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曦澄SSまとめ




――さあさあ、しとしと、さあさあ。

徐々に覚醒していく意識と共に、耳に入る静かな音。どうやら、外は雨らしい。時刻は卯の刻ごろであろうか。朝、だが降り頻る雨のせいで部屋の中まで薄暗い。微かな肌寒さを覚え、温もりを求め腕を伸ばした。しかし隣にある筈の姿がなく、伸ばした腕は宙を切り、寝台へ沈む。

「藍渙……?」

手に触れる、ひやりとした白。昨夜感じた温もりすら、残されていない。普段と異なる朝へ恐れを抱いたまま、小さな声で名前を呼ぶ。反応はなかった。胸騒ぎを覚え、身体を起こし部屋中を見渡す。灯りもなく、薄暗い部屋の中。窓辺に静かに佇む男、求めていた姿はちゃんとそこにあった。思わず安堵の息を漏らし、今度ははっきりと、藍渙、そう呼びかける。ようやく此方が起きた事に気付いたらしい彼は振り向き、阿澄、優しい声で応えてくれる。

寝台から降り、彼の元へ。おはよう、と優しく此方の頬に口付けを落とし、緩く頭を撫でられる。

「どうしたの、そんなに不安そうな顔をして」
「隣に、あなたがいなかった」
「寂しかった?」
「……少し」

羽織の裾を掴み、ぼそり。雨音に消されてしまいそうな程小さな声、それに彼は甘く微笑みを返してくる。

「阿澄が素直に甘えてくるなんて」

これは雨のせい? などと冗談めいた言葉、喜色を満面に湛えた彼。若干の恥ずかしさを感じ、睨みつけた。彼はそれを気に留める様子もなく、今度は額へ口付けを寄越してくる。

「……勝手に何処かへ行くな」

彼の胸元に顔を埋め、呟く。
こんな事を言ってしまうのも、雨のせいだ。しとしと、静かな雨音が聞こえるなか。酷く静かな空間が、彼がいなかった一瞬をより心細く思わせているだけ。

「約束するよ」

と彼は甘い声で。そして優しく、抱き締められる。彼の香り、ぬくもり。

はっきりと聞こえていた筈の雨音など、もはや微か。
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