その他

「エンスウさーーん」

 山奥の開けた場所で、師の名を叫ぶ。返事は無く、自分の声が反響するばかりだ。
 高い場所にある木の実を採ってくると言って飛び立ったきり、姿が見えなくなってしまった。普段なら、しばらくしたら戻ってくる——なんて呑気に考えて、特に焦りもしなかったのに。
 この間、どうして鳥の寿命だなんて調べてしまったのだろう。こんな僅かな時間でさえ、大きな不安が募ってしまう。

「一体どこに……痛っ!」

 頭に何か硬いものが当たって見上げると、そこには何かを咥えた山吹色の鳥——師父がいた。
 いつものように両手を合わせて広げると、そこに師父が降り立つ。咥えている木の実を置くと、申し訳なさそうにこちらを見上げた。

「すまない、痛かったろう? 持ちきれなくて落としてしまった」

 師父はぴょんと肩に飛び乗ると、それから器用に頭に渡り、木の実が当たったあたりをくちばしでついばんだ。

「ふふっ、くすぐったいです」

 身をよじりながら、師父の近くに片手を持っていく。そこに小さな足が留まったのを確認すると、その手を目の前に持ってきた。

「だけど、ちょっと戻ってくるのが遅すぎませんか?」
「おや——ふむ。なるほど」

 師父は返事の代わりに羽根を広げると、何か物思いに耽るように周りを旋回した。それからまた手に留まり、こちらを向いた。

「今のお前は、昔の私と同じなんだね」

 どういうことですか?と首を傾げると、師父は続けた。

「お前は、私に先立たれるのを恐れている。違うかい?」

 何も返せずに小さな瞳を見つめていると、師父はその場で二、三回跳ねた。まるで、幼子をあやす手のように。

「悲しむ必要はない。私はお前に出会って、やっと気づいたんだ。いつか来る別れを考えるよりも——今こうやって、目の前にいるお前と過ごす時間を大切にすべきだってね」
「でも、大切にしていたっていつかは——」
「そうだ。いつかは別れが来る。だけど、その人と過ごした思い出が多ければ多いほど、不思議と寂しくなくなるものさ。全く寂しくないと言ったら——嘘になるけどね」

 納得がいかずに口を尖らすと、師父はまるで微笑むように頭を傾けた。

「ふふ。ほら、帰って木の実を食べよう」

 そう言って飛び立つと、弟子も後を追いかける。

「遠き君 届けと願う 我が心」

 飛びながらもそんな句を詠むので、負けじと返す。

「分からない だって死んだら 寂しいし」

 それを聞いていた師父は、空中で円を描くように飛んだ後、肩に留まった。

「ならば、分かるまで側にいよう。それで許しておくれ」

 そう言って小さな頭をこちらの首筋にこすりつける。

「はい、是非。あと、出来れば長生きしてください」

 聞き分けの悪い弟子の首筋をくちばしでつついて「善処するよ」と言うと、師父はまた空に向かって飛び立つのだった。
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