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部活を飛び出した[#dn=#3]は、気づけば自分の部屋に立っていた。
玄関の記憶もない。走った覚えもない。
ただ、涙が頬を伝い落ちた瞬間――。
光が一度、弾けた気がした。
(……どうして、ここに……?)
微かにカードの気配。
頭上に結晶のようなものがあり――。
「封印解除――。主なきものよ、夢の杖のもと、我の力となれ――。固着(セキュア)!」
カードに戻すと、そこには、
『移動』『TELEPORT』
と書いてあった。
「このカードの仕業だったんだ……っっ!」
カードを握ったまま、床に崩れ落ちる。
そして、胸を押さえた。
肩が震え、呼吸が乱れる。
心の中で何度も「ごめんなさい」と「やめて」
が交差していた。
「国ちゃん……みんな……なんで、
あんなこと言うの……?」
しろちゃんが飛んできて、そっと肩にとまる。
いつもは穏やかな瞳が、その時だけは怒りを帯びていた。
「[#dn=#3]、泣かないで。あの人たち、わかってないだけだよ」
「でも……わたし、もう……やだ……!
国ちゃんが困るのも、冷やかされるのも、全部いやなのっ……!」
涙がぽたぽたとフローリングを濡らす。
しろちゃんは黙ってその涙を見つめていた。
「……もう我慢しなくていい。ボクが守る」
普段の優しい声が、一変して低く、鋭く響いた。
「し、しろちゃん……?」
「あいつら、[#dn=#3]を傷つけた。
ボクの主を泣かせたんだ。――許せない」
光が弾ける。
しろちゃんの翼が白銀に輝き、
魔力が部屋中に広がる。
窓の外の空気が震え、
目に見えない膜のような結界が張り巡らされた。
「結界を張る。しばらく外のやつらは、[#dn=#3]に近づけない」
「そんな……だめだよ、しろちゃん。みんな悪気があったわけじゃ――」
「悪気がなくても、傷は残る。
[#dn=#3]は優しすぎるから、いつも我慢して、自分だけ泣くんだ」
その言葉に、[#dn=#3]の喉が詰まった。
小さく頷くと、しろちゃんは翼を休めて、
そっと肩に寄り添った。
「もう少し泣いていい。ボクがそばにいるよ」
[#dn=#3]は小さな声で「ありがとう」と言い、
そのまましろちゃんを抱きしめて泣き続けた。
夜が更け、結界の中は静寂に包まれる。
ただ、窓の外で月が淡く光っていた。
――――――
翌日。
結界の中が柔らかくほどけるのを感じながら、
[#dn=#3]は朝、目が覚めた。
「……あ」
「どうしたの、[#dn=#3]……?」
「制服、置いてきちゃった」
まだ、昨日の涙の跡は乾いていない。
心が重い。
「仕方ない、ジャージで登校って、あれ?」
「えっ、ここでカードの気配!?」
悲しみの残滓が、優しさへと変わっていく。
さくらは夢の鍵を取り出し、詠唱した。
「封印解除。主なきものよ、夢の杖のもと、我の力となれ――。固着(セキュア)!」
カードを封印した瞬間、心の中で声がした。
『悲しみに濡れた涙は、誰かを癒す力になる』
まるで、涙そのものが語りかけるように。
結晶が形を結び、一枚のカードが舞い降りてきた。
『哀涙』『SORROW』
カードには、透き通るような青い雫が描かれていた。
中央には、両手で抱えられた小さな光。
その光が静かに震えている。
「悲しい気持ちを、守る力に変える……」
カードの意味が自然と心に流れ込んできた。
涙は無駄じゃない。
悲しみは、誰かを癒す力になる。
しろちゃんが肩に降り、静かに微笑む。
「新しいカードか。……[#dn=#3]の涙が、生んだんだね」
「うん、そうだね」
さくらは微笑しながら、カードを胸に抱きしめた。