両片想いの主ポルシリーズ
「隊長の手って、大きいよね。ふふっ、水かきもあるし」
ポルテは食べ終わった食器が並ぶテーブルの上に腕を伸ばし、僕の手のひらを自身の手のひらに重ね合わせるように促した。
一瞬ためらったものの、きっとまた特に意味の無い思いつきなのだろうと思い直して促されるままに手のひらを重ねた。
ポルテの手は温かくてホッとする——なんて、柄にもないことを口にしそうになり、代わりに咳払いをした。
「これは僕の……というより、僕に身体を貸してくれてるコイツの手なんだけど……」
おそらく、この状況での最適解はこの返しではない。
それこそ、この身体の元の持ち主だったら、もっと気の利いたことを言って場を盛り上げたに違いない。
「うーん、やっぱり実感湧かないんだよねぇ。他の人の身体に魂ごと乗り移ってるだなんてさ」
「人のことを幽霊みたいに言うなよ」
実際のところ、幽霊のようなものなのかもしれない。
僕は彼のように上手く笑えない。場の空気を明るくしたりもできない。ヒューザにも「人相って変わるもんなんだな」と微妙な顔をされたし。
「え、ごめん。そんなに嫌だった?」
「ん?」
「隊長、また難しそうな顔してるから……」
ポルテは心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「ああ、いや。気にしないでくれ」
「本当に?」
見透かしていたように、ポルテは先ほどからずっと重ねていた手の指を曲げ、僕の手に絡めた。
今ので脈が早くなったことが、ポルテに気づかれなければいいけれど。
「本当だって。ほら、もう食べ終わったなら——」
ポルテの手を解いて、テーブルの上の伝票を手に取ったその時だった。
「すみませーん! 追加で特製シャイニーメロンパフェ二つくださーい!」
「あっ! おいこら、勝手に……!」
「安心して! 今日はあたしの奢りっ!」
「いや、そうじゃなくてさ」
「隊長、なんか甘いもの食べたいって顔してたから」
「どんな顔だ。全く、自分が食べたいだけだろ」
僕がため息交じりに言うと、ポルテはバレたか、とニヤリと笑った。
「だってさ。ここのパフェ美味しいんだもん。それに……」
「それに?」
「隊長と、まだ話したかったし」
ポルテは今日一番の笑顔で僕を見つめた。ああ眩しい。彼女の動きに合わせて触覚のような赤毛が揺れる。
別に、特別楽しい話が出来るわけじゃない。なのにどうして、ポルテは僕と話したいだなんて言うのだろう。
少しむず痒くなって、空のグラスに入った氷をストローでつついて気を紛らわした。
「まぁ……うん。別に良いけどさ」
ポルテに振り回されるのは、別に嫌なわけではない。むしろ好きな方だ。でも、最近は妙に落ち着かない。
今までだって、当たり前のように食事に誘われてあちこち連れて行かれていたし、そこでたわいもない話をたくさんした。
だけどこんな風に、ポルテは自分と話していて楽しいかとか、もしも元の身体の持ち主だったらとか、そんなことを考えたことは一度もなかったのだ。
それが今ではこの有り様だ。自分でも、よくもまぁこんなに次から次へと不安が湧いてくるなと思う。
それと同じくらい、ポルテと会う日が待ち遠しくなっている自分もいるのがまた厄介だ。これではまるで、ポルテのことが——
溶けかけた氷をストローで転がして、うっかり答えが導き出されそうになったのを有耶無耶にした。
そこに店員がやってきて、空になった食器をすっかり片付けていったのだった。僕はあっという間に手持ち無沙汰になってしまった。
「ねぇ、隊長。今日本当に何かおかしくない?」
「そ、そうか?」
「うーん、なんていうか……心ここに在らず、みたいな。何かあったの?」
「いや、別に大したことじゃ——」
雑にはぐらかしたところで、引き下がるポルテではない。
依然訝しげな表情で見つめてくるので、咄嗟に口を開いた。
「えぇっと——元の身体のアイツがもしもあの日死なずに生きていたらって最近よく考えるんだ」
——嘘はついていない。実際、そう考えることが増えたのだから。その理由は絶対ポルテには言えないけど。
「もしかしたらさ、こうやってポルテといたのは僕じゃなかったのかもしれないとか、考えたりして……」
「隊長……」
「そんな顔するなよ。きっと僕と話すよりもずっと楽しい奴なんだ」
「え、それって……」
「お待たせしましたー。特製シャイニーメロンパフェでございます」
僕の言葉に動揺したポルテが何か言い終わる前に、店員がずっしりとしたパフェを二つ運んできた。
ポルテが目を泳がせながら店員に会釈をしているので、自分が完全に話題を見誤ったことを悟った。
「よ、よし。とりあえず食べるか」
「う、うん! いっただっきまーす!」
白々しく誤魔化して、パフェに視線を移す。
それこそアイツは、甘いものは好きだっただろうか。そもそもあの小さな村にいて、シャイニーメロンのパフェなんて見たことすらなかっただろうけど。
「ねぇねぇ隊長」
「ん?」
「おいしいね」
「ああ、やっぱり素材が良いからな」
「それもだけど——あたしはやっぱり隊長と食べてるからおいしいんだと思う!」
ポルテはそう言うと、パフェに乗ったメロンを頬張った。
「あたしはね、他の誰かじゃなくて隊長が一緒だから、パフェもおいしいし、楽しいんだよ。それだけは覚えてて! 絶対ね!」
「……はいはい」
良かった。素直にそう思った。
頬にクリームを付けたポルテの目の前にいるのが、アイツじゃなくて僕で良かった。
そう思った時、僕はやっと自分の気持ちを受け入れられた気がした。
ふ、と笑みが溢れる。長細いスプーンでクリームを掬って口に含むと、なめらかな舌触りと甘さが口いっぱいに広がる。
胸焼けすらも愛おしい。
きっとそれは、ポルテがいるからだ——なんて、口に出したらどんな顔をするだろう。
顔を上げると、頬を赤く染めたポルテが微笑んだ。
ポルテは食べ終わった食器が並ぶテーブルの上に腕を伸ばし、僕の手のひらを自身の手のひらに重ね合わせるように促した。
一瞬ためらったものの、きっとまた特に意味の無い思いつきなのだろうと思い直して促されるままに手のひらを重ねた。
ポルテの手は温かくてホッとする——なんて、柄にもないことを口にしそうになり、代わりに咳払いをした。
「これは僕の……というより、僕に身体を貸してくれてるコイツの手なんだけど……」
おそらく、この状況での最適解はこの返しではない。
それこそ、この身体の元の持ち主だったら、もっと気の利いたことを言って場を盛り上げたに違いない。
「うーん、やっぱり実感湧かないんだよねぇ。他の人の身体に魂ごと乗り移ってるだなんてさ」
「人のことを幽霊みたいに言うなよ」
実際のところ、幽霊のようなものなのかもしれない。
僕は彼のように上手く笑えない。場の空気を明るくしたりもできない。ヒューザにも「人相って変わるもんなんだな」と微妙な顔をされたし。
「え、ごめん。そんなに嫌だった?」
「ん?」
「隊長、また難しそうな顔してるから……」
ポルテは心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「ああ、いや。気にしないでくれ」
「本当に?」
見透かしていたように、ポルテは先ほどからずっと重ねていた手の指を曲げ、僕の手に絡めた。
今ので脈が早くなったことが、ポルテに気づかれなければいいけれど。
「本当だって。ほら、もう食べ終わったなら——」
ポルテの手を解いて、テーブルの上の伝票を手に取ったその時だった。
「すみませーん! 追加で特製シャイニーメロンパフェ二つくださーい!」
「あっ! おいこら、勝手に……!」
「安心して! 今日はあたしの奢りっ!」
「いや、そうじゃなくてさ」
「隊長、なんか甘いもの食べたいって顔してたから」
「どんな顔だ。全く、自分が食べたいだけだろ」
僕がため息交じりに言うと、ポルテはバレたか、とニヤリと笑った。
「だってさ。ここのパフェ美味しいんだもん。それに……」
「それに?」
「隊長と、まだ話したかったし」
ポルテは今日一番の笑顔で僕を見つめた。ああ眩しい。彼女の動きに合わせて触覚のような赤毛が揺れる。
別に、特別楽しい話が出来るわけじゃない。なのにどうして、ポルテは僕と話したいだなんて言うのだろう。
少しむず痒くなって、空のグラスに入った氷をストローでつついて気を紛らわした。
「まぁ……うん。別に良いけどさ」
ポルテに振り回されるのは、別に嫌なわけではない。むしろ好きな方だ。でも、最近は妙に落ち着かない。
今までだって、当たり前のように食事に誘われてあちこち連れて行かれていたし、そこでたわいもない話をたくさんした。
だけどこんな風に、ポルテは自分と話していて楽しいかとか、もしも元の身体の持ち主だったらとか、そんなことを考えたことは一度もなかったのだ。
それが今ではこの有り様だ。自分でも、よくもまぁこんなに次から次へと不安が湧いてくるなと思う。
それと同じくらい、ポルテと会う日が待ち遠しくなっている自分もいるのがまた厄介だ。これではまるで、ポルテのことが——
溶けかけた氷をストローで転がして、うっかり答えが導き出されそうになったのを有耶無耶にした。
そこに店員がやってきて、空になった食器をすっかり片付けていったのだった。僕はあっという間に手持ち無沙汰になってしまった。
「ねぇ、隊長。今日本当に何かおかしくない?」
「そ、そうか?」
「うーん、なんていうか……心ここに在らず、みたいな。何かあったの?」
「いや、別に大したことじゃ——」
雑にはぐらかしたところで、引き下がるポルテではない。
依然訝しげな表情で見つめてくるので、咄嗟に口を開いた。
「えぇっと——元の身体のアイツがもしもあの日死なずに生きていたらって最近よく考えるんだ」
——嘘はついていない。実際、そう考えることが増えたのだから。その理由は絶対ポルテには言えないけど。
「もしかしたらさ、こうやってポルテといたのは僕じゃなかったのかもしれないとか、考えたりして……」
「隊長……」
「そんな顔するなよ。きっと僕と話すよりもずっと楽しい奴なんだ」
「え、それって……」
「お待たせしましたー。特製シャイニーメロンパフェでございます」
僕の言葉に動揺したポルテが何か言い終わる前に、店員がずっしりとしたパフェを二つ運んできた。
ポルテが目を泳がせながら店員に会釈をしているので、自分が完全に話題を見誤ったことを悟った。
「よ、よし。とりあえず食べるか」
「う、うん! いっただっきまーす!」
白々しく誤魔化して、パフェに視線を移す。
それこそアイツは、甘いものは好きだっただろうか。そもそもあの小さな村にいて、シャイニーメロンのパフェなんて見たことすらなかっただろうけど。
「ねぇねぇ隊長」
「ん?」
「おいしいね」
「ああ、やっぱり素材が良いからな」
「それもだけど——あたしはやっぱり隊長と食べてるからおいしいんだと思う!」
ポルテはそう言うと、パフェに乗ったメロンを頬張った。
「あたしはね、他の誰かじゃなくて隊長が一緒だから、パフェもおいしいし、楽しいんだよ。それだけは覚えてて! 絶対ね!」
「……はいはい」
良かった。素直にそう思った。
頬にクリームを付けたポルテの目の前にいるのが、アイツじゃなくて僕で良かった。
そう思った時、僕はやっと自分の気持ちを受け入れられた気がした。
ふ、と笑みが溢れる。長細いスプーンでクリームを掬って口に含むと、なめらかな舌触りと甘さが口いっぱいに広がる。
胸焼けすらも愛おしい。
きっとそれは、ポルテがいるからだ——なんて、口に出したらどんな顔をするだろう。
顔を上げると、頬を赤く染めたポルテが微笑んだ。
1/3ページ
