プラチナ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
午後の春風が、青学の中庭を通り抜けていく。
桜の花びらが少しだけ残り、校舎の影が長く伸び始めていた。
テニス部の練習が始まって、すでに30分。
部員たちはウォーミングアップを終え、
声を張り上げてボールを打ち合っていた。
「……あれ?さくらちゃん、まだ来てないな」
菊丸が首を傾げる。
コートの端では大石が名簿を確認していた。
「珍しいな。いつもなら一番乗りで準備してるのに」
その頃、図書室から校舎を抜けて、
さくらが小走りでやってきた。
ジャージの上からマネージャー用の青いベストを羽織り、
肩で息をしている。
「はぁ……ごめんなさい、遅くなりました!」
コートに入ると、手塚が振り向いた。
汗を拭いながら、静かに声をかける。
「さくら、なにをしていたんだ?」
「えっと……課題、やってたの。
図書室でちょっと時間かかっちゃって」
「そうか。無理をするな」
言葉は短く、けれど優しかった。
胸の奥にふわりと温かいものが広がる。
さくらは微笑んで、荷物をベンチに置いた。
(よし、今日も頑張らなきゃ)
タオルを配り、ドリンクを並べ、
試合用のボールを箱から出す。
部員たちの声が重なり、
夕方の光がコートを染めていく。
けれど――。
次の瞬間、世界の色がふっと淡くなった。
風の音が遠のく。
ボールの打つ音も、人の声も消えていく。
代わりに聞こえたのは"カチ、カチ……"という歯車の音。
(まただ)
視界の中に、ゆっくりと歯車が回り始める。
その中心に、影が立っていた。
ローブをまとった人物――。
前にも見た、あの夢の中の存在。
(ここは……夢の中?でも、どうして……)
足元が霞み、身体が透けていく。
現実と夢の境界が、溶けあっていく感覚。
影が動いた。
さくらの方を見て、静かに手を伸ばす。
その指先が触れそうになった瞬間――。
「……さくら?」
現実の声が届いた。
パチン、と景色が弾ける。
夢の歯車が砕け、光が散った。
気づけば、さくらはコートの中央に立っていた。
ボールを拾おうとして止まっていた姿のまま。
周りでは部員たちが驚いたように見ている。
手塚がすぐに駆け寄ってきた。
「どうした?ぼんやりしてたぞ」
「……え?」
額に汗が滲んでいた。
手塚の瞳は真剣で、だけど責めるような色はない。
ただ、心配そうに見つめている。
「ご、ごめんね……。ちょっと考え事してたみたい。
大丈夫、集中するね!」
笑顔を作ると、手塚は小さく頷いた。
「無理をするな。……倒れたら意味がない」
「うんっ!」
その声が、不思議と胸にしみた。
ほんの数秒の出来事だったのに、
まるで長い夢を見ていたような気がする。
再び動き出したテニスコート。
さくらは気持ちを切り替えて、
ボールカゴを押しながら部員たちの動きを見守る。
「乾先輩、ドリンク足りてますか?」
「助かる。さすがだな、木之本」
「えへへ、ありがとうございます」
声を出すたびに、現実が戻ってくる。
風の匂い、コートの砂の感触――。
全部が"今"の証。
でも、さくらの頭の隅では、まださっきの夢の残響が鳴っていた。
"カチ、カチ……"と歯車の音。
あの影の目が、何かを訴えていた気がする。
(また……夢の鍵が呼んでるのかな)
不意にポケットに中が温かくなった。
夢の鍵が小さく脈打つように光っている。
(……でも、今は部活中。わたし、マネージャーだもん)
そう言い聞かせて、光をそっと手の中で包む。
手塚が視線を送ってきた。
その目が「大丈夫か?」と語りかけている。
「うん、大丈夫だよ」
口の形だけで伝えると、手塚はほんの少し口元を緩めて、
再びコートの中央へ歩いて行った。
夕焼けの光が、彼の背中を金色に照らしていた。
その光の中で、さくらは思う。
(国ちゃんがいる。
わたしはここにいる。
だから、消えたりしない――)
胸の奥で、夢の鍵が小さく鳴った。
まるで「それでいい」と頷いているように。
春の風がまた吹き、桜の花びらが一枚、
コートの上に静かに落ちた。
桜の花びらが少しだけ残り、校舎の影が長く伸び始めていた。
テニス部の練習が始まって、すでに30分。
部員たちはウォーミングアップを終え、
声を張り上げてボールを打ち合っていた。
「……あれ?さくらちゃん、まだ来てないな」
菊丸が首を傾げる。
コートの端では大石が名簿を確認していた。
「珍しいな。いつもなら一番乗りで準備してるのに」
その頃、図書室から校舎を抜けて、
さくらが小走りでやってきた。
ジャージの上からマネージャー用の青いベストを羽織り、
肩で息をしている。
「はぁ……ごめんなさい、遅くなりました!」
コートに入ると、手塚が振り向いた。
汗を拭いながら、静かに声をかける。
「さくら、なにをしていたんだ?」
「えっと……課題、やってたの。
図書室でちょっと時間かかっちゃって」
「そうか。無理をするな」
言葉は短く、けれど優しかった。
胸の奥にふわりと温かいものが広がる。
さくらは微笑んで、荷物をベンチに置いた。
(よし、今日も頑張らなきゃ)
タオルを配り、ドリンクを並べ、
試合用のボールを箱から出す。
部員たちの声が重なり、
夕方の光がコートを染めていく。
けれど――。
次の瞬間、世界の色がふっと淡くなった。
風の音が遠のく。
ボールの打つ音も、人の声も消えていく。
代わりに聞こえたのは"カチ、カチ……"という歯車の音。
(まただ)
視界の中に、ゆっくりと歯車が回り始める。
その中心に、影が立っていた。
ローブをまとった人物――。
前にも見た、あの夢の中の存在。
(ここは……夢の中?でも、どうして……)
足元が霞み、身体が透けていく。
現実と夢の境界が、溶けあっていく感覚。
影が動いた。
さくらの方を見て、静かに手を伸ばす。
その指先が触れそうになった瞬間――。
「……さくら?」
現実の声が届いた。
パチン、と景色が弾ける。
夢の歯車が砕け、光が散った。
気づけば、さくらはコートの中央に立っていた。
ボールを拾おうとして止まっていた姿のまま。
周りでは部員たちが驚いたように見ている。
手塚がすぐに駆け寄ってきた。
「どうした?ぼんやりしてたぞ」
「……え?」
額に汗が滲んでいた。
手塚の瞳は真剣で、だけど責めるような色はない。
ただ、心配そうに見つめている。
「ご、ごめんね……。ちょっと考え事してたみたい。
大丈夫、集中するね!」
笑顔を作ると、手塚は小さく頷いた。
「無理をするな。……倒れたら意味がない」
「うんっ!」
その声が、不思議と胸にしみた。
ほんの数秒の出来事だったのに、
まるで長い夢を見ていたような気がする。
再び動き出したテニスコート。
さくらは気持ちを切り替えて、
ボールカゴを押しながら部員たちの動きを見守る。
「乾先輩、ドリンク足りてますか?」
「助かる。さすがだな、木之本」
「えへへ、ありがとうございます」
声を出すたびに、現実が戻ってくる。
風の匂い、コートの砂の感触――。
全部が"今"の証。
でも、さくらの頭の隅では、まださっきの夢の残響が鳴っていた。
"カチ、カチ……"と歯車の音。
あの影の目が、何かを訴えていた気がする。
(また……夢の鍵が呼んでるのかな)
不意にポケットに中が温かくなった。
夢の鍵が小さく脈打つように光っている。
(……でも、今は部活中。わたし、マネージャーだもん)
そう言い聞かせて、光をそっと手の中で包む。
手塚が視線を送ってきた。
その目が「大丈夫か?」と語りかけている。
「うん、大丈夫だよ」
口の形だけで伝えると、手塚はほんの少し口元を緩めて、
再びコートの中央へ歩いて行った。
夕焼けの光が、彼の背中を金色に照らしていた。
その光の中で、さくらは思う。
(国ちゃんがいる。
わたしはここにいる。
だから、消えたりしない――)
胸の奥で、夢の鍵が小さく鳴った。
まるで「それでいい」と頷いているように。
春の風がまた吹き、桜の花びらが一枚、
コートの上に静かに落ちた。