薔薇と監視者(JD)
「全く」
現実を客観視せずに愚考するのは昔と変わらないらしい。
言葉と共にため息を吐くとシャツを纏った肩が震えた。
「性欲処理のために抱いていると? そのためだけに傍に置いていると考えているのですか」
私の問いかけにサフィールは震えたまま小さく頷いた。
「罪人を傍に置いておくことが……貴方を傍に置いておくことがどれだけ難しいことか考えたことはないのですか?」
泣くのを止めないサフィールが顔を上げる。
サフィールの泣き顔は何度も見ているはずなのに、それでも少し痛々しく思えた。
「だ……って……貴方は、監視者で……」
「私が罪人の逃亡に手を貸す危険性はないと言いきれますか? 幼馴染なのに」
止まらない涙を拭いながら諭してやる。
サフィールはまだ理解出来ていないようだった。
経歴だけを見れば逃亡を疑うのは当然の判断だ。幼馴染で、共同研究者。怪しく見えないはずがない。
事実、サフィールを住まわせることを疑う者もいた。
サフィールを突き放していたことを知らない者なら当然の選択肢だろう。
「でも……」
「はっきり言いましょう。貴方を手元に置いておけるのは陛下の口添えがあったからです」
国王を交えて行う軍法会議で大佐という権力など役には立たない。
サフィールが以前持っていた六神将という権力と大佐という権力は違う。口を挟むことは出来ても決定権を持てるはずがない。
「ついでに言っておきますが、貴方のような人を性欲処理のためだけに抱いたりしませんよ」
私は手を伸ばしてシャツのボタンを止めた。
幼い頃といい、軍属時代といい、六神将の時といい、何故こんなにも露出したがるのだろう。何も分かっていないのかもしれないが、少し無防備すぎる。
「誰だって面倒なことは避けたいですから」
ボタンを止め終えた私は襟を整えてサフィールから手を離した。
そこにあるのが欲望だけで、感情を伴わないものであればこの男でも構わないだろう。大人しいサフィールを大人しく抱けばそれで良い。
本人が望むとおり、好きなように命令してやれば良い。
ただ、多少であれ感情を伴うものであれば――。
「……ここまで説明させておいて、何が『役に立てる』ですか」
私はため息を吐いた。
ここまで言ってしまったら――自分の気持ちを伝えているようなものだ。
「もっと色々なことを考えないと私の役には立てませんよ。身体だけ提供すれば役に立てる、などという甘い考えは捨ててください」
サフィールはただ立ちすくんで私を見つめていた。
言葉は聞こえていても、どうすれば良いのか分からないのだろう。
「帰りましょう」
私はサフィールに手を差し伸べる。
サフィールは戸惑った様子を見せた。
だが、再び泣きだしたサフィールはそっと私の手を取った。