明け星と踊れば

 新たな大魔王が即位し、その大いなる力によって大魔瘴期は終わりを迎え——魔界には平和が訪れた。そのはずだった。
 貴族の家庭で育った身からすれば、いっそ滅んでくれてもよかったとすら思う。大魔瘴期の間には自粛されていた、縁談だの何だのといった煩わしい話が、また舞い込むようになったからだ。
 それらはまさしく——彼女たちにとって第二の大魔瘴期といっても過言ではなかった。

「どうしても、この中から未来の旦那様を選ばなくてはいけないのかしら……」

 令嬢は縁談を持ちかけてきた貴族の写真の束をテーブルに乱雑に置いて、深いため息をついた。

「仕方がないじゃない。わたくしたちが貴族の娘である限り、より良いお家柄の殿方に嫁ぐことが一番の使命なのよ」

 そう言って、もう一人の令嬢がテーブルに散らばった写真を拾い集めた。写真の上下を気にする気はさらさら無いようで、案外適当にまとめていく。そして言葉とは裏腹に、写真は伏せたままでほとんど目に入らないよう隅に置かれた。

「使命ってそんな……あなた、それで平気なの?」
「な、何よ。当たり前じゃない」
「そうかしら。もう写真も見たくもないって、お顔に書いてありますけど」
「……ああもう。イヤに決まってるじゃない。本当は……本当は絶対にイヤ。大体あの殿方たち、わたくしたちよりずぅっと年上よ? それに、お人柄もお顔も随分と……いいえ、とっても醜い方たちばかりよ。あの中のどなたかと、わたくしたちが? あぁ……考えただけで寒気がしますわ」
「醜いって……ぷっ、ふふふ! 言い過ぎよ!」
「それくらい言わないと、気がおさまらないんだもの」

 二人はクスクスと笑い合う。けれど、目の前に迫る避けられない未来に、また表情を曇らせた。

「わたくしたちも、大魔王様みたいに強ければ——こんなことを悩むこともなかったのかしら」
「どうかしら。でも——そうですわね。あの方ならきっと、このまま言いなりになんてなるわけがありませんわ」
「わたくしたちにも……できるかしら」
「……ええ。大魔王様がせっかくわたくしたちを大魔瘴期から救ってくださったんですもの。次はわたくしたちが立ち上がる番。そうでしょう?」

 令嬢たちは顔を見合わせ、大きく頷く。
 例えそれが茨の道だとしても——二人はひとつも怖くはなかった。
 きっとあの一番星を追っていけば、そこに今とは違う風景があるはずだから。

「そうだわ! アスバル様主催の舞踏会のお話、あなたも聞きまして?」
「ええ、確か大魔王様も……」

 二人は顔を見合わせ、無邪気に笑った。
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