両片想いの主ポルシリーズ
「ねぇ隊長、聞いて聞いて!」
ポルテは随分と上機嫌な様子で、隊長の前に現れた。
「あのね、あたし……好きな人とお付き合いすることになったの!」
隊長は言葉を失う。
やっとの思いで、本当なのか?と声を絞り出すと、ポルテは頬を染めて頷いた。
「だから、もう隊長とは二人きりで会うのはやめようと思うんだ。ほら、心配させちゃうかもでしょ?」
「……そう、だな」
恋人を不安にさせまいとするポルテの優しさが、ひどく眩しい。それが自分に向けられたものだったら、どれほど良かっただろう。
自分の中で大きくなるポルテへの想いを、隊長は自覚していなかったわけではない。奪われる前に伝えていれば、こうはならなかったのだろうか。
ポルテ。僕だってお前のことを、ずっと。
「——!」
名前を呼ぼうとして、驚いた。ただ空気が抜けるだけで、その名を口に出すことが出来ない。
「……ごめんね。バイバイ、隊長」
喉に手を当てて困惑する隊長とは目も合わさずに、ポルテは背を向けて歩き出す。
隊長は遠くなっていく彼女を追いかけようとする。しかし、足もまともに動かすことができない。
ポルテ——もう一度叫ぶ。口だけが動いて、やはり声は出ない。
嫌だ。どこにも行かないでくれ——
「ポルテ!」
自分の声で目を覚ます。
目の前には木製の見慣れたテーブル。ここは——ポルテの家だ。
隊長は寝ぼけた頭で状況を思い出した。
ポルテは用事を済ませてくると言って出かけていた。そして戻るまでの間、少しだけ仮眠をしようとテーブルに突っ伏し、そのまま夢まで見ていたようだ。
ふと顔を上げると、先ほど夢の中で別れを告げたはずのポルテが、ぽかんと口を開けて立ちすくしていた。
「び、びっくりしたー。急にどうしちゃったの?」
「いや、別に……」
「別にって……あたしが出てくる夢でも見た?」
隊長は言葉に詰まってしまった。実際そうなのだが、言えるわけがない。
恋人が出来たからもう会えないと言われた。それが嫌で、名前を呼んだ——なんて。
それに、口に出してしまえば本当になってしまいそうな気さえする。それだけは勘弁してほしかった。
「……あー、何だったかな。覚えてない」
「えっ? めちゃくちゃ叫んでたよね? 『ポルテェ〜!』って」
ポルテは口を尖らせて、極力情けない声色で真似をしてみせた。
「待て。そんな声で呼んでなかっ——あ、いや、だから……」
「あやしい……」
ポルテは訝しげな表情のまま、隊長の対面にあった椅子に腰掛ける。
「え、何……? もしかしてあたしに言えないような夢を……」
「おい、勝手にちょっと引くな! ところで——その、あれだ。好きなヤツとやらと、進展はあったのか」
「あ、こら。話変えない。その話なら前も言ったじゃん。進展なんて無いって」
ポルテは頬杖をついて、ため息を吐いた。
「今のままでもいい気がしてきちゃったんだよね。万が一フラれたら、会いにくくなっちゃいそうだし……」
それを聞いた隊長は、自分の胸の奥に暗い感情が湧き出たことに戸惑った。
「え、話聞いてる?」
ポルテは隊長の顔を覗き込む。
言えない。いっそフラれて、会いにくくなってしまえばいいなんて。
「ああ、聞いてるよ。フラれたら慰めてやるから安心しろ」
「えぇー何それ。フラれる前提なのヒドくない? でも多分、隊長に慰めてもらうのは無理かもなぁ」
「……どうしてだ?」
「ど、どうしてって——」
ポルテは困ったような表情を浮かべ、うーんと唸りながら腕を組んだ。
「それは、言えない」
「何でだよ。そもそもまだ名前すら知らないんだぞ。この間話したメレアーデだけならまだしも、エステラまで知ってるらしいじゃないか」
「そ、それは……」
「今さら隠す必要なんてないだろ。別にソイツが僕自身だって言うんじゃあるまい……し……。え……?」
「……あ」
「おい、冗談だろ」
ポルテは返事をする代わりに顔がみるみる赤くなっていく。隊長が聞くまでもなく、それが図星だというように。
しばらくまごまごしていたポルテは、耳まで赤くしながら隊長に反撃する。
「そ、そもそも隊長だって! どうしてそんなに気になるの!? 隊長の方こそ、あたしのこと好きみたいじゃん!」
「……だったら何なんだよ! 別に良いだろ!」
「えっ……!? えぇっ!?」
ポルテが勢いよく立ち上がり、座っていた椅子は音を立てて転がった。一方の隊長は、勢いで口が滑ってしまったことを悔やむように、テーブルに顔を突っ伏している。
「隊長は……あたしが、す、好きなの……?」
ポルテは恐る恐る言葉を紡ぐ。まるで自分の心臓の音が聞こえてきそうだ。突っ伏したままの隊長は、しばらくの沈黙の後——小さく頷いた。
「そう、だったんだ。そっかぁ……」
震え始めたポルテの声に、隊長はギョッとして顔を上げた。
「お、おい……。どうして泣いて……」
「だってぇ……絶対無理だって思ってたから……。ぐずっ、隊長、そういう感情無さそうなんだもん……」
「泣きながら失礼なこと言うな。ほら、涙拭け」
近くにあったちり紙を手渡すと、ポルテは涙を拭う。そして大きく深呼吸をすると、隊長の傍に立った。
「隊長、あのね」
「これは——僕も立った方がいいのか?」
「……任せる。とりあえず雰囲気壊すのだけはやめて」
「わ、悪い」
隊長は迷って、結局椅子を引いて立ち上がった。ポルテは咳払いをして、隊長を見上げる。
「隊長、好きです。あたしとお付き合いしてください!」
ポルテはそう言って、勢いよくお辞儀をする。それが夢ではないことを噛み締めながら、隊長は短く返事をした。
「ああ」
ポルテは顔を上げ、また泣き出しそうな顔をして——ふと、眉間に皺を寄せた。
「……待って。思い切って告白した女の子に、『ああ』ってどうかと思う」
「えぇ……。じゃあ何て言えと……」
「『ボクもキミが好きだ!』とか、もっと何かあるでしょ」
「はぁ……。じゃあ、ちょっと目閉じろ」
ぽかんとしたポルテに、隊長が早くしろと促す。目をギュッと瞑ったのを確認すると、隊長は顔を近づけ——ポルテは、頬に感じた感触に、すぐに目を見開いた。
「え、あ、た、たいちょ……」
触れられた頰が熱い。それが一体何だったのか、ポルテは信じられずに隊長の顔を覗き込む。
「……今の僕には、これが限界」
そこには、見たことのないくらい顔を真っ赤に染めた、大好きな人がいた。
「えっと……もう一回お願い」
「……無理」
ポルテは随分と上機嫌な様子で、隊長の前に現れた。
「あのね、あたし……好きな人とお付き合いすることになったの!」
隊長は言葉を失う。
やっとの思いで、本当なのか?と声を絞り出すと、ポルテは頬を染めて頷いた。
「だから、もう隊長とは二人きりで会うのはやめようと思うんだ。ほら、心配させちゃうかもでしょ?」
「……そう、だな」
恋人を不安にさせまいとするポルテの優しさが、ひどく眩しい。それが自分に向けられたものだったら、どれほど良かっただろう。
自分の中で大きくなるポルテへの想いを、隊長は自覚していなかったわけではない。奪われる前に伝えていれば、こうはならなかったのだろうか。
ポルテ。僕だってお前のことを、ずっと。
「——!」
名前を呼ぼうとして、驚いた。ただ空気が抜けるだけで、その名を口に出すことが出来ない。
「……ごめんね。バイバイ、隊長」
喉に手を当てて困惑する隊長とは目も合わさずに、ポルテは背を向けて歩き出す。
隊長は遠くなっていく彼女を追いかけようとする。しかし、足もまともに動かすことができない。
ポルテ——もう一度叫ぶ。口だけが動いて、やはり声は出ない。
嫌だ。どこにも行かないでくれ——
「ポルテ!」
自分の声で目を覚ます。
目の前には木製の見慣れたテーブル。ここは——ポルテの家だ。
隊長は寝ぼけた頭で状況を思い出した。
ポルテは用事を済ませてくると言って出かけていた。そして戻るまでの間、少しだけ仮眠をしようとテーブルに突っ伏し、そのまま夢まで見ていたようだ。
ふと顔を上げると、先ほど夢の中で別れを告げたはずのポルテが、ぽかんと口を開けて立ちすくしていた。
「び、びっくりしたー。急にどうしちゃったの?」
「いや、別に……」
「別にって……あたしが出てくる夢でも見た?」
隊長は言葉に詰まってしまった。実際そうなのだが、言えるわけがない。
恋人が出来たからもう会えないと言われた。それが嫌で、名前を呼んだ——なんて。
それに、口に出してしまえば本当になってしまいそうな気さえする。それだけは勘弁してほしかった。
「……あー、何だったかな。覚えてない」
「えっ? めちゃくちゃ叫んでたよね? 『ポルテェ〜!』って」
ポルテは口を尖らせて、極力情けない声色で真似をしてみせた。
「待て。そんな声で呼んでなかっ——あ、いや、だから……」
「あやしい……」
ポルテは訝しげな表情のまま、隊長の対面にあった椅子に腰掛ける。
「え、何……? もしかしてあたしに言えないような夢を……」
「おい、勝手にちょっと引くな! ところで——その、あれだ。好きなヤツとやらと、進展はあったのか」
「あ、こら。話変えない。その話なら前も言ったじゃん。進展なんて無いって」
ポルテは頬杖をついて、ため息を吐いた。
「今のままでもいい気がしてきちゃったんだよね。万が一フラれたら、会いにくくなっちゃいそうだし……」
それを聞いた隊長は、自分の胸の奥に暗い感情が湧き出たことに戸惑った。
「え、話聞いてる?」
ポルテは隊長の顔を覗き込む。
言えない。いっそフラれて、会いにくくなってしまえばいいなんて。
「ああ、聞いてるよ。フラれたら慰めてやるから安心しろ」
「えぇー何それ。フラれる前提なのヒドくない? でも多分、隊長に慰めてもらうのは無理かもなぁ」
「……どうしてだ?」
「ど、どうしてって——」
ポルテは困ったような表情を浮かべ、うーんと唸りながら腕を組んだ。
「それは、言えない」
「何でだよ。そもそもまだ名前すら知らないんだぞ。この間話したメレアーデだけならまだしも、エステラまで知ってるらしいじゃないか」
「そ、それは……」
「今さら隠す必要なんてないだろ。別にソイツが僕自身だって言うんじゃあるまい……し……。え……?」
「……あ」
「おい、冗談だろ」
ポルテは返事をする代わりに顔がみるみる赤くなっていく。隊長が聞くまでもなく、それが図星だというように。
しばらくまごまごしていたポルテは、耳まで赤くしながら隊長に反撃する。
「そ、そもそも隊長だって! どうしてそんなに気になるの!? 隊長の方こそ、あたしのこと好きみたいじゃん!」
「……だったら何なんだよ! 別に良いだろ!」
「えっ……!? えぇっ!?」
ポルテが勢いよく立ち上がり、座っていた椅子は音を立てて転がった。一方の隊長は、勢いで口が滑ってしまったことを悔やむように、テーブルに顔を突っ伏している。
「隊長は……あたしが、す、好きなの……?」
ポルテは恐る恐る言葉を紡ぐ。まるで自分の心臓の音が聞こえてきそうだ。突っ伏したままの隊長は、しばらくの沈黙の後——小さく頷いた。
「そう、だったんだ。そっかぁ……」
震え始めたポルテの声に、隊長はギョッとして顔を上げた。
「お、おい……。どうして泣いて……」
「だってぇ……絶対無理だって思ってたから……。ぐずっ、隊長、そういう感情無さそうなんだもん……」
「泣きながら失礼なこと言うな。ほら、涙拭け」
近くにあったちり紙を手渡すと、ポルテは涙を拭う。そして大きく深呼吸をすると、隊長の傍に立った。
「隊長、あのね」
「これは——僕も立った方がいいのか?」
「……任せる。とりあえず雰囲気壊すのだけはやめて」
「わ、悪い」
隊長は迷って、結局椅子を引いて立ち上がった。ポルテは咳払いをして、隊長を見上げる。
「隊長、好きです。あたしとお付き合いしてください!」
ポルテはそう言って、勢いよくお辞儀をする。それが夢ではないことを噛み締めながら、隊長は短く返事をした。
「ああ」
ポルテは顔を上げ、また泣き出しそうな顔をして——ふと、眉間に皺を寄せた。
「……待って。思い切って告白した女の子に、『ああ』ってどうかと思う」
「えぇ……。じゃあ何て言えと……」
「『ボクもキミが好きだ!』とか、もっと何かあるでしょ」
「はぁ……。じゃあ、ちょっと目閉じろ」
ぽかんとしたポルテに、隊長が早くしろと促す。目をギュッと瞑ったのを確認すると、隊長は顔を近づけ——ポルテは、頬に感じた感触に、すぐに目を見開いた。
「え、あ、た、たいちょ……」
触れられた頰が熱い。それが一体何だったのか、ポルテは信じられずに隊長の顔を覗き込む。
「……今の僕には、これが限界」
そこには、見たことのないくらい顔を真っ赤に染めた、大好きな人がいた。
「えっと……もう一回お願い」
「……無理」
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