六部
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トム視点
「……“アイリン”?」
「? ええ、そうよ」
不思議そうに彼女が頷く。“アナキス”が敵を見るような目をトムへ向けるのに、けれどもトムは次の言葉を言おうとして、結局言わずに飲み込んだ。
「そっか。――悪いんだけど、この子を連れていってくれるかな。僕はどうやらここまでみたいだから」
「連れじゃないの?」
「違うんだ」
エンポリオがトムを振り返る。その傍へ寄って頭を撫でてやった。
「『雨の日』に君達と出会うなんて面白いね。僕の父さんも『雨の日』に出会ったらしいからね」
訳が分からないという顔を、『エルメェスによく似た彼女』がする。『アナスイへよく似た“アナキス”』は訝しげにトムを見ていて、『徐倫によく似た“アイリン”』は、ただただ不思議そうにトムを見つめていた。
彼らはトムの知っている者じゃない。けれども『同じ』で、トムはこういう事を父から聞いたことがあった。
父もそれを経験したことがあるらしい。『同じ』で『違う』者達との出会いを。
「結婚するのか。良いと思うよ。君の父さんが反対したって僕は祝福するよ。結婚には祝福が必要なんだろ?」
「お……おう。ありがとう」
祝福されると思っていなかったのか、アナキスが戸惑いながらも礼を言う。
雨が強くなっていく。嵐が来るのは本当かも知れない。
アイリンへ向けてエンポリオを押しやって、トムは踵を返した。後ろからアイリンの止める声がしたが無視する。
強くなる雨にアイリンがエンポリオへ名前を尋ねる声が遠くなっていった。
「エンポリオ。……ぼくの名前は、エンポリオです」
泣き声混じりのその声に、トムはけれども立ち止まらずに歩き続ける。暫くして車のドアが閉まる音が数回。それからエンジンが掛けられる音が響いて遠ざかっていった。
完全に聞こえなくなった排気音にトムは足を止めて振り返る。
彼らのこの先の冒険に、幽霊のトムはついていけない。本来ここへいるべきじゃない魂が出来ることもないだろう。
けれどもそれでいい。彼女達の幸せこそ、トムとトムの父であるアマネが望んだものだ。
雨の降る空を見上げて、目を閉じた。
「君達の切り開く旅路に、たくさんの幸いがありますように」
雨雲の向こう。遙か空の彼方でもたくさんの星が瞬いている。
それらは互いに、どんなに距離があっても孤独ではないのだ。
第六部 ~『縁』の海~ 終
「……“アイリン”?」
「? ええ、そうよ」
不思議そうに彼女が頷く。“アナキス”が敵を見るような目をトムへ向けるのに、けれどもトムは次の言葉を言おうとして、結局言わずに飲み込んだ。
「そっか。――悪いんだけど、この子を連れていってくれるかな。僕はどうやらここまでみたいだから」
「連れじゃないの?」
「違うんだ」
エンポリオがトムを振り返る。その傍へ寄って頭を撫でてやった。
「『雨の日』に君達と出会うなんて面白いね。僕の父さんも『雨の日』に出会ったらしいからね」
訳が分からないという顔を、『エルメェスによく似た彼女』がする。『アナスイへよく似た“アナキス”』は訝しげにトムを見ていて、『徐倫によく似た“アイリン”』は、ただただ不思議そうにトムを見つめていた。
彼らはトムの知っている者じゃない。けれども『同じ』で、トムはこういう事を父から聞いたことがあった。
父もそれを経験したことがあるらしい。『同じ』で『違う』者達との出会いを。
「結婚するのか。良いと思うよ。君の父さんが反対したって僕は祝福するよ。結婚には祝福が必要なんだろ?」
「お……おう。ありがとう」
祝福されると思っていなかったのか、アナキスが戸惑いながらも礼を言う。
雨が強くなっていく。嵐が来るのは本当かも知れない。
アイリンへ向けてエンポリオを押しやって、トムは踵を返した。後ろからアイリンの止める声がしたが無視する。
強くなる雨にアイリンがエンポリオへ名前を尋ねる声が遠くなっていった。
「エンポリオ。……ぼくの名前は、エンポリオです」
泣き声混じりのその声に、トムはけれども立ち止まらずに歩き続ける。暫くして車のドアが閉まる音が数回。それからエンジンが掛けられる音が響いて遠ざかっていった。
完全に聞こえなくなった排気音にトムは足を止めて振り返る。
彼らのこの先の冒険に、幽霊のトムはついていけない。本来ここへいるべきじゃない魂が出来ることもないだろう。
けれどもそれでいい。彼女達の幸せこそ、トムとトムの父であるアマネが望んだものだ。
雨の降る空を見上げて、目を閉じた。
「君達の切り開く旅路に、たくさんの幸いがありますように」
雨雲の向こう。遙か空の彼方でもたくさんの星が瞬いている。
それらは互いに、どんなに距離があっても孤独ではないのだ。
第六部 ~『縁』の海~ 終
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