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曦澄SSまとめ

願い事


密やかに。心の奥底に、抱いた感情。
それを吐き出す事は、一生ないだろう。

真剣な眼差し、共に居ても。常に彼が一番に思う事を、よく理解しているつもりである。宗主として、誰よりも真摯に。人々の事を考えている、大切に、想っている。

周囲が感じる印象とはまた異なり。元来彼は真面目であり、とても優しい人間なのだ。そんな彼の事を愛おしく想い、支えたいと感じる。

だが。

「……あなたには感謝している」
「感謝?」
「いつも、相談ばかりしてしまうが」
「そんな事は」
「藍渙……あなたが居てくれて、助かっている」

柔らかく、此方へ微笑む表情。誰も知らない、誰にも知って欲しくは無い、彼の顔。
その表情を見る度に、ちらつく感情。

信頼されている、誰よりも。彼に愛されている事は、理解している。それと同時に、彼にとっての一番大切なものが自分自身でない事も、よく理解している。
彼の幸せを考えた時に、自らが思うこの望みを伝える事は最善ではない。
誰にも触れさせず、誰にも彼の声も表情も、その全てを。
自分だけの物に、する事など。

彼の幸せは、雲夢の人々が幸せであること。そして雲夢江氏が永遠であることに他ならない。

「……江澄、あなたが幸せであることが私の願いだから」

本心を隠し、努めて普段通りに。嘘ではない言葉を、彼へ送る。
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