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曦澄SSまとめ

友人にはなれない



「あなたの親しい友人の一人に、なれないだろうか」

咄嗟に出た発言だった。その江澄の言葉に藍曦臣は一瞬目を見開き、そしてすぐに困ったように微笑む。しまった、と思わず江澄は自らの口を抑える。不躾にも程があった、かもしれない。
本心からの言葉だ。藍曦臣は、以前と比べ幾らか元気を取り戻している。だが、時々寂しそうな顔を江澄に見せてくる。何か言う訳でもなく、ただただ悲しそうに、縋るような目で。

その理由を、江澄は知りたい。
放って置けません、どうか無理をなさらずに。よく藍曦臣は江澄に、言葉を掛ける。他人の事ばかり気に掛けて、では藍曦臣自身はどうなのだろうか。藍曦臣こそ、無理をしていないか。
江澄に言わせれば、放って置けないのは、藍曦臣の方だ。まるで捨てられた子犬のような目をしている癖に、何も言わないまま。江澄は、察しのいい方ではない。そんな目を向けられても、そんな表情をされても、藍曦臣が何を考えているのかなんて分からない。

だから、思わず言ってしまったのだ。親しい友人となれば、気兼ねなくこの男だって本心を話してくれるだろうと。

「……江宗主、あなたの気持ちはとても嬉しい。ですが」

変に気まずい静寂、それを解いたのは藍曦臣だった。声色は何処か仄暗く、藍曦臣らしくもなく重々しい。

「あなたと親しい友人にはなれません」

冷水を浴びたような衝撃だった。飴色のその瞳が冷たく江澄を睨みつけているようにも思え、身体の震えが止まらない。気分を害してしまった、失礼にも程があるだろう、早く謝罪をしなければ。
江澄が謝罪をしようと口を開こうとした、刹那。藍曦臣に強く腕を掴まれる。そのまま引き寄せられ、綺麗な顔が近付いてくる。
ふわりと香る白檀、柔らかな感触。

一瞬、確かにそれは一瞬だった。
だがその瞬間だけ、江澄の目に映る光景が遅々とし。

「……私はあなたを、」

そして、互いを取り巻く全てが、動きを止めた。

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