薔薇と監視者(JD)
サフィールが私より早く起きることはない。
私はずっとそう思っていた。
事実、サフィールが眠っている姿を見て仕事に行くのが私の日常だった。
サフィールは私が屋敷にいる間に目覚めることはない。軽く叩いても眠り続けるような男だ。私が動いたくらいで起きる訳がない。
だが、多少でも無理をさせているという自覚があって起こすことはしなかった。
しかし、今朝は違う。
私が部屋に戻ってきた時、サフィールは既に起きていた。
【薔薇と監視者】
「おや、起きましたか」
サフィールが起きているなんて珍しい。
私は声を掛けたが、サフィールからの返事はなかった。
起きているのは間違いない。ただ、私の言葉に気づいていないようだ。
サフィールはシーツに包まったまま丸まって何かしている。
「サフィール?」
その態度を不審に思った私が名前を呼ぶ。
振り向いたサフィールは、泣いていた。
「あ……何でも、ありません。何でも……シャワー、浴びてきます」
涙を拭ったサフィールは足元に落ちたシャツを拾い、シャワールームへ走っていった。
時々、サフィールが泣いている。
元々泣きやすい人間だから、という訳ではないようだ。
サフィールが泣くのは決まって情事の後だった。
ここ数日、サフィールの様子がおかしい。
緊張した声色で「カーティス大佐」と呼んだり、自ら奉仕を申し出たりしている。
少し乱暴に抱いたり色々命令したりしても怒らなくなった。
だが睦言は全く聞いていないし、私が促さなければ抱きつきもしない。
機械的に情事をこなしている、といった様子だった。
「……まさかとは思いますが、嫌われましたかね」
考えを纏めながら乱れたシーツを直す。
あの時にすぐ対処すれば良かったのだが、確証を求める性格が災いして今に至っていた。
問いただそうにも私は仕事の都合でサフィールよりも先に出なければならない。
私は尋問を諦め、サフィールを残して軍の執務室へと向かった。
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