レオーネ+主人公♀

「えーっと、キミは一体何を……?」
 天の聖壇に訪れた英雄の少女は俺の隣に座り、わざわざ持参してきた握り飯を食べていた。そしてどこからか新たな握り飯を取り出して、俺に渡そうとする。
「スライムくんも食べる?」
「いや、遠慮しておくよ……」
「えー。おいしいのに」
「それよりもほら、エルドナ神から呼び出しがあったと言っただろう? 早く行かないと」
「うん、分かってる分かってる」
 少し前、彼女とフォステイルを光の神殿にある神々の間まで連れてくるように、とエルフの種族神であるエルドナ神からちょうど神託があったところだったのだ。
 それをあろうことか、彼女は自分の空腹を満たすことを優先している。しかしその太々しさが、彼女を英雄たらしめる要素のひとつなのかもしれない。そしてきっと、名も無きスライムと成り果てたこの身に欠けていた部分なのだろう。
「ねぇ、なんかまた難しいこと考えてない? 眉間にシワ寄ってるよ」
「はぁ? スライムに眉間なんてあるわけ無いだろ」
「……バレた?」
 そんな風にニッと笑う彼女は相変わらず太陽のように眩しくて、俺のような日陰者にとってはある意味で一種の暴力のように感じてしまう。
「とにかく、それを食べたら早速光の神殿に向かおうか……神を待たせるだなんて、ろくなことにならなそうだからな」
「うん。でもこうやってさ、あなたとのんびりご飯を食べながら、ゆっくりお話しをしてみたかったんだ」
「そんなの、後でもいいんじゃないか?」
「うーん。でもさ、そうやって先送りにして、気づいた頃には手遅れになってたら悲しくない?」
「——どうだか。少なくとも、わざわざ俺みたいなただのスライムとそんなことをする価値なんて、無いと思うけどな」
「えー? もう、分かってないなぁ」
 そうこうしてる間に最後の一口を咀嚼し終え、彼女は立ち上がる。そして——やっと聞き取れる声で呟いた。
「……きっと、分かんないんだろうな」
「え……?」
 予想外の言葉に困惑していると、彼女は振り返った。
「ほら、行こ!」
「あ、ああ」
 俺がぴょこぴょこと付いてきた姿を見て微笑む彼女に先程の言葉の意味を聞こうとして——とうとう最後まで、名も無き非力なスライムが、その真意を知ることはなかった。

◇◇◇

 地上からは見えない星もあるのだと幼い頃に教えてくれたのは、一体誰だっただろう。
 明るく大きな星の光は地上へと届くが、小さな星であればあるほど、そのか細い光は地上までは届かないらしい。
「——届かないのは、こっちの方なのに」
 草原に寝転がり、手を伸ばす。少し前まではすぐに触れられる距離にいたのに、随分と遠くに行ってしまったものだ。
 結局あたしは、あなたの心の深い部分には触れることが出来なかった。生まれてこなきゃよかったと言う悲観的なあなたが、生まれてきて良かったと思う理由のひとつに、あたしはどうしたら成れたのだろうか。
 そもそも、あたしには守るべきものが多すぎるのだ——分かってる。そんなこと、考えても仕方のないことだなんて。数多の守るべきもののうち、そのひとつやふたつ手の隙間からこぼれ落ちてしまっても、あたしはひたすら前だけを向いて突き進まなければならないのだから。そうなのだとしても——あなたをそのひとつになんか、したくはなかった。それでも今こうやって、数多の星々の中からあなたを見つけ出すことすら出来ないのだ。本当にちっぽけで、どうしようもない。
 胸の奥に深く刻まれたこの傷は、きっと癒えることはないのだろう。あなたを守れなかった後悔と共に、ずっとあたしの中に居座り続けていくんだ。
 でも——この空のどこか、確かに存在するその星に届くように祈りを捧げる。
 心に居座るその傷を、愛と呼ぶことが許されるのなら。あたしはこの一生をかけて、あなたへの愛を叫ぶと決めたのだ。
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