曦澄SSまとめ
9月25日の花 ノボタン(ひたむきな愛情)
あなたの手は温かい。そう微笑まれ、初めて触れられた日のことを思い出す。
あれはいつの事だっただろうか。彼が弱々しく、今にもこのまま消えてしまいそうな、一度も見た事のない姿であった頃。
「晩吟と呼ぶ事を、お許しください」
そっと握られた、手。それは氷のように冷たく、彼の心情を表しているかのような温度。
「あなたの手はとても温かい。優しい温もりがする」
「……藍曦臣、あなたの手は酷く冷たい」
自身の言葉に、ハッとしたように手を離そうとした目の前の微かな存在。離れようとする腕を力強く掴み、引き寄せた。
背丈も体格も彼の方が上のはず。なのに。
抱き寄せた瞬間、その時だけは小さな子供のように思えてしまった。
「だから、これからは俺が暖めてやる」
初めて触れられた日、全ての始まり。
彼の弱々しく、痛々しい微笑みは。
その日以来一度も見たことが無い。