六部
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倦怠感や吐き気が全て収まったというわけではないが、応急手当程度に腹の穴が塞がったらしいところで目が覚めた。
懲罰房棟のあった湿地からどこかへ移動されてはいる。刑務所の中にしては談話室的な部屋の様で、アマネは何故かピアノの上へ寝かされていた。着ていたシャツとボロボロのストールは、誰かが修正の努力をしたとばかりに所々が縫われている。つたない縫い跡を指先でなぞって、それから周囲を見回すと床の上に少年が一人倒れていた。
ピアノから降りて近づいてみれば、彼はどうやら濡れたコンセントからの漏電で倒れているらしい。何度も譫言のように水をこぼしてしまった、コンセントを抜かなければ、徐倫に会いに行かなければと繰り返している。
床へ広がる水を避けながらコンセントを抜いてやれば、少年がやっとアマネへ気付いたようだった。
「坊や。ここはどこだぁ?」
「……ここは、幽霊の部屋」
分からない。とりあえず少年の手当をするべきだろうかと少年の傍でしゃがに手を伸ばす。何度も漏電を受けて感電し、火傷から水膨れだらけになってしまっている少年の腕には、何故か色々と書き込まれている。
「『三つしか記憶できない』? 『お姉ちゃんに伝えろ』『プリントアウトしろ』……?」
そういう病気なのだろうかと思ったが、そもそも刑務所へ子供がいるというのがおかしい。犯罪者であったとしてもこの年頃なら少年院か更正施設へいるのが正しいだろう。つまりこの少年は犯罪者でも無いというのにこの刑務所へいるということになる。
旧型のパソコンの画面には、この刑務所の看守の顔が映し出されていた。この顔写真をプリントアウトすればいいのだろうかと考えていると、背後の壁の隙間から徐倫が飛び込んでくる。
「徐倫!?」
「アマネ!? 目が覚めたの!?」
「まだ本調子じゃねぇ。徐倫。ここはどこで彼は誰だぁ? 感電してたから助けたが、どうにも記憶喪失らしい」
「そう……アマネ!? 目が覚めたの?」
「――?」
徐倫の様子がおかしい。一度聞いたことを再び聞いてくる。アマネの足下にいた少年も、プリントアウトがどうのと繰り返していた。二人とも何故か思考が次へと進んでいる様子がない。
少年が徐倫へ会いに行くんだと目の前にいる徐倫すら見えていないように焦っている。それを聞いているのに徐倫は傍にあったケーキの本の表紙の写真へ意識が奪われていた。
そして互いとアマネの存在に気付いて繰り返す。アマネの方が気が狂いそうだった。
「なるほど。ソイツが『あの時』、一緒にいたというわ――ッ!?」
だからおそらく敵とはいえ第三者が現れてくれたのは非常に有り難い。徐倫が飛び出してきた隙間から顔を覗かせた女性看守に、指を鳴らして幻覚の鎖で拘束する。
鼻血が出た。
懲罰房棟のあった湿地からどこかへ移動されてはいる。刑務所の中にしては談話室的な部屋の様で、アマネは何故かピアノの上へ寝かされていた。着ていたシャツとボロボロのストールは、誰かが修正の努力をしたとばかりに所々が縫われている。つたない縫い跡を指先でなぞって、それから周囲を見回すと床の上に少年が一人倒れていた。
ピアノから降りて近づいてみれば、彼はどうやら濡れたコンセントからの漏電で倒れているらしい。何度も譫言のように水をこぼしてしまった、コンセントを抜かなければ、徐倫に会いに行かなければと繰り返している。
床へ広がる水を避けながらコンセントを抜いてやれば、少年がやっとアマネへ気付いたようだった。
「坊や。ここはどこだぁ?」
「……ここは、幽霊の部屋」
分からない。とりあえず少年の手当をするべきだろうかと少年の傍でしゃがに手を伸ばす。何度も漏電を受けて感電し、火傷から水膨れだらけになってしまっている少年の腕には、何故か色々と書き込まれている。
「『三つしか記憶できない』? 『お姉ちゃんに伝えろ』『プリントアウトしろ』……?」
そういう病気なのだろうかと思ったが、そもそも刑務所へ子供がいるというのがおかしい。犯罪者であったとしてもこの年頃なら少年院か更正施設へいるのが正しいだろう。つまりこの少年は犯罪者でも無いというのにこの刑務所へいるということになる。
旧型のパソコンの画面には、この刑務所の看守の顔が映し出されていた。この顔写真をプリントアウトすればいいのだろうかと考えていると、背後の壁の隙間から徐倫が飛び込んでくる。
「徐倫!?」
「アマネ!? 目が覚めたの!?」
「まだ本調子じゃねぇ。徐倫。ここはどこで彼は誰だぁ? 感電してたから助けたが、どうにも記憶喪失らしい」
「そう……アマネ!? 目が覚めたの?」
「――?」
徐倫の様子がおかしい。一度聞いたことを再び聞いてくる。アマネの足下にいた少年も、プリントアウトがどうのと繰り返していた。二人とも何故か思考が次へと進んでいる様子がない。
少年が徐倫へ会いに行くんだと目の前にいる徐倫すら見えていないように焦っている。それを聞いているのに徐倫は傍にあったケーキの本の表紙の写真へ意識が奪われていた。
そして互いとアマネの存在に気付いて繰り返す。アマネの方が気が狂いそうだった。
「なるほど。ソイツが『あの時』、一緒にいたというわ――ッ!?」
だからおそらく敵とはいえ第三者が現れてくれたのは非常に有り難い。徐倫が飛び出してきた隙間から顔を覗かせた女性看守に、指を鳴らして幻覚の鎖で拘束する。
鼻血が出た。