「どうしたのですか」
落ち着いたバリトンボイスが聞こえる。 だが、それは此方が聞きたいことだ。 どうして貴方がここにいるのか。 私は驚きで声も出なかった。
「とりあえずドアを閉めたらどうですか」
『は、はい』
私の声は大丈夫だろうか、裏返ってないだろうか。 何せ始めてこのように二人きりの場で話すのだ。
今までは先生に気を使った看護師長が先生に対する私の担当時間を一切入れなかったし、先生の仕事はほとんど同僚に回していたからこのようなことは無かった。
何故、最後の最後にこういう自体になるのだろうか。 私はもしかしたら不幸の星の元に生まれてしまったのかもしれない。
「で、どうしてここに来たのですか」
『看護師長を探していたら、同僚がここにいると教えてくれたので』
「そうですか、何故探していたのですか」
これはなんだ、尋問か。 別に理由を教える筋合いはない、だがもう辞めるのだ。 言ってしまって問題はないだろう。
『退職届をだそうと思ったので』
「おや、それは残念なことですね」
嘘だ。残念なんて微塵も思っていないくせに。
『どうやら師長もいらっしゃらないようなので
私はこの辺でーー』
下がらせてもらいます、そう言うはずだった私の言葉は途切れた。
先生がいきなり立ち上がったのだ。 そしておもむろに近づいてきた。
怖い、何故かそう感じた。逃げた方がいい。頭が全力で警告してくる。でも、足が動かない。
「原因は私……ですかね」
そうだよ、その通りだよ。文句は出てくるのに依然として声は出ないし、体は動かない。絶対絶命とはこういうことを言うのか。
「きっと貴方は私が貴方のことを嫌いだと思っているんでしょうね」
自嘲気味に笑いながら先生は私の横を通り過ぎた。良かった、助かった。きっと先生はこのまま部屋をでる。これで終わりだ。
そう思ったときだった。 私は強い力で後ろから抱きしめられた。誰だか考えるまでもない。 ここには私と先生しかいない。
「私は貴方のことを愛しているのに」
『ひっ』
あいにく、私の口からは小さな悲鳴しかでなかった。愛している? 誰が誰を? 先生が私を? ありえない。なんの話だ。
生まれて初めて感じるような狂気や恐怖。 限界だ。 頭が酷く痛む。
「初めて見たときから自分のものにしたいと思っていたんですよ」
至って優しい声が上から降ってきた。 頭が逃げろ、と体に言ってくる。 それでも体は動きそうにない。 恐怖で涙が出てきた。
「泣かないで下さい。 私が言った言葉がそんなにも嬉しかったのですか」
『ち、違っ』
「でも、最初は大変でしたよ。 貴方に誰も近づかないように裏で手を回さなくてはならなかったんですから」
私がようやく出した否定の声は先生の強烈な告白によって掻き消された。 じゃあ、私が今まで苦しんだことは全部この男のせいなのか。 許せない。 意味が分からない。 何一つ理解できない。
「貴方が辞めるというのなら、私にとっても好都合です。 どうでしょう、このまま一緒に暮らしませんか」
『さ、先程から何を仰っているのかさっぱり分かりません』
「驚くのも無理はありませんね。 だからと言って貴方を手放すつもりはありませんよ」
突然のプロポーズのような発言。何を言ってるんだこの人は。しかも、私の疑問に対して先生は相変わらず斜め上の回答で返してくる。
逃げなければ。ようやく動くようになった体で抵抗を試みる。
「あぁ、暴れないで下さい。言ったでしょう、手放すつもりはないと」
そう言って先生はかなりの力で私を押さえつけた。身動が出来ない。
『は、離して下さいっ!』
「仕方のない人ですね、少し眠ってて下さい」
先生はそう言うとハンカチを取り出した。不味い、あれはヤバい奴だ。 必死の力で抵抗してみるが到底叶わない。私はそのままハンカチを顔に押し当てられた。
「おやすみなさい、名前」
朦朧とする意識の中で私が最後に見たのは、今まで見たこともなかった神宮寺寂雷の優しそうな笑顔だった。
一人は飴村乱数。 もう一人は、この私だ。
皆、一様に私が何かやらかしたからだと思っている。 でも、違う。 私は何もしていない。
なのに彼、神宮寺寂雷の私に対しての態度は酷い。 絶対に目を合わせてくれないし、話すときも眉間に皺がよっている。
初対面のときは違った。 新しく入った看護師として挨拶したとき、彼は皆に見せるのと同じ顔で私を見てくれた。
そして、その翌日から彼の態度が変わってしまったのだ。 会った次の日だ。 私の第一印象が悪かったとしか考えられない。
しかし私は至って普通の挨拶をしたはずだ。
初めまして、本日からこの病院で働くことになりました名字名前と申します。 これからよろしくお願いします。
これの何処がいけないのだ。 むしろ模範解答だろう。ここまで言えば分かるだろうが、本当に心当たりが無いのだ。
まぁ、私がいくら分からないと言っても噂好きな奴らは、私が先生を口説いた、とか先生に対して物凄く失礼なことをしたクズだ、とか裏で散々話している。 全く持って迷惑な話だ。
こんな愚痴ばっか言ってたって意味が無いことは分かっている。 でもその噂のせいで皆、私のことを避けるのだ。 愚痴の一つや二つくらい言ったって罰は当たらないはずだ。
だが、私は別に今更そのことをとやかく言おうとは思っていない。 いくら仏の先生でも嫌いたくなる人はいるのだろう。 それが私だったというただそれだけの話だ。
この環境が辛くないといえば嘘になる。 裏で言われ続ける悪口に耐えられるほど私は強くない。むしろ一年も我慢したのだ、褒めてもらいたいぐらいだ。
そんな生活ももう終わりだ。私は今、退職届を持っている。これをそのまま看護師長のいるという部屋に持っていけばいい、それだけの話。
そう、それだけの話……のはずだった。 部屋のドアを開けると、私は自分の目を疑った。
今、私の目の前にいるのは誰だ? 背が高くて長髪で、白衣を着て私の目の前にいる人、それは間違いなく神宮寺寂雷。 私の退職の根本的原因の人だった。
「どうしたのですか」
落ち着いたバリトンボイスが聞こえる。 だが、それは此方が聞きたいことだ。 どうして貴方がここにいるのか。 私は驚きで声も出なかった。
「とりあえずドアを閉めたらどうですか」
『は、はい』
私の声は大丈夫だろうか、裏返ってないだろうか。 何せ始めてこのように二人きりの場で話すのだ。
今までは先生に気を使った看護師長が先生に対する私の担当時間を一切入れなかったし、先生の仕事はほとんど同僚に回していたからこのようなことは無かった。
何故、最後の最後にこういう自体になるのだろうか。 私はもしかしたら不幸の星の元に生まれてしまったのかもしれない。
「で、どうしてここに来たのですか」
『看護師長を探していたら、同僚がここにいると教えてくれたので』
「そうですか、何故探していたのですか」
これはなんだ、尋問か。 別に理由を教える筋合いはない、だがもう辞めるのだ。 言ってしまって問題はないだろう。
『退職届をだそうと思ったので』
「おや、それは残念なことですね」
嘘だ。残念なんて微塵も思っていないくせに。
『どうやら師長もいらっしゃらないようなので
私はこの辺でーー』
下がらせてもらいます、そう言うはずだった私の言葉は途切れた。
先生がいきなり立ち上がったのだ。 そしておもむろに近づいてきた。
怖い、何故かそう感じた。逃げた方がいい。頭が全力で警告してくる。でも、足が動かない。
「原因は私……ですかね」
そうだよ、その通りだよ。文句は出てくるのに依然として声は出ないし、体は動かない。絶対絶命とはこういうことを言うのか。
「きっと貴方は私が貴方のことを嫌いだと思っているんでしょうね」
自嘲気味に笑いながら先生は私の横を通り過ぎた。良かった、助かった。きっと先生はこのまま部屋をでる。これで終わりだ。
そう思ったときだった。 私は強い力で後ろから抱きしめられた。誰だか考えるまでもない。 ここには私と先生しかいない。
「私は貴方のことを愛しているのに」
『ひっ』
あいにく、私の口からは小さな悲鳴しかでなかった。愛している? 誰が誰を? 先生が私を? ありえない。なんの話だ。
生まれて初めて感じるような狂気や恐怖。 限界だ。 頭が酷く痛む。
「初めて見たときから自分のものにしたいと思っていたんですよ」
至って優しい声が上から降ってきた。 頭が逃げろ、と体に言ってくる。 それでも体は動きそうにない。 恐怖で涙が出てきた。
「泣かないで下さい。 私が言った言葉がそんなにも嬉しかったのですか」
『ち、違っ』
「でも、最初は大変でしたよ。 貴方に誰も近づかないように裏で手を回さなくてはならなかったんですから」
私がようやく出した否定の声は先生の強烈な告白によって掻き消された。 じゃあ、私が今まで苦しんだことは全部この男のせいなのか。 許せない。 意味が分からない。 何一つ理解できない。
「貴方が辞めるというのなら、私にとっても好都合です。 どうでしょう、このまま一緒に暮らしませんか」
『さ、先程から何を仰っているのかさっぱり分かりません』
「驚くのも無理はありませんね。 だからと言って貴方を手放すつもりはありませんよ」
突然のプロポーズのような発言。何を言ってるんだこの人は。しかも、私の疑問に対して先生は相変わらず斜め上の回答で返してくる。
逃げなければ。ようやく動くようになった体で抵抗を試みる。
「あぁ、暴れないで下さい。言ったでしょう、手放すつもりはないと」
そう言って先生はかなりの力で私を押さえつけた。身動が出来ない。
『は、離して下さいっ!』
「仕方のない人ですね、少し眠ってて下さい」
先生はそう言うとハンカチを取り出した。不味い、あれはヤバい奴だ。 必死の力で抵抗してみるが到底叶わない。私はそのままハンカチを顔に押し当てられた。
「おやすみなさい、名前」
朦朧とする意識の中で私が最後に見たのは、今まで見たこともなかった神宮寺寂雷の優しそうな笑顔だった。