五部
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「警備員に袖の下を渡してるのを見ておいて、あんなに堂々と引っかかる旅行客初めて見ました。僕にもまだ知らない世界があったんですね」
「そんなこと言ってないで分かってたなら教えてよ!」
「自分で『甘く見ないで』って言ってたじゃないですか。僕は貴方が危険へ巻き込まれた時の護衛ですからね?」
「今がその時だよ!」
叫びながらも康一は自身のスタンドを出して逃げようとしていたタクシーを止めていた。スタンド使いではないトムには康一のスタンドも見えないが、走り去っていく筈のタクシーが重く地面へ沈み込んだので、おそらくはそうだろう。
普通は車が重くなって沈む筈がなく、エンストしたと思ったのだろう少年が運転席から降りてくる。トム達を見る視線はけれども、盗みが失敗した事へ対する焦燥感も無い平然としたものだった。
「別に逃げてもいいよ。荷物さえ無事ならそれでいいんだもん」
「というか、捕まえてもムダですよ」
「なんで?」
「警備員に賄賂渡してたからスリとして引き渡してもすぐに釈放されます。袖の下ってそういうものですし」
少年はトム達のそんな会話が聞こえていたのかいないのか、悠然と逃げていく。
念の為名前くらいは確認しておけば良かったなと思っていると、後ろで先程の警備員達が話しているのが聞こえた。やはり袖の下を貰っているで、目の前で起こった犯罪でもトム達へ声を掛けてくることはない。
「見ろよ、ジョルノのやつエンストして失敗したみたいだぞ」
「あいつ半分日本人のくせして日本の旅行者を騙そうとするからバチがあたったんだ」
こちらがイタリア語を理解しきれないと思ってか好き勝手言っている。
「もっとも、あの髪色じゃジョルノ・ジョバァーナを日本人と分かる奴はいないがな」
「いや、染めたんじゃないらしいぜ。黒髪だったのがここ最近急に金髪になったらしいんだ。本人はエジプトで死んだ父の遺伝だと言っている」
他人の個人情報をよくもまあペラペラと喋るものだが、今はそれが少し有り難かった。
『エジプトで死んだ父』というのが、妙に気になったのである。
康一が捜しにきた『汐華初流乃』という少年の“父親”は、約十二年前に“エジプト”で殺されたのだ。
トムが警備員達の話を盗み聞きしている間に、康一が置いて行かれただろうトランクを取り返そうとタクシーの中を確認していた。
だがそこにトランクは見当たらず、康一が信じられないとばかりに叫ぶ。トムが車の中を覗き込めば確かに康一のトランクは無くなっており、代わりにとでも言うべきか助手席には何故か粘液へ包まれた丸い物体が付着していた。
「そんなこと言ってないで分かってたなら教えてよ!」
「自分で『甘く見ないで』って言ってたじゃないですか。僕は貴方が危険へ巻き込まれた時の護衛ですからね?」
「今がその時だよ!」
叫びながらも康一は自身のスタンドを出して逃げようとしていたタクシーを止めていた。スタンド使いではないトムには康一のスタンドも見えないが、走り去っていく筈のタクシーが重く地面へ沈み込んだので、おそらくはそうだろう。
普通は車が重くなって沈む筈がなく、エンストしたと思ったのだろう少年が運転席から降りてくる。トム達を見る視線はけれども、盗みが失敗した事へ対する焦燥感も無い平然としたものだった。
「別に逃げてもいいよ。荷物さえ無事ならそれでいいんだもん」
「というか、捕まえてもムダですよ」
「なんで?」
「警備員に賄賂渡してたからスリとして引き渡してもすぐに釈放されます。袖の下ってそういうものですし」
少年はトム達のそんな会話が聞こえていたのかいないのか、悠然と逃げていく。
念の為名前くらいは確認しておけば良かったなと思っていると、後ろで先程の警備員達が話しているのが聞こえた。やはり袖の下を貰っているで、目の前で起こった犯罪でもトム達へ声を掛けてくることはない。
「見ろよ、ジョルノのやつエンストして失敗したみたいだぞ」
「あいつ半分日本人のくせして日本の旅行者を騙そうとするからバチがあたったんだ」
こちらがイタリア語を理解しきれないと思ってか好き勝手言っている。
「もっとも、あの髪色じゃジョルノ・ジョバァーナを日本人と分かる奴はいないがな」
「いや、染めたんじゃないらしいぜ。黒髪だったのがここ最近急に金髪になったらしいんだ。本人はエジプトで死んだ父の遺伝だと言っている」
他人の個人情報をよくもまあペラペラと喋るものだが、今はそれが少し有り難かった。
『エジプトで死んだ父』というのが、妙に気になったのである。
康一が捜しにきた『汐華初流乃』という少年の“父親”は、約十二年前に“エジプト”で殺されたのだ。
トムが警備員達の話を盗み聞きしている間に、康一が置いて行かれただろうトランクを取り返そうとタクシーの中を確認していた。
だがそこにトランクは見当たらず、康一が信じられないとばかりに叫ぶ。トムが車の中を覗き込めば確かに康一のトランクは無くなっており、代わりにとでも言うべきか助手席には何故か粘液へ包まれた丸い物体が付着していた。