五部
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警備員の話からして『ジョルノ・ジョバァーナ』というらしい少年はトランクを持って逃げはしなかった。隠して持っていける大きさでもないので、持ち逃げしていないことは確かだ。
けれども車の中に康一のトランクはない。トランクを乗せた助手席にあるものと言えば、粘液へ包まれたテニスボールほどの丸い物体が張り付いているだけ。
サイズは違うがカエルの卵の様だと思う。半透明な膜の中には何か核の様な物があり、じっと観察しているとそれが脈打っていることが分かる。
やがてそれがカエルの形へと進化したかと思うと、自ら膜を破って外へと出てきた。その姿はサイズこそ大きめだが立派なカエルである。
「かわいい」
「トム君のペットの餌だろ。じゃなくて! なんで『生き物』がこんなところに……ぼくのスーツケースをどうしちまったんだ!?」
トムがカエルを捕まえようとするも、カエルはトムの手をかわして排水溝へと逃げていった。つぶらな目がナギニへ似ていて可愛かったが、両生類なので水のある場所へいたほうがいいだろう。
「やばいよ……。お金もカードも帰りの航空券もあの中へ入れてるんだ!」
「ハァ? まさかパスポートまであの中だったなんて言わないですよね?」
「パ、パスポートも……デス」
「バッカじゃないのか!? 最低限パスポートは肌身離さず持っていろと忠告したよな!?」
思わず怒鳴れば康一は気まずげにトムから顔を逸らした。つまり忠告を聞いておきながら楽観視して言う通りにしていなかったのだろう。
旅慣れしていない日本人のお人好し扱いをするなと言っていたが、これは酷い。
「年功序列という言葉が好きならしっかりと僕に従っておけ! 海外の経験は僕の方が上だったんだぞ。その僕の忠告を無視しておいてのこの状況だ。僕は貴方のお世話係として付いてきた訳じゃないんだぞ!」
「ご、ごめん……」
謝ったところでトランクは戻ってこないし、怒鳴ったところで事態が好転する筈もない。まだイタリアへ着いたばかりだというのに苦労させられることにトムこそ頭を抱えたくなった。
どうして承太郎はこんな奴に頼み事をしたのか。
仕方なしにトムは服の下へ隠していた相棒のナギニを取り出した。ナギニが心得た様子で身を絡ませ杖の形をとるのに、後ろでスタンドを出し逃げた少年を探させようとしている康一へ隠れて呼び寄せの呪文を唱える。
だがトランクが戻ってくることはなかった。
「……?」
トムの魔法はこの世界でも有効だ。その上魔力だって少年が走って逃げた程度の距離ならトランクを引き寄せるくらい問題はない。
なのでトランクが戻ってこないというのはおかしかった。
けれども車の中に康一のトランクはない。トランクを乗せた助手席にあるものと言えば、粘液へ包まれたテニスボールほどの丸い物体が張り付いているだけ。
サイズは違うがカエルの卵の様だと思う。半透明な膜の中には何か核の様な物があり、じっと観察しているとそれが脈打っていることが分かる。
やがてそれがカエルの形へと進化したかと思うと、自ら膜を破って外へと出てきた。その姿はサイズこそ大きめだが立派なカエルである。
「かわいい」
「トム君のペットの餌だろ。じゃなくて! なんで『生き物』がこんなところに……ぼくのスーツケースをどうしちまったんだ!?」
トムがカエルを捕まえようとするも、カエルはトムの手をかわして排水溝へと逃げていった。つぶらな目がナギニへ似ていて可愛かったが、両生類なので水のある場所へいたほうがいいだろう。
「やばいよ……。お金もカードも帰りの航空券もあの中へ入れてるんだ!」
「ハァ? まさかパスポートまであの中だったなんて言わないですよね?」
「パ、パスポートも……デス」
「バッカじゃないのか!? 最低限パスポートは肌身離さず持っていろと忠告したよな!?」
思わず怒鳴れば康一は気まずげにトムから顔を逸らした。つまり忠告を聞いておきながら楽観視して言う通りにしていなかったのだろう。
旅慣れしていない日本人のお人好し扱いをするなと言っていたが、これは酷い。
「年功序列という言葉が好きならしっかりと僕に従っておけ! 海外の経験は僕の方が上だったんだぞ。その僕の忠告を無視しておいてのこの状況だ。僕は貴方のお世話係として付いてきた訳じゃないんだぞ!」
「ご、ごめん……」
謝ったところでトランクは戻ってこないし、怒鳴ったところで事態が好転する筈もない。まだイタリアへ着いたばかりだというのに苦労させられることにトムこそ頭を抱えたくなった。
どうして承太郎はこんな奴に頼み事をしたのか。
仕方なしにトムは服の下へ隠していた相棒のナギニを取り出した。ナギニが心得た様子で身を絡ませ杖の形をとるのに、後ろでスタンドを出し逃げた少年を探させようとしている康一へ隠れて呼び寄せの呪文を唱える。
だがトランクが戻ってくることはなかった。
「……?」
トムの魔法はこの世界でも有効だ。その上魔力だって少年が走って逃げた程度の距離ならトランクを引き寄せるくらい問題はない。
なのでトランクが戻ってこないというのはおかしかった。