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――カチ、カチ、カチ……。
どこか遠くで、金属の擦れる音が響いていた。
耳ではなく、心の奥で聞こえるような不思議な音。
目を開けると、そこはまた――。
あの巨大な歯車が果てしなく回る世界だった。
灰色の空。
無数の歯車が空間を埋め尽くし、
ゆっくりと、確実に時間を刻んでいる。
「ここ……また、夢の中……?」
さくらは一歩、足を踏み出した。
金属の足場の上を歩くたび、
靴の裏から冷たい振動に変わる。
中心には――あの"夢の鍵"。
光の粒をまとい、宙に浮かんでいた。
さくらはそれを見つめながら、
胸の前でそっと両手を組む。
(また、呼ばれてる?)
その瞬間。
背後の空気が、ふっと歪んだ。
空間のひび割れから、黒い影がゆらりと現れる。
長いローブをまとい、顔は見えない。
けれど、その輪郭のどこかに"人の気配"があった。
「……あなた、誰……?」
声をかけても、返事はない。
ただ、ゆっくりと、歯車の合間を滑るように近づいてくる。
さくらの心臓がどくんと高鳴った。
夢の鍵が、淡い光を放ち始める。
まるで警告のように。
「来ないで……!」
そう叫んだ瞬間――。
影の中の何かが、ふっと動いた。
風もないのに、ローブの裾が大きく揺れ、
黒い霧のようなものが、さくらの足元に広がっていく。
「っ……!」
さくらは後ずさりしながら、杖を呼び出そうとする。
「夢の力を――」
だが、その言葉が終わる前に、
影の声が、低く響いた。
『……また、守ろうとするのか』
ぞくりと背筋が凍る。
声は、人でも魔でもない、
どこか"記憶"の奥に刻まれた音だった。
『お前は、選ばれた。
だが同時に――。失うことを、恐れている』
「なに……を、言ってるの……?」
影は一歩、さらに前へ出る。
顔の奥に、ぼんやりと光る二つの瞳が見えた。
まるで、彼女の"心"を見透かすように。
『お前の鍵はすべてを繋ぐ。
だが、閉ざすこともできる』
「閉ざす?」
『選べ、木之本桜。
"誰を守るか"――それが、お前の運命だ」
次の瞬間、
歯車の音が激しく回転を始めた。
ガガガガガッ――。
空間が軋み、光が走る。
まるで、時そのものが崩壊していくようだった。
「待って!あなたは……誰なの!?
わたし、まだ何も――!」
伸ばした指先が影に触れる。
けれどその瞬間、
影の身体は霧のようにほどけ、
光の粒になって消えた。
残されたのは、静かな空間と、
宙に漂う夢の鍵だけ。
鍵は小さく脈打つように光り、
その中心で"歯車の紋章"が淡く輝いていた。
――カチ、カチ、カチ。
まるで、時間が再び動き出す合図のように。
「……誰なの、あの人……」
さくらの呟きは、
無限の歯車の回転音にかき消されていった。
そして――。
次の瞬間、光が弾け、さくらの身体は現実へと引き戻された。
目を開けると、
自分の部屋の天井が見えた。
しろちゃんが心配そうにのぞきこんでいる。
「また、あの夢……?」
「うん……でも、今度は……人がいたの」
さくらの指先には、
まだ夢の鍵のぬくもりが、確かに残っていた。
―――――
春の陽射しがやわらかく差し込む午後の授業。
教室の窓際に座るさくらは、ノートを取りながらも、
どこか落ち着かない様子で外を見ていた。
(……何だろう、あの木……)
校庭の隅。
満開の桜の向こう側に、
ひときわ異様な気配を放つ一本の木があった。
他の木々と違って、
幹の表面がわずかに動いているように見える。
まるで"呼吸"しているみたいに。
(あれ……おかしい……)
視線を凝らすと、幹の中で金属のような光がちらりと反射した。
その瞬間、ぞくりと背筋が冷たくなった。
見間違いじゃない――。
確かに、何かが"動いている"。
「ひっ……!」
思わず小さく声が漏れた。
教室の空気が一瞬止まり、
前の席の男子がくるっと振り向く。
「木之本、どうしたの?虫でもいた?」
「う、ううんっ、何でもないですっ!」
慌てて首を振る。
頬が熱くなる。
(やばい……また変に思われたかも……)
しろちゃんが机の陰でひそひそと囁く。
「さくら、あれ、カードの気配がする。かなり強いよ」
(やっぱり!)
それ以上は動けず、さくらは授業が終わるのを待った。
チャイムが鳴った瞬間、ノートを閉じ、
勢いよく立ち上がる。
「さくら?昼ご飯行かないの?」
リョーマの声に、
「ごめん!ちょっと用事あるの!」
とだけ答えて、さくらは教室を飛び出した。
―――――
校舎の外は、昼休みの喧騒でにぎわっていた。
購買へ走る生徒、ベンチで弁当を食べる子、
部活の準備をする者たち。
その中を、さくらは夢中で駆け抜けた。
(間違いない……あの木のところ……!)
風が髪をなびかせ、制服のスカートが揺れる。
校庭の端――。
問題の木がある場所に辿り着いた。
「やっぱり……!」
近づくと、幹の表面に奇妙な模様が浮かんでいた。
歯車のような刻印が、ゆっくりと回転している。
それは木の表皮を裂くように動き、周囲の枝をきしませていた。
その瞬間、木の根元から"ギギギッ"と金属音が鳴る。
幹の中から、無数の枝が勝手に動き出した。
まるで意思を持つように、空中を切り裂きながら暴れ出す。
さくらは夢の鍵を取り出した。
「夢の力を秘めし鍵よ、真の姿を我の前で示せ―――封印解除!」
鍵から羽が生え、杖状になる。
さくらはそれを取って、くるくると杖を回した。
「まずは、動きを止めないと。包囲―SIEGE―!」
包囲のカードが木々を囲んだ。
だが、木はまだ動いている。
「うーんうーん、木、木、木には……水!水源―AQUA―!」
水源の水が包囲の中で動きを封じた。
「いまよ、我に道を開けよ!」
水源の水がさくらに木までの道を開けた。
そこに突っ込むさくら。
襲い掛かってくる木の根元を交わしながら、
さくらは大ジャンプした。
「主なきものよ、夢の杖のもと、我の力となれ――。固着(セキュア)!」
カードの中心部に杖を当てる。
クリスタルの中に歯車のイラストが描かれている。
それがパリンと割れると、さくらの手中へ収まる。
『行動』『ACTION』
「さくら、このカードは君の恐怖から生まれたものなのかもね」
「わたしの、恐怖?」
今日、みたあの夢。
あの夢をわたしは怖いと感じてしまったから?
風がそよぎ、花びらが舞い上がる。
その光景の中で、行動のカードが微かに光を返した。
――それはまるで。
"動き出した運命の歯車"のように、
静かに回転を続けていた。
どこか遠くで、金属の擦れる音が響いていた。
耳ではなく、心の奥で聞こえるような不思議な音。
目を開けると、そこはまた――。
あの巨大な歯車が果てしなく回る世界だった。
灰色の空。
無数の歯車が空間を埋め尽くし、
ゆっくりと、確実に時間を刻んでいる。
「ここ……また、夢の中……?」
さくらは一歩、足を踏み出した。
金属の足場の上を歩くたび、
靴の裏から冷たい振動に変わる。
中心には――あの"夢の鍵"。
光の粒をまとい、宙に浮かんでいた。
さくらはそれを見つめながら、
胸の前でそっと両手を組む。
(また、呼ばれてる?)
その瞬間。
背後の空気が、ふっと歪んだ。
空間のひび割れから、黒い影がゆらりと現れる。
長いローブをまとい、顔は見えない。
けれど、その輪郭のどこかに"人の気配"があった。
「……あなた、誰……?」
声をかけても、返事はない。
ただ、ゆっくりと、歯車の合間を滑るように近づいてくる。
さくらの心臓がどくんと高鳴った。
夢の鍵が、淡い光を放ち始める。
まるで警告のように。
「来ないで……!」
そう叫んだ瞬間――。
影の中の何かが、ふっと動いた。
風もないのに、ローブの裾が大きく揺れ、
黒い霧のようなものが、さくらの足元に広がっていく。
「っ……!」
さくらは後ずさりしながら、杖を呼び出そうとする。
「夢の力を――」
だが、その言葉が終わる前に、
影の声が、低く響いた。
『……また、守ろうとするのか』
ぞくりと背筋が凍る。
声は、人でも魔でもない、
どこか"記憶"の奥に刻まれた音だった。
『お前は、選ばれた。
だが同時に――。失うことを、恐れている』
「なに……を、言ってるの……?」
影は一歩、さらに前へ出る。
顔の奥に、ぼんやりと光る二つの瞳が見えた。
まるで、彼女の"心"を見透かすように。
『お前の鍵はすべてを繋ぐ。
だが、閉ざすこともできる』
「閉ざす?」
『選べ、木之本桜。
"誰を守るか"――それが、お前の運命だ」
次の瞬間、
歯車の音が激しく回転を始めた。
ガガガガガッ――。
空間が軋み、光が走る。
まるで、時そのものが崩壊していくようだった。
「待って!あなたは……誰なの!?
わたし、まだ何も――!」
伸ばした指先が影に触れる。
けれどその瞬間、
影の身体は霧のようにほどけ、
光の粒になって消えた。
残されたのは、静かな空間と、
宙に漂う夢の鍵だけ。
鍵は小さく脈打つように光り、
その中心で"歯車の紋章"が淡く輝いていた。
――カチ、カチ、カチ。
まるで、時間が再び動き出す合図のように。
「……誰なの、あの人……」
さくらの呟きは、
無限の歯車の回転音にかき消されていった。
そして――。
次の瞬間、光が弾け、さくらの身体は現実へと引き戻された。
目を開けると、
自分の部屋の天井が見えた。
しろちゃんが心配そうにのぞきこんでいる。
「また、あの夢……?」
「うん……でも、今度は……人がいたの」
さくらの指先には、
まだ夢の鍵のぬくもりが、確かに残っていた。
―――――
春の陽射しがやわらかく差し込む午後の授業。
教室の窓際に座るさくらは、ノートを取りながらも、
どこか落ち着かない様子で外を見ていた。
(……何だろう、あの木……)
校庭の隅。
満開の桜の向こう側に、
ひときわ異様な気配を放つ一本の木があった。
他の木々と違って、
幹の表面がわずかに動いているように見える。
まるで"呼吸"しているみたいに。
(あれ……おかしい……)
視線を凝らすと、幹の中で金属のような光がちらりと反射した。
その瞬間、ぞくりと背筋が冷たくなった。
見間違いじゃない――。
確かに、何かが"動いている"。
「ひっ……!」
思わず小さく声が漏れた。
教室の空気が一瞬止まり、
前の席の男子がくるっと振り向く。
「木之本、どうしたの?虫でもいた?」
「う、ううんっ、何でもないですっ!」
慌てて首を振る。
頬が熱くなる。
(やばい……また変に思われたかも……)
しろちゃんが机の陰でひそひそと囁く。
「さくら、あれ、カードの気配がする。かなり強いよ」
(やっぱり!)
それ以上は動けず、さくらは授業が終わるのを待った。
チャイムが鳴った瞬間、ノートを閉じ、
勢いよく立ち上がる。
「さくら?昼ご飯行かないの?」
リョーマの声に、
「ごめん!ちょっと用事あるの!」
とだけ答えて、さくらは教室を飛び出した。
―――――
校舎の外は、昼休みの喧騒でにぎわっていた。
購買へ走る生徒、ベンチで弁当を食べる子、
部活の準備をする者たち。
その中を、さくらは夢中で駆け抜けた。
(間違いない……あの木のところ……!)
風が髪をなびかせ、制服のスカートが揺れる。
校庭の端――。
問題の木がある場所に辿り着いた。
「やっぱり……!」
近づくと、幹の表面に奇妙な模様が浮かんでいた。
歯車のような刻印が、ゆっくりと回転している。
それは木の表皮を裂くように動き、周囲の枝をきしませていた。
その瞬間、木の根元から"ギギギッ"と金属音が鳴る。
幹の中から、無数の枝が勝手に動き出した。
まるで意思を持つように、空中を切り裂きながら暴れ出す。
さくらは夢の鍵を取り出した。
「夢の力を秘めし鍵よ、真の姿を我の前で示せ―――封印解除!」
鍵から羽が生え、杖状になる。
さくらはそれを取って、くるくると杖を回した。
「まずは、動きを止めないと。包囲―SIEGE―!」
包囲のカードが木々を囲んだ。
だが、木はまだ動いている。
「うーんうーん、木、木、木には……水!水源―AQUA―!」
水源の水が包囲の中で動きを封じた。
「いまよ、我に道を開けよ!」
水源の水がさくらに木までの道を開けた。
そこに突っ込むさくら。
襲い掛かってくる木の根元を交わしながら、
さくらは大ジャンプした。
「主なきものよ、夢の杖のもと、我の力となれ――。固着(セキュア)!」
カードの中心部に杖を当てる。
クリスタルの中に歯車のイラストが描かれている。
それがパリンと割れると、さくらの手中へ収まる。
『行動』『ACTION』
「さくら、このカードは君の恐怖から生まれたものなのかもね」
「わたしの、恐怖?」
今日、みたあの夢。
あの夢をわたしは怖いと感じてしまったから?
風がそよぎ、花びらが舞い上がる。
その光景の中で、行動のカードが微かに光を返した。
――それはまるで。
"動き出した運命の歯車"のように、
静かに回転を続けていた。