曦澄SSまとめ
なんでこの手を離してくれないの
「どうして逃げるんですか」
今日こそは、と。そんな意味を込めている様な鋭い視線で、此方をみつめてくる。掴まれた腕を振り解くことすら叶わない。
あなたが好きです。そう告げられたのは、随分と前の話。揶揄っているのだろうと、最初は思っていた。鼻で笑い、笑えない冗談だな、と返してみれば。「本気ですよ」なんて、普段と何も変わらない笑みを浮かべながら。今までの人生の中で、一度も向けられた事のない感情だった。それに対する動揺と若干の恐怖から、適当な取り繕う言葉を返し……その男から逃げる様にその場を去ったのだった。
此方のそんな態度に屈する事なく、そこから顔を合わせる度に告げられる愛の告白。いつも上手く……本当に上手いかどうかは分からないが……はぐらかしどうにか乗り切ってきたのだが。
今日はそうもいかないらしい。
「逃げてなど」
「そうでしょうか」
「ああ。だから腕を離せ」
「江宗主、私の目を見て」
酷く優しい声だ。事実、先程からこの男の顔を見る事が出来なくなってしまった。理由は、分からない。分かりたくない。
「……嫌だ」
自分らしくもない、弱々しい声になってしまった。見なくても分かる。薄い色をしたそれが、ちりちりと痛いくらいにずっと、此方をみつめている事くらい。
どうして俺なんだ、あなたにはもっと。その言葉を飲み込む。そう言ったところで、何になるのだろう。
かつて、ほのかに芽生えた淡い感情。蓋をして、ずっとずっと奥底へ仕舞い込んだはずのそれを。目敏く見つけ出された、それを。
もう十分理解している。
この男が待っている返答は、蓋をした中にあるそれ、それだけだと。
「どうして逃げるんですか」
今日こそは、と。そんな意味を込めている様な鋭い視線で、此方をみつめてくる。掴まれた腕を振り解くことすら叶わない。
あなたが好きです。そう告げられたのは、随分と前の話。揶揄っているのだろうと、最初は思っていた。鼻で笑い、笑えない冗談だな、と返してみれば。「本気ですよ」なんて、普段と何も変わらない笑みを浮かべながら。今までの人生の中で、一度も向けられた事のない感情だった。それに対する動揺と若干の恐怖から、適当な取り繕う言葉を返し……その男から逃げる様にその場を去ったのだった。
此方のそんな態度に屈する事なく、そこから顔を合わせる度に告げられる愛の告白。いつも上手く……本当に上手いかどうかは分からないが……はぐらかしどうにか乗り切ってきたのだが。
今日はそうもいかないらしい。
「逃げてなど」
「そうでしょうか」
「ああ。だから腕を離せ」
「江宗主、私の目を見て」
酷く優しい声だ。事実、先程からこの男の顔を見る事が出来なくなってしまった。理由は、分からない。分かりたくない。
「……嫌だ」
自分らしくもない、弱々しい声になってしまった。見なくても分かる。薄い色をしたそれが、ちりちりと痛いくらいにずっと、此方をみつめている事くらい。
どうして俺なんだ、あなたにはもっと。その言葉を飲み込む。そう言ったところで、何になるのだろう。
かつて、ほのかに芽生えた淡い感情。蓋をして、ずっとずっと奥底へ仕舞い込んだはずのそれを。目敏く見つけ出された、それを。
もう十分理解している。
この男が待っている返答は、蓋をした中にあるそれ、それだけだと。