アスバル×主人公♀

「ぶぇっくしょん!!!」

 大魔王のかわいげのないくしゃみが辺りに響き渡り、ニット帽の先端に付いた毛玉が揺れる。カバンから取り出したちり紙で鼻をかんでいる表情からは、一刻も早く帰りたいという感情が滲み出ていた。

「すごいよレイジバルス! ついに完成だ!」

「ユ、キ!! ヴアァァ!!」

 身体をさすりながら縮こまっている大魔王とは対照的に、アスバルとレイジバルスは無邪気に雪遊びに勤しんでいるのだった。

「大魔王〜! ほらほら、見てごらんよ!」

 アスバルが大きく手を振って呼ぶと、少し離れた場所で見守っていた大魔王は、手袋を付けた両手をこすり合わせながら歩いてきた。

「すごいじゃん。こんなに大きいの、初めて見た」

 得意げなアスバル達の背後には、レイジバルスと同じくらいの背丈の雪だるまがそびえ立っている。
 そんな大きさなので、見てごらんと言われなくても先ほどからばっちり目には入っていたのだけれど。
 二人が作っている最中、大魔王はどんどん大きくなる雪玉を見ながら、このままランドン山脈の雪を全て取り込んでしまうのではと気が気で無かったほどだ。

 アストルティアで雪遊びがしたい——大魔王がゼクレス城を訪れた時、国の情勢の話などよりも先にそんな無邪気な提案がアスバルの口から飛び出した。ゼクレスで執務をこなすだけの日々によほど退屈しているんだと察した大魔王は、すぐに彼を連れ出したのだ。
 アスバルはレイジバルスにも雪を見せてあげたいというので、人里から離れたランドン山脈の奥地まで足を運んだ。これなら、魔族の男と包帯ぐるぐる巻きの巨人が雪遊びに興じていても怖がられる心配はないだろう。——改めて考えると、すごい絵面である。
 ただし難点が一つ。温暖な気候のエテーネ村で育った大魔王は、寒さにすこぶる弱かった。

「うぅ、それにしてもやっぱり寒い……」

 立派な雪だるまを見上げても、さっそく二体目の作成に取り掛かろうとしている元気な二人の背を目で追っても、身体が暖かくなるわけでもなく。大魔王が相変わらず震えていると、アスバルはそれに気づいて声をかけた。

「大魔王、大丈夫かい?」

 雪玉を作りに夢中になっているレイジバルスを横目に見て微笑んだ後、アスバルは自身の巻いていたマフラーを大魔王の首元に巻いた。

「きっと、動いた方が暖かくなるんじゃないかな? 君も僕たちと一緒に雪だるまを作ろうよ」

「うぅ、じゃあ一緒に作ってみよう……かな?」

「じゃあ僕たちは、頭の部分を作ろうか。レイジバルスが転がしている方を胴体にしたら、ちょうどよさそうだ」

 レイジバルスがせっせと転がしている雪玉は、既にエルフの背丈ほどの大きさに成長している。これは負けていられないとアスバルが鼻息を荒くすると、途中まで作っていた雪玉を大魔王と二人で転がし始めた。

「これ、結構、重労働だね……ちょっと温まってきたかも」

 しばらく転がして、雪玉はようやくドワーフの身長ほどの大きさになった。

「それは良かった! さあ、もう一踏ん張りだよ大魔王」

 アスバルの言葉に頷き、大魔王が再び雪玉を転がそうとしたその時。

「う、わぁ!」

 大魔王が足を滑らせ、派手につまずいた。そのまま地面に倒れてしまう——と、ぎゅっと目を瞑る。しかし次の瞬間、大魔王は思いがけない感触に驚いて目を見開いた。

「!! アスバル!? 大丈夫!?」

 驚くのも無理はない。大魔王が倒れた時、咄嗟に庇ってアスバルが下敷きになっていたのだ。

「ふう、どうにか受け止められた。大魔王、ケガはない?」

 戸惑いながらも大魔王は頷く。倒れ込んだ二人を心配して、レイジバルスも雪玉そっちのけでかけつけた。

「ダイ、ジョブ?」

「ふふ、レイジバルスもありがとう」

「ご、ごめんね。すぐに退くから——わぁっ」

 上体を起こして退こうとする大魔王を、アスバルが抱き寄せる。

「ねえ、ちょっとだけ。ちょっとだけこのままでいさせて」

「えっえぇ……? 駄目だよ、冷たいでしょ?」

「ううん、冷たくも寒くもないよ」

 アスバルの目の前に広がるのは、分厚い雲に覆われたアストルティアの空。気づけばいつの間にかはらはらと雪が降り始めていた。
 それでもアスバルは、本当に寒くなかった。むしろ、先ほどからずっと熱いくらいで。

「大好きな世界の雪を見ることができて、大好きな友だちと雪遊びをして——ふふ、それに何より」

 アスバルは大魔王をより強く抱きしめる。

「大好きな人が、今僕の胸の中にいる。こんなに幸せなことって、他にあると思うかい?」

「……もう、何言ってるの」

「ふふ。あーあ、ずっとこのままでいたいなぁ」

 大魔王が返事に困っていると、一人でせっせと雪だるま作りを続けていたレイジバルスが我慢の限界を迎えたのか、声を上げた。

「ユキ! ユキ!」

「おっと、ごめんよレイジバルス。君を放っておいてしまって悪かったね」

「そうだよ、全くもう。レイジバルスもいるのにこんな……え?」

 耳まで真っ赤にしながらブツブツと文句を言っていた大魔王は、雪だるまの方を見て思わず言葉を失った。レイジバルスは、二体目の雪だるまを完成させていたのだ——大魔王とアスバルが、二人だけの世界に入っている間に。

「もしかして、僕たちを作ってくれたのかい?」

 一体目の雪だるまの頭には、意外に器用なレイジバルスの手によって二本の角が付け加えられた。そしてすぐ隣に寄り添うように並べられた二体目の雪だるまの頭上には、大魔王のニット帽に似た、先端に玉の付いた三角錐が載せられている。

「フタリ、ズット、イッショ!!」

「ふふ、うん。ずっと一緒だよね、大魔王?」

「もう、しょうがないなぁ」

 照れ隠しにそう呟いた大魔王は、つがいのように仲良く並んだ雪だるまを見上げて微笑んだ。そういうことなら、雪だるまはもう一体必要だ。

「よぉし、レイジバルス! きみの分も作っちゃお、一番おっきいの!」

「ヤッタ! ヤッタ!」

 地響きと共にレイジバルスが咆哮にも似た歓喜の雄叫びを上げると、大魔王は腕まくりをした。

「大魔王、がんばっちゃうぞぉ!」

 大魔王は拳を高く掲げると、近くの雪をかき集め始めた。それを見ていたレイジバルスも別のところで雪玉作りに取り掛かる。そしてアスバルは——

「大魔王!」

 不意にアスバルに呼び止められて振り返ると、大魔王の唇に柔らかなものが触れる——それは、アスバルから大魔王に送られた口付けだった。

「〜〜〜!!」

「さ、レイジバルスのところにいこう」

 真っ赤になった大魔王の手を引きながら、とぼけた表情をしながらアスバルはこっそりウインクをする。
 身も心もすっかり温まった大魔王の手は、寒空の下とは思えないほど熱かった。
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