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風が静かに吹き抜ける。
コートの真ん中には、まだ光の残滓が淡く漂っていた。
その中心に――。
[#dn=#3]はいなかった。
ただ、金色の粉のような光が空へと溶けていき、
その余韻だけが温もりを残している。
「……[#dn=#3]」
手塚は立ち尽くしたまま、その名を呼んだ。
指先が震えていた。
確かに、そこに彼女がいた。
触れられるほど近くに。
だが、次の瞬間、光に包まれ、
跡形もなく消えてしまった。
その現実を前に、彼の心は――。
崩れ落ちていく。
誰も声を出せない。
レギュラー陣も、部員も、全員がその場に膝をつき、
ただ茫然と空を見上げていた。
その静寂を、
鋭く、魂を裂くような叫びが切り裂いた。
「――お前たち、よくも……!」
手塚が叫んだ。
普段の冷静さなど、微塵も残っていない。
その声は怒りでも悲しみでもなく、喪失の叫びだった。
「俺の――。唯一無二を返せ!!」
その言葉に、誰も何も言えなかった。
大地が凍り付くような沈黙。
朝日の空気が痛いほどに張り詰めている。
「[#dn=#3]……」
しろちゃんは手元にある、星の鍵と夢の鍵を拾い上げた。
「"唯一無二"」
不二が再度呟いた。
その言葉の重みを、
誰もが痛いほど理解していた。
[#dn=#1][#dn=#2]――。
彼にとっての、ただ一人。
替えのきかない存在。
どんな栄光よりも、どんな未来よりも、
大切なひと。
だからこそ、その言葉は呪いのように響いた。
「……部長……」
桃城が絞り出すように声を上げた。
だが、手塚はその声を聞いていなかった。
彼はゆっくりとその場に膝をついた。
拳を地に叩きつけ、低く唸るように言葉を吐く。
「返せ……[#dn=#3]を……俺の…光を……。
あいつは、俺の光だった。
どんな時も、まっすぐに笑って……。
信じてくれた。
それを……お前たちは、壊したんだ」
その瞳には怒りではなく、
涙に似た、燃えるような"想い"が宿っていた。
しろちゃん――。
ルミネルは、空を上げたまま、動けずにいた。
羽が震え、光を散らしながら、小さく鳴咽を漏らす。
「……[#dn=#3]、どうして……あんな歌を……」
彼の頬を伝う光の雫が、砂の上に落ちて消えた。
「……お前たちは知らない。
"禁忌の歌"は命を代償にして奇跡を起こす歌なんだ。
それを、あの子は――。
"守るために"歌ったんだ……」
部員たちは息を吞む。
その言葉が、胸の奥に突き刺さった。
「守る……ために?」
不二が震える声で呟く。
「[#dn=#3]はな……お前たちを責めなかった。
"自分がいなければ、もう誰も傷つかない"って……。
そう思って、あの歌を選んだんだよ」
しろちゃんの声が涙で震える。
「……優しすぎるんだ。
いつも、誰かのために泣いて、
誰かのために笑って……。
自分の痛みなんて、どうでもいいって顔して……!」
彼の小さな拳が、羽の陰でぎゅっと握られる。
「……そんな優しさが、[#dn=#3]を壊したんだ!」
誰も反論できなかった。
自分たちの"何気ない言葉"が、
彼女の心を追い詰めていた。
――――――
だが、しろちゃんは顔を上げる。
その瞳に淡い光が宿る。
「……でも、まだだ。まだ終わってない」
「……?」
手塚が顔を上げる。
「[#dn=#3]の"気配"は消えていない。
あの歌で、彼女は"別の層"に移動しただけ。
夢と現の狭間――。
"創造の円環"の中に閉じ込められている。
乾が息を呑む。
「つまり……死んだわけではない。ということか?」
「そうだ。
でも、普通の人間にはたどり着けない。
彼女を呼び戻せるのは、ただ一人――」
ルミネルの視線が、まっすぐ手塚を射抜いた。
「――あの子が"もっとも愛した人"だけだ」