曦澄SSまとめ
The Feels
「では、また」
ふわり。甘く微笑みかける藍曦臣に、頬を緩く撫でられる。少しだけ低い体温、だがそれが江澄にとってはとても心地良く思える。そして、ゆっくり藍曦臣の顔が近づいて来る。今日こそは、もしかして。微かな期待を抱き、江澄は瞼を閉じる。しかし、期待した感触が来る事はなく。閉じた瞼を開けば、藍曦臣は頬を撫でていた手で江澄の髪を一房掬い、髪に口付けていた。
「近い内に、逢いに来るよ」
「……待っている」
江澄を見つめる甘い色に染まる瞳へ。素直な言葉を返し、見送った。
藍曦臣はいつも、去り際に江澄の髪に口付ける。
恋仲になって、随分と経つ。藍曦臣が江澄に触れる場所は頬、手、そして髪。それ以上の接触は無く、年甲斐もなく清らかな関係を保っている。愛されていない、そう感じた事は一度たりとも無い。それこそ。去り際の藍曦臣が、江澄の髪に必ず口付ける行為だってそうだ。ただ、恒例となったそれに。少しの疑問を抱く。どうして、江澄の唇ではなく。髪に口付けるのだろうか、と。
恋仲になり、随分と経つが。接吻をした事は、今まで一度もない。藍曦臣の唇が触れるのは、江澄の髪のみだ。透くように髪を撫でられ、薄く笑い、口付けを落とされる。何処か引っかかる所があるとすれば、髪に触れた唇が離れた瞬間、目が合う少し前。藍曦臣の薄い色に、微かな揺らぎが刹那に灯る事であろうか。
どうして、そのような目をするんだ。尋ねた事は一度もない。何故ならば、江澄と目が合えばすぐに甘く、愛おしさを含んだ色に変わるからだ。
藍曦臣は、どうして、江澄の髪に口付けるのだろうか。
ひと月ぶりの逢瀬、他愛も無い会話を繰り返す。心安らぐ、穏やかな時。江澄を映す藍曦臣の瞳が、愛おしさを含むように蕩けている。この色が、この瞬間が、江澄は堪らなく好きだ。いつまでも、この瞳に映っていたい。柄にもなく、そんな事を思う程に。
「そろそろ、帰りますね」
そう告げる声へ。名残惜しく、思わず袖を掴む。驚いたように瞬きをし、江澄を見つめる藍曦臣。藍曦臣の表情で江澄は自身の行動に気付き、袖を握った手を離した。すまない、と呟き、俯く。らしくもない行動をしてしまったと、頬がじわじわと熱を持って行く。ふ、と軽く笑う声。そっと、藍曦臣の手が江澄の頬に触れた。ゆっくりと顔を上げる。甘く、優しく微笑む藍曦臣。そして、いつものように。江澄の髪を一房掬い、口付けていた。
「あなたはいつも、俺の髪に口付ける」
「……嫌だった?」
「嫌とは、言っていない。ただ、」
どうしてだろうか、と思っただけだ。そう江澄が尋ねれば、藍曦臣は微笑みはそのままに。
「私はいつも、あなたを恋しく思っています」
薄い色を微かに滲ませながら。
「少しでもそれが伝われば……」
遠慮がちなそれを、江澄は鼻で笑う。
普段から分かりやすく、愛を示してくる癖して。変な所で控えめな男だ。
「随分と分かりにくい」
「口にしたら、困らせてしまうかもしれないだろう?」
「俺が困るとでも?」
藍曦臣が江澄にするように、藍曦臣の髪を一房掬う。軽く引き寄せそして、少しだけ目線の高い綺麗な顔へ。
唇が離れ、惚けたような表情をする目の前の男。
「……髪でなく、次からは此処にすればいい」
江澄の言葉に、甘く優しく、笑う表情には。
「では、また」
ふわり。甘く微笑みかける藍曦臣に、頬を緩く撫でられる。少しだけ低い体温、だがそれが江澄にとってはとても心地良く思える。そして、ゆっくり藍曦臣の顔が近づいて来る。今日こそは、もしかして。微かな期待を抱き、江澄は瞼を閉じる。しかし、期待した感触が来る事はなく。閉じた瞼を開けば、藍曦臣は頬を撫でていた手で江澄の髪を一房掬い、髪に口付けていた。
「近い内に、逢いに来るよ」
「……待っている」
江澄を見つめる甘い色に染まる瞳へ。素直な言葉を返し、見送った。
藍曦臣はいつも、去り際に江澄の髪に口付ける。
恋仲になって、随分と経つ。藍曦臣が江澄に触れる場所は頬、手、そして髪。それ以上の接触は無く、年甲斐もなく清らかな関係を保っている。愛されていない、そう感じた事は一度たりとも無い。それこそ。去り際の藍曦臣が、江澄の髪に必ず口付ける行為だってそうだ。ただ、恒例となったそれに。少しの疑問を抱く。どうして、江澄の唇ではなく。髪に口付けるのだろうか、と。
恋仲になり、随分と経つが。接吻をした事は、今まで一度もない。藍曦臣の唇が触れるのは、江澄の髪のみだ。透くように髪を撫でられ、薄く笑い、口付けを落とされる。何処か引っかかる所があるとすれば、髪に触れた唇が離れた瞬間、目が合う少し前。藍曦臣の薄い色に、微かな揺らぎが刹那に灯る事であろうか。
どうして、そのような目をするんだ。尋ねた事は一度もない。何故ならば、江澄と目が合えばすぐに甘く、愛おしさを含んだ色に変わるからだ。
藍曦臣は、どうして、江澄の髪に口付けるのだろうか。
ひと月ぶりの逢瀬、他愛も無い会話を繰り返す。心安らぐ、穏やかな時。江澄を映す藍曦臣の瞳が、愛おしさを含むように蕩けている。この色が、この瞬間が、江澄は堪らなく好きだ。いつまでも、この瞳に映っていたい。柄にもなく、そんな事を思う程に。
「そろそろ、帰りますね」
そう告げる声へ。名残惜しく、思わず袖を掴む。驚いたように瞬きをし、江澄を見つめる藍曦臣。藍曦臣の表情で江澄は自身の行動に気付き、袖を握った手を離した。すまない、と呟き、俯く。らしくもない行動をしてしまったと、頬がじわじわと熱を持って行く。ふ、と軽く笑う声。そっと、藍曦臣の手が江澄の頬に触れた。ゆっくりと顔を上げる。甘く、優しく微笑む藍曦臣。そして、いつものように。江澄の髪を一房掬い、口付けていた。
「あなたはいつも、俺の髪に口付ける」
「……嫌だった?」
「嫌とは、言っていない。ただ、」
どうしてだろうか、と思っただけだ。そう江澄が尋ねれば、藍曦臣は微笑みはそのままに。
「私はいつも、あなたを恋しく思っています」
薄い色を微かに滲ませながら。
「少しでもそれが伝われば……」
遠慮がちなそれを、江澄は鼻で笑う。
普段から分かりやすく、愛を示してくる癖して。変な所で控えめな男だ。
「随分と分かりにくい」
「口にしたら、困らせてしまうかもしれないだろう?」
「俺が困るとでも?」
藍曦臣が江澄にするように、藍曦臣の髪を一房掬う。軽く引き寄せそして、少しだけ目線の高い綺麗な顔へ。
唇が離れ、惚けたような表情をする目の前の男。
「……髪でなく、次からは此処にすればいい」
江澄の言葉に、甘く優しく、笑う表情には。
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