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曦澄SSまとめ

恋しくて名前を呼ぶ


静かな夜であった。
四季が巡り、日が沈めば肌寒さも覚える時季。もうひと月もすれば、雪もちらつき始めるだろうか。灯りを消した薄暗い部屋へ、外から微かに光が差す。眠りにつくには、少し早い。窓を少し開け、夜空を見上げた。
目に飛び込んで来たのは、金色。煌々とした見事な満月だ。澄んだ夜空に、とても映えている。綺麗だ、そう思うと同時に浮かぶ愛おしい姿。
「……晩吟」
名前を呟く。名前を呼んだ声に返答は無く、夜の空気に溶ける。今隣に居ない事実をひしひしと感じ、酷く己の心を冷やしていく。
堪らず、筆を取った。
――今宵の月はとても綺麗です。もしも今、貴方が隣に居てくれたのなら、どれ程幸せだったでしょうか。


静かな夜であった。
吹き付ける風が、冷たく思える時季。届いた文に目を通しながら、そろそろ雪がちらつき始めるだろう遠くの地を思う。
数日前の満月は、とても綺麗だった。思わず見入ってしまう程に。綺麗だ、そう感じた瞬間に思い浮かべた事がある。
それは、届いた文に綴られた想いと同じ。
少し窓を開け、夜空を見上げた。目に映るそれが酷く寂しく思え、すぐに窓を閉めた。
「……藍渙」
滅多に呼ばない、その名を呟く。次に逢えるのはいつになるだろうか。
今宵の月は遠く、欠けている。
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