その他
何か大切なものが、すっぽりと抜け落ちているような——そんな気がした。
ここはムニエカの町。
色とりどりの花が咲き乱れる、まるで楽園のような、僕らの町。
ある住人は思い思いの歌を歌い、またある人はそれに乗せて楽器を奏でた。
そんな楽しい音楽に合わせて、人々は軽やかに踊るのだった。
この町には笑顔が絶えない。
僕——町長のエドアルドは、屋敷を出てすぐの高台から、町を見渡した。
「うんうん! 今日も皆、楽しくやっているようだね!」
これならきっと大丈夫。彼女がいつ帰ってきても、最高の状態で出迎えることができるだろう。
彼女——ルーミリアが居なくなってから、どれほどの年月が経ったのだろう。
気が遠くなるほど昔、最初の頃は毎日数えていた——ような気がする。
確か——何千日?いや、何万日だっただろうか。どこまで数えたのか、途中から分からなくなってしまって。
それからしばらく経って、ああそういえば、昔は数えていたなと思い出したくらいだ。
いつの間にか、ルーミリアと共にいた時間よりも、帰りを待っている時間の方が長くなっていた。
彼女は、ひょっとしたらもう——そう考えた時、僕は言いようのない感覚に襲われて、木材を寄せ合わせて作った身体がキシキシと音を鳴らした。
ずっと、形容しがたい違和感がある。
花壇に植えた花々が咲いた時、住人の踊りが素晴らしかった時。そんな時、僕らは笑う。
でも——ルーミリアはもう帰ってこないのではと、僕がやってきたことは無駄なのではと考えるたび、ちょっとだけ身体が軋むのだ。
別に長くは続かないし、身体に支障があるわけでもない。仄暗さをはらんだ思考はすぐに霞のようにぼやけて、頭から消え去ってしまうのだから。
だからたまに考える。そんな時、昔はどんな顔をしていたんだっけ?
僕らは生身の身体を手放した時に、他にも色々なことを手放してしまったようだった。
咲き乱れる花々の素朴な香りや、転んで擦りむいた膝の痛み。愛する人が作った料理の暖かさ。
そもそも、忘れたことすら忘れてしまっているのかもしれない。
ルーミリア。君なら、僕が忘れてしまったことを思い出させてくれるだろうか。
「やれやれ。小難しいことを考えるべきではないね」
ため息交じりに呟く。
もう少しで何かを思い出せそうな気もしたけれど、わざわざ思い出す必要も無いような気がしたのだ。
だって、僕らには笑顔がある。
笑顔さえあれば、僕らは永遠に幸せなんだから。
花々の可愛らしい姿を愛で、ズボンの膝に開いた穴に笑い、皆で歌や踊りを楽しむ。
そして——いつか再会する、愛しのルーミリア。君がこの町を見て喜ぶ姿を想像するんだ。
ああ、こんなに素晴らしいことはない!
君も、皆の笑顔が大好きだっただろう?
帰ってきたらきっと、君は花のような笑顔で喜んでくれるに違いない。
そう思ったら、踊らずにはいられなかった。
僕は居ても立っても居られず、皆が踊る広場へと歩みを進めた。
「お〜いみんな〜! 僕も一緒に踊っていいかい?」
ルーミリア。ルーミリア。早く君に会いたい。でも、君は、本当は——
身体の奥が軋む音がする。
僕はただ、聞こえないふりをした。
ここはムニエカの町。
色とりどりの花が咲き乱れる、まるで楽園のような、僕らの町。
ある住人は思い思いの歌を歌い、またある人はそれに乗せて楽器を奏でた。
そんな楽しい音楽に合わせて、人々は軽やかに踊るのだった。
この町には笑顔が絶えない。
僕——町長のエドアルドは、屋敷を出てすぐの高台から、町を見渡した。
「うんうん! 今日も皆、楽しくやっているようだね!」
これならきっと大丈夫。彼女がいつ帰ってきても、最高の状態で出迎えることができるだろう。
彼女——ルーミリアが居なくなってから、どれほどの年月が経ったのだろう。
気が遠くなるほど昔、最初の頃は毎日数えていた——ような気がする。
確か——何千日?いや、何万日だっただろうか。どこまで数えたのか、途中から分からなくなってしまって。
それからしばらく経って、ああそういえば、昔は数えていたなと思い出したくらいだ。
いつの間にか、ルーミリアと共にいた時間よりも、帰りを待っている時間の方が長くなっていた。
彼女は、ひょっとしたらもう——そう考えた時、僕は言いようのない感覚に襲われて、木材を寄せ合わせて作った身体がキシキシと音を鳴らした。
ずっと、形容しがたい違和感がある。
花壇に植えた花々が咲いた時、住人の踊りが素晴らしかった時。そんな時、僕らは笑う。
でも——ルーミリアはもう帰ってこないのではと、僕がやってきたことは無駄なのではと考えるたび、ちょっとだけ身体が軋むのだ。
別に長くは続かないし、身体に支障があるわけでもない。仄暗さをはらんだ思考はすぐに霞のようにぼやけて、頭から消え去ってしまうのだから。
だからたまに考える。そんな時、昔はどんな顔をしていたんだっけ?
僕らは生身の身体を手放した時に、他にも色々なことを手放してしまったようだった。
咲き乱れる花々の素朴な香りや、転んで擦りむいた膝の痛み。愛する人が作った料理の暖かさ。
そもそも、忘れたことすら忘れてしまっているのかもしれない。
ルーミリア。君なら、僕が忘れてしまったことを思い出させてくれるだろうか。
「やれやれ。小難しいことを考えるべきではないね」
ため息交じりに呟く。
もう少しで何かを思い出せそうな気もしたけれど、わざわざ思い出す必要も無いような気がしたのだ。
だって、僕らには笑顔がある。
笑顔さえあれば、僕らは永遠に幸せなんだから。
花々の可愛らしい姿を愛で、ズボンの膝に開いた穴に笑い、皆で歌や踊りを楽しむ。
そして——いつか再会する、愛しのルーミリア。君がこの町を見て喜ぶ姿を想像するんだ。
ああ、こんなに素晴らしいことはない!
君も、皆の笑顔が大好きだっただろう?
帰ってきたらきっと、君は花のような笑顔で喜んでくれるに違いない。
そう思ったら、踊らずにはいられなかった。
僕は居ても立っても居られず、皆が踊る広場へと歩みを進めた。
「お〜いみんな〜! 僕も一緒に踊っていいかい?」
ルーミリア。ルーミリア。早く君に会いたい。でも、君は、本当は——
身体の奥が軋む音がする。
僕はただ、聞こえないふりをした。
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