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朝焼けがまだ淡い橙を残していた。
テニスコートには、朝露が散らばり、
白線がうっすらと輝いていた。
誰もいない静けさ。
その中央に[#dn=#1][#dn=#2]が立っていた。
ジャージ姿のまま、手には夢の杖。
その掌がかすかに震えている。
彼女の瞳は、涙の名残を宿していた。
今までの部活の光景が、まだ胸の奥でくすぶっている。
あの見えない壁。
あの距離。
あの寂しさ。
――もう、誰も傷つけたくない。
――でも、わたしの"気持ち"を封じ込めたままじゃ、何も変わらない。
その想いが、ゆっくりと杖を握る手に宿っていた。
(たくさんの"痛み"を知った。
けれど……同じくらい、"愛"も教えてくれたのは――。
国ちゃんだから、あなただから)
胸の奥でそっと呟きながら、[#dn=#3]は深く息を吸いこんだ。
やがて唇が、震えるように開く。
その瞬間――。
肩に乗っていたしろちゃんがはっとして羽根を逆立てた。
「……ま、待って、[#dn=#3]!その歌だけは……!!」
その声に、さくらは小さく微笑む。
「大丈夫だよ、しろちゃん。わたしは――。信じてるから」
そして、風が止まった。
『――I'm a believer……眠るチカラ……』
その声は、風に溶けていくように静かに始まった。
けれど、言葉を重ねるごとに、空気がざわめき始める。
テニスコートのネットが揺れ、
ボールが転がり出す。
まるで歌そのものが"力"を帯びていくようだった。
『胸の奥で揺れる――』
その瞬間、空が白く光った。
夢の杖が脈打つように輝き、杖先の羽根が広がる。
しろちゃんは翼を広げて飛び出した。
「だめだ、[#dn=#3]!その歌は"禁忌"だ!それは――」
『小さな願いが
未来を変える鍵になると 信じていたの』
[#dn=#3]は止まらなかった。
歌う声が涙で震えながらも、強く、まっすぐに響く。
その旋律が、世界の"法則"をひとつずつ書き換えていく。
まるで、世界そのものが彼女の心に従って動き出すように。
校庭の木々がざわめき、コートのフェンスが震える。
遠くの校舎の窓が微かにきらめき、ガラスのような音を立てた。
部室棟で準備をしていたレギュラー陣が、
異変に気付いて飛び出す。
「何だ……この光は!?」
「まぶしい……[#dn=#3]!?」
菊丸が目を細め、不二が息を飲む。
乾の眼鏡が光を反射し、桃城が声を上げた。
「やばいって!コートの真ん中で、なんか――。歌ってる!?」
そして彼らの視線の先。
そこには、[#dn=#3]が光の中心に立っていた。
『光を追いかけて 何度も傷ついて
それでも進むしかない 夢は消せないから』
杖の先から放たれた光が、木々の枝をなで、
桜の花びらのように淡く舞い散る。
空気が震え、次第に音が広がっていく。
それは、ただの歌ではなかった。
――世界を紡ぐ歌。
最強の魔術師でさえ封印した"禁断の詩"。
それを、[#dn=#3]は無意識に歌っていた。
(この歌は……。"創造の詩"。
世界を一度"書き換える"ほどの、原初の力……!)
『世界でただひとりの 代わりのない私――
あなたに出逢うため 生まれてきた』
光がコートを包み込む。
ボールもネットも、フェンスも――。
全てが光の粒になって浮かぶ。
部員たちは眩しさに目を覆った。
『禁断のプラチナ 儚ききらめき
愛されながら 消えてゆく』
杖を掲げた[#dn=#3]の身体から、幾重もの光の輪が放たれる。
それはまるで、夢の歯車が空を回転させるように、
時の流れそのものを変えようとしていた。
(この歌は、現実と夢の境界を――消す!)
しろちゃんが叫ぶ。
「やめろ、[#dn=#3]――!!」
だが、その声は光に包まれて届かない。
空には桜の花びらが無数に舞い、
コートの地面が波打つように光を返す。
その中心で、[#dn=#3]はただ微笑んでいた。
――――
眩い光の中を、ひとつの影が歩み寄る。
――手塚国光。
光の嵐の中でも、その姿は揺るがなかった。
「[#dn=#3]!」
彼が駆け寄る。
その声を聞いた瞬間、[#dn=#3]の歌が一瞬だけ止まる。
「国ちゃん……」
彼女の頬を伝う涙が、光の粒となって宙に浮かぶ。
それでも歌は止まらない。
『運命(さだめ)の糸は今 静かにほどけて
永遠さえも 幻(まぼろし)に変えてしまうの?』
その声に、手塚はたまらず彼女を抱きしめた。
「――やめろ、もう十分だ!」
だが、[#dn=#3]の身体は熱を帯び、
光の羽根が彼女の背から生えていた。
「だめだ、国ちゃん!触るな!!その歌の力に巻き込まれる!!」
しろちゃんの叫び声も、すでに震え声だった。
『涙さえも 強さに変えたい――
最後の瞬間まで 笑顔でいたいのに』
コートの上空に、白と金の翼が現れる。
それはまるで、"世界の心臓"が開いたかのようだった。
手塚の腕の中で、[#dn=#3]は小さく震えながらも、
その瞳を彼に向けた。
『世界を包む闇に 呑み込まれるとしても
あなたを守れるなら それでいい』
「もう、やめろ。これ以上は――」
しかしその瞬間、[#dn=#3]の唇が動いた。
『この世に一つだけの存在である私――』
「やめろぉぉぉぉぉ!それは"最後の詩"だ!!」
だが、遅かった。
その言葉が放たれた瞬間――。
世界の色が、音もなく反転した。
風が止まり、光が固まり、
空と地が入れ替わるような感覚。
全ての部員がその場に膝をついた。
目の前の光景が現実か夢か、誰にも分らなかった。
空には巨大な紋章が浮かび上がる。
中央には"夢の杖"と"星の鍵"が交わり、
周囲を七つの光臨が巡っていた。
――それは、最強の魔術師さえ恐れ封じた"創造の円環"。
詩が終わると同時に、世界が一瞬、停止した。
「……[#dn=#3]!」
手塚の腕の中で、[#dn=#3]の身体が淡い光を放つ。
その肌は透き通るように白くなり、輪郭が溶け始めた。
「だめ、[#dn=#3]!戻ってこい!」
「……国ちゃん」
「わたしを好きになってくれて……ありがとう」
「[#dn=#3]―――――!!!!!」
しろちゃんが羽を広げて彼女にしがみつく。
「お前、それ以上歌ったら――。存在が消えるんだよ!」
「大丈夫だよ。わたしは消えても、想いはここに残るから」
彼女は涙をこぼしながら、微笑んだ。
光が強くなる。
風が逆巻き、フェンスが鳴動し、
地面が光の模様で覆われた。
レギュラー陣、そして部員たちがただただ見つめていた。
誰も動けない。
誰も言葉を発せない。
泣きながら手を伸ばす菊丸。
拳を握りしめる桃城。
大石の頬にも涙が伝う。
「[#dn=#3]――――!!!!!」
光がひときわ強く輝いた。
その中で、彼女の髪がふわりと浮き上がり、
杖が天へと伸びる。
そして――。
『禁断のプラチナ 切ない祈りよ
この命を捧げても 愛は残る』
声が、風に溶けた。
『世界でただひとりの 代わりのない私
あなたに出逢うため 生まれてきた
禁断のプラチナ 儚ききらめき
愛されながら 消えてゆく』
最後の音が響いた瞬間、
[#dn=#3]の姿は光の粒となって天へと溶けていった。
空から一枚のカードが落ちてくる。
『禁忌』『FORBIDDEN』
歌は祈り。祈りは創造。
創造は――。愛と犠牲の名のもとに。