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その夜。
さくらは日記を書き終えると、しろちゃんを抱きしめ、ベッドに潜り込んだ。
「……国ちゃんの声、聞けて良かった……。
……おやすみ、しろちゃん……」
「おやすみ、さくら。ゆっくり休んでね」
やがて部屋が静まり、
月の光だけが柔らかく差し込む。
しろちゃんの羽根のぬくもりに包まれながら、
さくらの意識は、静かに夢の中へ沈んでいった。
カチ……カチ……カチ……。
遠くで時計の音がする。
気づくと、さくらは巨大な時計の歯車の上に立っていた。
見渡す限り、無数の歯車が空間を埋め尽くし、
ゆっくりと嚙み合いながら回転する。
「……また、ここ……」
夢の鍵が、胸の前で淡く光っていた。
前にも見たこの場所。
けれど、今日は少し違う。
―――歯車のひとつに、"人の影"が映っている。
背の高い人影。
光に包まれていて、顔が見えない。
けれど、その腕がゆっくりと伸びてくる。
「え……?」
夢の鍵が、引き寄せられるように浮き上がった。
カチ……カチ……。
歯車の音が大きくなる。
「だめ―――っ!!」
さくらは咄嗟に手を伸ばし、鍵を抱きしめる。
影の腕が、彼女の手から鍵を奪おうとする。
「これは……わたしの……!誰にも渡さないっ!!」
光と闇が交錯し、
時計の空間がきしむように鳴った。
――その瞬間。
「さくらっ!!」という声が響く。
ぱっ
世界が一瞬で砕け散った。
「――っ!」
息を呑みながら飛び起きたさくらの頬には、
冷たい汗がにじんでいた。
「はぁ……はぁ……っ……」
枕元では、しろちゃんが心配そうに浮かんでいる。
「さくら、大丈夫?すごく魘されてたよ……」
「……夢の中で、誰かが……夢の鍵を……」
胸元の鍵を見る。
そこには確かに、
淡い光がまだ揺れていた。
「やっぱり……あの"歯車の世界"、ただの夢じゃない。
カード達の源――あるいは、何かが動いている」
さくらは唇を噛み締め、小さく頷いた。
「……わたし、守らなきゃ。
夢の鍵も、カードも、国ちゃんとの約束も……」
外は静かな夜のまま。
でも、胸の鼓動だけが、やけに強く響いていた。
―――――
今日から、さくらは正式にテニス部のマネージャーになった。
朝の部室、タオルの整頓。
水のボトルを並べ、ボールの数を確認して――。
真面目に、丁寧に、笑顔を絶やさず。
(頑張らなきゃ。国ちゃんの傍にいるんだもん)
でも、コートの外では――。
「おーい、国ちゃ~ん、今日もマネージャー来てるぞ!」
「手塚、彼女の見守り係か~?」
「ほらほら、さくらちゃん、"国ちゃん"ってもう公認?」
わっと笑いが起こる。
手塚が軽く眉をひそめて言う。
「……やかましい。練習に集中しろ」
一瞬で静まり返るコート。
でも――。
さくらの心には、笑い声の余韻だけが小さく刺さって残った。
(……わたし、悪いことしてないのに……)
(国ちゃんって呼ぶだけでみんな笑う……)
俯いた瞬間、胸の奥がキュッと痛んだ。
すると――。
ふわりと風が吹く。
空気が変わった。
周囲の空間が、一瞬だけ"光の膜"に包まれる。
「……え?」
ボールを打った桃城のラケットが、
突如として弾かれたように跳ね返る。
「うわっ!?な、なんだ今の!?」
乾が眉を上げ、ノートをめくる。
「さくら、それ――!」
しろちゃんの声が響く。
さくらはそっと胸に手を当て、
カードの気配を感知する。
「……感じる、カードの気配!しろちゃん、後で封印しよう!」
「これは……さくらの"傷つきたくない気持ち"?」
手塚の方に走って、部活を再開するさくらを見つめながら、
しろちゃんはぽつりと呟いたのだった。
放課後の部活。
練習を終えたコートの片隅で、
さくらはタオルを畳みながら、
手塚と並んで歩いていた。
「今日もみんな頑張ってたね」
「……ああ。特に越前は動きが鋭くなってきた」
手塚の声は穏やかで、
さくらは小さく微笑んだ。
そのとき――。
風が止んだ。
「……え?」
さくらは足を止める。
さっきまで賑やかだったコートに、
誰の声もしない。
ボールも、ラケットの音も、
すべてが消えた。
「国ちゃん?」
振り返ると、手塚の姿さえもなかった。
「さくら、カードの力が働き始めたんだ」
「えっ?」
しろちゃんの言葉に、さくらはジャージの中から夢の鍵を取り出した。
鍵がかすかに光っている。
「魔法の力……働いてる……」
さくらは鍵を胸の前に掲げた。
「夢の力を秘めし鍵よ、真の姿を我の前に示せ――。封印解除!」
呪文を唱えると、鍵が杖に代わった。
さくらはそれを取ると、くるくると杖を回している。
「疾風―GAIL―!」
風の刃が空間から跳ねかえされる。
「…えっ!?」
驚いたさくらは、もう一枚のカードを取り出した。
「この空間の源を探し出せ!水源―AQUA―!」
その瞬間、水の鳥が水滴をテニスコート中に降らせた。
「見つけた!」
魔力の源を見つけたさくらは走り出す。
それはフェンスの上にあって、
さくらはフェンスを駆け上り、
そのままジャンプした。
「主なきものよ、夢の杖のもと、我の力となれ――。固着(セキュア)!」
クリスタルには、蝶のような絵が描かれていた。
パリン、と音がすると、さくらの手中に落ちてくる。
『反射』『REFLECT』
「反射……REFLECT……だから、魔法を跳ね返してたんだ」
水源のカードもさくらの手元へ戻った。
が、カードを封印した時の水源の水が降りかかってきた。
「きゃぁぁぁ――――!」
全身ずぶ濡れのさくら。
そこへ――。
「さくら!」
声に慌てて、さくらは鍵とカードを慌ててしまった。
やってきたのは手塚だった。
「お前、どうした……この濡れ方……!」
「え、えっと……ちょっと……転んじゃって……」
さくらは焦って笑おうとしたが、
身体は小刻みに震えていた。
手塚は一言も言わず、
自分のレギュラージャージを脱ぎ、
そっとさくらの肩にかけた。
「風邪をひく」
低く落ち着いた声。
それだけで、胸が温かくなる。
「……ありがとう、国ちゃん」
顔を上げると、
彼の表情は柔らかかった。
「気をつけろ。……無理はするな」
その言葉に、さくらは小さく頷き、
濡れた髪を押さえながら、
胸の中のカードをそっと握りしめた。
――"守られる温かさ"と、"秘密を抱く痛み"。
二つの想いが、静かに重なっていく。
翌朝のテニス部。
さくらが部室に入ると、
どこかそわそわした空気が流れていた。
「おはようございます!」
元気よく挨拶すると、
桃城がにやっと笑って近づいてきた。
「よう、木之本。昨日、ずぶ濡れだったんだって?」
「え?あ、えっと……ちょっと雨に……」
「それで~?」
菊丸が目を輝かせて前のめりになる。
「手塚が自分のジャージを貸してくれたんだって~?」
「……っ!!」
さくらの顔が一瞬で真っ赤になる。
部室が一気にざわついた。
「えー!それマジ!?」
「流石部長、やるなぁ~!」
「優しい~!」
「もはや新婚みたいじゃん!」
不二は隣で小さく笑う。
「ふふ……手塚も随分柔らかくなったね」
大石は苦笑しながら手を上げた。
「おいおい、みんな。あんまり冷やかすなって」
でも笑いは止まらない。
さくらは俯きながら、ぎゅっと手を握った。
(……まただ。わたし、何も悪いことしてないのに……)
ほんの少しだけ、瞳が潤んだ。
その瞬間――。
コートの入り口から、低い声が響く。
「……やかましい。練習を始めろ」
静寂。
さっきまで騒がしかった部室が、
一瞬で水を打ったように静まり返る。
「て、手塚部長……!」
桃城が慌ててラケットを持ち上げる。
「声が響いている。集中しろ」
淡々とした声。
でも、その奥には、
小さく"さくらを気遣う"温かさがあった。
さくらは目を伏せ、
ほんの少しだけ口元を緩めた。
(……やっぱり、国ちゃんがいると安心する……)
外では風が優しく吹き抜け、
木漏れ日がコートに差し込んでいた。