六部
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
トム視点
エンポリオと手を繋いでグリーン・ドルフィン・ストリート刑務所前の道路を歩く。エンポリオは二人で刑務所を出てからずっと黙り込んでおり、トムはトムで何も言う必要がなかったので黙っていた。
プッチ神父が目指した『天国』への道は、神父が死んだことで閉ざされた。未来を全て知ることで、前もって覚悟できるだけの『天国』を果たして天国と呼んで良かったのかもトムには分からない。
ただここは、そのせいでどうやら一巡もしていない世界になってしまったようだった。
きっとこの世界に、トムが望むものは何一つ無い。
けれどだからといって、世界に絶望もしてやらない。
「あ……バス」
すぐ近くのバス停から、停まっていたバスが発車してしまう。
トムの手を離したエンポリオがそれを追いかけるように走って、でも当然追いつくことなんて出来ない。バスの時刻表を見れば、次のバスまで二時間もある。
ふとその去っていくところだったバスが停車した。エンポリオへ気づいたのかと思ったが、予想に反して騒がしい客を降ろしただけらしい。
バスを降りてきた客にエンポリオが目を丸くする。
「おっ、お前等。このバス乗るのか? このカネクズれる? この五十ドル札」
そう言って五十ドル紙幣を振る彼女は、ドレッドヘアをした“見覚えのある”女性だった。近くにあるガスステーションで五十ドルを崩すつもりだったのだろうが、彼女の荷物がバスから放り出されバスが再び出発してしまった。
バスに対しての憤りをエンポリオへ向ける彼女に、ガスステーションの傍で停車した車に寄りかかっていた男が話しかける。
「なぁ! オレの車ガス欠なんだよ。ガソリン代とメシ代奢ってくれるんならば好きなとこまで乗っけってってやってもいいぜ」
その男を見てエンポリオが言葉を無くした。
「そっちの二人もどうだ?」
「そうやって旅費浮かしてんのか? 知らない人の車に乗っちゃダメってウチの姉ちゃんが言ってた」
空からポツリポツリと雨が降り始める。彼女と男が空を見上げた。嵐が来るかも知れない。
男が寄りかかっていた車の窓が開いて、中へ乗っていた女性が顔を出す。
「乗りなよ。怪しい者じゃないわ。あたしは“アイリン”。彼の名は“アナキス”よ」
そう名乗った“アイリン”がドアを開けて身を乗り出せば、“アナキス”が丁寧にその手へと触れた。
「あたしたちこれから父さんのところへ会いに行くのよ。どうなるかわからないけど父さんさえ許してくれれば、結婚するかも」
雨がどんどん強くなっていく。
エンポリオと手を繋いでグリーン・ドルフィン・ストリート刑務所前の道路を歩く。エンポリオは二人で刑務所を出てからずっと黙り込んでおり、トムはトムで何も言う必要がなかったので黙っていた。
プッチ神父が目指した『天国』への道は、神父が死んだことで閉ざされた。未来を全て知ることで、前もって覚悟できるだけの『天国』を果たして天国と呼んで良かったのかもトムには分からない。
ただここは、そのせいでどうやら一巡もしていない世界になってしまったようだった。
きっとこの世界に、トムが望むものは何一つ無い。
けれどだからといって、世界に絶望もしてやらない。
「あ……バス」
すぐ近くのバス停から、停まっていたバスが発車してしまう。
トムの手を離したエンポリオがそれを追いかけるように走って、でも当然追いつくことなんて出来ない。バスの時刻表を見れば、次のバスまで二時間もある。
ふとその去っていくところだったバスが停車した。エンポリオへ気づいたのかと思ったが、予想に反して騒がしい客を降ろしただけらしい。
バスを降りてきた客にエンポリオが目を丸くする。
「おっ、お前等。このバス乗るのか? このカネクズれる? この五十ドル札」
そう言って五十ドル紙幣を振る彼女は、ドレッドヘアをした“見覚えのある”女性だった。近くにあるガスステーションで五十ドルを崩すつもりだったのだろうが、彼女の荷物がバスから放り出されバスが再び出発してしまった。
バスに対しての憤りをエンポリオへ向ける彼女に、ガスステーションの傍で停車した車に寄りかかっていた男が話しかける。
「なぁ! オレの車ガス欠なんだよ。ガソリン代とメシ代奢ってくれるんならば好きなとこまで乗っけってってやってもいいぜ」
その男を見てエンポリオが言葉を無くした。
「そっちの二人もどうだ?」
「そうやって旅費浮かしてんのか? 知らない人の車に乗っちゃダメってウチの姉ちゃんが言ってた」
空からポツリポツリと雨が降り始める。彼女と男が空を見上げた。嵐が来るかも知れない。
男が寄りかかっていた車の窓が開いて、中へ乗っていた女性が顔を出す。
「乗りなよ。怪しい者じゃないわ。あたしは“アイリン”。彼の名は“アナキス”よ」
そう名乗った“アイリン”がドアを開けて身を乗り出せば、“アナキス”が丁寧にその手へと触れた。
「あたしたちこれから父さんのところへ会いに行くのよ。どうなるかわからないけど父さんさえ許してくれれば、結婚するかも」
雨がどんどん強くなっていく。