タクシーを使ってネアポリス市内へと向かう。康一とトムが承太郎から聞いていた『汐華初流乃』の現住所は、ネアポリスにある中高合併型の学園の中等部寄宿舎だった。
つまり『汐華初流乃』は日本でいうまだ中学生ということになる。現在の時間なら学校へ行って勉強をしている筈だが、それが空港へいたということは学校はサボったのだろう。
学校をサボってスリをし、しかし失敗して逃げた。そこから素直に学校へ戻るかと考えたら、トムは絶対に戻らないだろうと断言出来る。
せめて学校が終わり他の生徒も寄宿舎に帰り始める時間までは、寄宿舎へ戻って人目に付くなんて行動はしない。

「学校に行ってないくせに」
「学校へ行ってるせいで世間の目が何を見ているのか考えつかないのなら、今すぐ中退することをお勧めします。勉強はどこでも出来るし高校卒業程度の勉学なんて基本もいいところなんですから」

むしろトムとしてはあんな閉鎖空間へ好んで通う精神が理解出来なかった。学校など幼少期に学ぶことを教える足がかりにすれば、後は専門的な知識だけを研究させる場になればいいのだ。それだったらトムも喜んで学校へ通うだろう。
ともあれネアポリスの中心街でタクシーを降り、寄宿舎への道を歩きながら『汐華初流乃』か『ジョルノ・ジョバァーナ』に繋がる情報を探す。広い街でやみくもに一人の少年を捜すのは骨が折れる情報だが、絞り込む手段は色々とあった。
通りを歩いていると、道ばたへ置かれていた荷物を見た康一が顔をしかめる。

「あの人達不用心だな。あんな離れたところへ鞄を置いちゃって、ボクみたいに盗まれたらどうすんだろ？」
「……康一さん。あの人達の鞄を盗むバカはいないと思いますよ」

呆れながら言えば会話が聞こえていたらしいカフェのマスターが吹き出していた。

「どうして？ あんなんじゃ日本でだって盗まれるよ」
「あの人達はマフィア、いやギャングかな？ そういう人達ですよ」

鞄を地面へ放置して話し込んでいる男達を眺める。

「マフィアやギャングってのは一概に犯罪組織だと思われがちですが、イタリアではその限りではないんですよ。元は富裕層や貴族の横暴から身を守ろうとした自警団が始まりで、今でこそ悪事や法律を守らないなんてことも多少はありますが、彼らが地域を見守ることで治安維持や彼等以外の犯罪防止を担っているんです」

だからトムはマフィアやギャングを忌避しない。それに『前世』とはいえトムの親戚はマフィアだったのだ。それをただの犯罪者と一括りにされるのは業腹である。
ちなみに、当然だがギャングよりマフィアの方がトムの好感度は高い。