夜狩

「……一体どういうつもりだ」

数歩先に居た彼が徐ろに立ち止まり、此方を振り返る。そして可愛らしい顔を歪ませ、きつく睨んできた。声色は、やけに低い。若干の嫌悪感と苛立ちを感じさせる、それ。

「どういうつもり、とは」

何の事を言っているのか、さっぱり分かりません。そのつもりで言った言葉へ、忌々しげに舌打ちで返される。何か機嫌を損ねる事でも、してしまったのだろうか。思い当たる節がない。

「藍曦臣、あなたは俺を馬鹿にしているのか？」
「馬鹿にしている？　どうして？」
「己の行動を思い返してみろ！」

怒鳴るような、それ。気付かぬ間に何をしてしまい、彼を苛立たせてしまったらしい。共に夜狩に出掛け、颯爽と妖魔を退治していく彼。特に何かをした訳でも無く、ただ見守っていただけだったと思うが。勿論、その度に数々の賞賛の言葉を掛けていたくらいである。思い返してみても、さっぱり分からない。此方が何も言わないからか、彼はまた舌打ちをひとつ。

「剣を扱うあなたはまるで花が舞うように可憐だ、思わず見惚れてしまったよ？　本当に優雅だ、晩吟のような美しい人に祓われるなら本望だろうね？　全く意味が分からない、さっきから何が言いたいんだ！」
「照れている？」
「ふざけるな！」
「晩吟はそう言われることが好きなのでは」
「……誰の入れ知恵だ」
「誰とは言わないけれど」

此方の言葉を受け、彼が再び何度目かも分からない舌打ち。相当苛立っている様子だ。彼はこのように褒められる事が好きだと、聞いたはずなのに。
駄目だったかな、でも怒っているあなたも可愛らしいよ。そう言ってみれば、目の前の彼は目を瞬かせる。そして頭を抱え、今度は大きな溜息を吐いていた。