「……アマネ。あたしここを脱獄したいの。そして神父を追いかける」

緑色の赤ん坊をおそらくは吸収し、『天国へ行く方法』の遂行を目指している神父を止められるのは、その事実を知っている徐倫やアマネ達だけだろう。彼の目指す『天国へ行く方法』や『天国』が抽象的な何かなのか具体的な何かなのか不明だが、『ＤＩＯ』が関わっているとなればアマネが関わるのも十分な理由になると誰にでもなく言い訳をする。
直接的に『花京院』の敵討ちはアマネには出来ない。既にその敵は承太郎によって倒されていて、残っているカスが今徐倫やアマネの前に横たわっているのだ。

「脱獄には俺が手を貸してやろう。ただその前にこの看守とお前達の怪我を治療しねぇと。アナスイ君達はどうなったぁ？」
「アナスイなら男子監に怪我の治ったウェザーと一緒に。でも――ッ」

少年の感電による火傷で水膨れの酷い手へ『晴の炎』を押し当てたところで、アマネは二人が驚いているのと自分の耳から血が流れているのに気付いて舌打ちをこぼした。炎を消して自分の手を見るがどうにも力が入らない。
トムの話から、ウォレットチェーンを通じて承太郎が受ける苦痛等を引き受けているのだと思った。あのウォレットチェーンは相変わらず訳の分からない代物であるが、半身である『イブリス』を示したものであるせいかアマネと繋がっているところがある。
だが流石にこれはおかしい。『治りが悪すぎる』

「アマネ……？」
「……大丈夫。まだ回復しきってねぇだけ」

口では誤魔化すようにそう言っても、身体の不調はあからさまだ。

「……医療房棟へ寄って治療してからにしましょ。アマネに治してもらってばかりじゃ負担だわ」
「……ごめんなぁ少年」
「少年じゃないわ。エンポリオよ」

徐倫に名前を教えられたエンポリオの頭を撫でる。何故このエンポリオがここへいるのかは相変わらず分からないが、徐倫の味方をしてくれていることは間違いない。
やはり出入り口らしい隙間から部屋を出る。部屋の外は刑務所の階段の踊り場で、周囲には銃を持って警戒している看守がたくさんいた。
だがこのくらいは平気だろうと二人と手を繋ぎ、看守達へ『霧の炎』で幻覚を掛けて廊下を進む。治療室へ向かう途中で、徐倫の知り合いらしいエルメェスという女囚と出会った。

「エルメェス！」
「ぅお！？ 徐倫！ エンポリオも何やってんの？ つかソイツ誰？」
「幼なじみの父親よ！ ――アマネッ」

幻覚を彼女だけ解除したところでまた吐血する。もう何回吐いているのか分からない。