六部
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
フローリングの部屋に置かれた仏壇。
泣いている彼の母親を支えながらも、自身も泣くのを堪えている父親。
飾られた写真の中で彼はぎこちなく微笑んでいた。アマネの見たことのない笑みだと思ったのは、そもそも彼と話したのが数度しか無かったからか。
腹部へ大穴が開いたらしい。その後給水塔へ直撃し、どちらの衝撃が致命傷だったのかも分からない程の損傷だったという。アマネでもあるまいしいったい何があればそんな奇妙な体験をするのだ。
見せてもらったその時着ていたらしい制服にはぽかりと穴が開いていた。縁は焦げたのか血のせいか赤黒く制服の緑色の名残もない。背中まで貫通している物だから向こう側が丸見えだった。
友達になりたいと考えていたのである。
きっとアマネは彼と友達にしかなれないと思っていた。彼の秘密は何一つ分からない。何を隠して何を抱えて何を守っているのかも分かりはしなかったのだ。
だがそれはアマネも同じで、真実を隠して影を抱えて自分を守っていた。
乾いた血塗れの制服。
緑色がアマネは自分には似合わない制服だと思っていたけれど、花京院にはよく似合っていたかもしれない。それを言ってやれば彼はどんな顔をしただろうか。優等生のくせに長ランにしていた。
皹の入ったピアス。
校則なんて気にせずに付けていた。アマネも腕輪を付けていたから同罪か。よく揺れていたのを覚えている。
『その中にあった一文がとても印象的でね。『すみわたる夜空のような』という一文だ。――君なら、どんな続きを考える?』
「……すみわたる夜空の、ような……孤独から」
すみわたる夜空のような孤独のなかで、彼が望んだものは何だったか。
腹に穴の開いた状態で、彼は何を考えたのだろうか。
きっとアマネのことなんて微塵たりとも思い出さなかっただろう。彼はもっと違うことを考えた。
それでいい。それでもいいから生きて戻ってきて欲しかった。
血塗れの制服の穴の縁に、緑色の紐の様なものが見えた気がする。確かめてみるが何も無かったので見間違いだろうと思った。
『――君なら、どんな続きを考える?』
『花京院』の顔も声も雰囲気も何もかもを忘れしまうのを恐れて、自身に彼の面影を求めてきた。ストールも女性的と言われていた彼の雰囲気も、結局は何の意味も無かったというのに。
そうして二十年も経って今、アマネは彼の言葉を思い出した。
『――君なら、どんな続きを考える?』
「……星の様に遠い場所へいる君へ、どんな『続き』を贈りゃいい?」
『ノホホ』
花京院が笑う。そんな笑い方だったのか。いや幻覚か。
『何でも良いが、諦めるのだけはやめてくれ』
泣いている彼の母親を支えながらも、自身も泣くのを堪えている父親。
飾られた写真の中で彼はぎこちなく微笑んでいた。アマネの見たことのない笑みだと思ったのは、そもそも彼と話したのが数度しか無かったからか。
腹部へ大穴が開いたらしい。その後給水塔へ直撃し、どちらの衝撃が致命傷だったのかも分からない程の損傷だったという。アマネでもあるまいしいったい何があればそんな奇妙な体験をするのだ。
見せてもらったその時着ていたらしい制服にはぽかりと穴が開いていた。縁は焦げたのか血のせいか赤黒く制服の緑色の名残もない。背中まで貫通している物だから向こう側が丸見えだった。
友達になりたいと考えていたのである。
きっとアマネは彼と友達にしかなれないと思っていた。彼の秘密は何一つ分からない。何を隠して何を抱えて何を守っているのかも分かりはしなかったのだ。
だがそれはアマネも同じで、真実を隠して影を抱えて自分を守っていた。
乾いた血塗れの制服。
緑色がアマネは自分には似合わない制服だと思っていたけれど、花京院にはよく似合っていたかもしれない。それを言ってやれば彼はどんな顔をしただろうか。優等生のくせに長ランにしていた。
皹の入ったピアス。
校則なんて気にせずに付けていた。アマネも腕輪を付けていたから同罪か。よく揺れていたのを覚えている。
『その中にあった一文がとても印象的でね。『すみわたる夜空のような』という一文だ。――君なら、どんな続きを考える?』
「……すみわたる夜空の、ような……孤独から」
すみわたる夜空のような孤独のなかで、彼が望んだものは何だったか。
腹に穴の開いた状態で、彼は何を考えたのだろうか。
きっとアマネのことなんて微塵たりとも思い出さなかっただろう。彼はもっと違うことを考えた。
それでいい。それでもいいから生きて戻ってきて欲しかった。
血塗れの制服の穴の縁に、緑色の紐の様なものが見えた気がする。確かめてみるが何も無かったので見間違いだろうと思った。
『――君なら、どんな続きを考える?』
『花京院』の顔も声も雰囲気も何もかもを忘れしまうのを恐れて、自身に彼の面影を求めてきた。ストールも女性的と言われていた彼の雰囲気も、結局は何の意味も無かったというのに。
そうして二十年も経って今、アマネは彼の言葉を思い出した。
『――君なら、どんな続きを考える?』
「……星の様に遠い場所へいる君へ、どんな『続き』を贈りゃいい?」
『ノホホ』
花京院が笑う。そんな笑い方だったのか。いや幻覚か。
『何でも良いが、諦めるのだけはやめてくれ』