六部
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赤ん坊が“恐ろしい”訳ではない。アマネにとって恐ろしいことは『おいていかれる』事のみだ。蠢く卵焼きも忌避したい恐怖だがそれはどうでもいい。
世界にはどうしようもないことだってある。アマネはそれを痛い程体験しているのだ。それに似た何かをあの赤ん坊から感じた。
暫くすれば慣れて受け入れることは出来るだろうが、あの赤ん坊へ今すぐ近付くのは出来そうにない。
『ニュクス』と対峙したような気分だった。
「あそこよ! あそこにいるッ!」
落ちた赤ん坊を捜していた徐倫が近くの陸地を指差す。赤ん坊はボートから遠ざかるように陸地を這っていく。
「やはりあれには『意思』がある……。逃げているという事はつまり、そーゆーことだッ!」
アナスイはそう言うが、アマネにはそこまで意思があるとは思えなかった。単に溺れそうになった水から逃げているという可能性もまだある。
あの大きさの赤ん坊にさほど知識はない。例え産まれ方が“異常”でも、異常であるが故に普通なのだ。
徐倫とアナスイがボートを飛び降りて赤ん坊を追いかける。
「二人とも!」
「アマネは待ってて!」
それは先程から血を吐いているアマネを気遣うものだったのだろう。徐倫だけならともかく、意外と理知的なアナスイが一緒なら大丈夫だと思うが、それでも不安は残った。
犬の鳴き声が聞こえてボートの上から陸地を見やれば、看守達が放したのか猟犬が鳴きながら周囲を散策している。臭いや音でこちらへ気付くのも時間の問題だろうが、きっと徐倫達は赤ん坊を回収するまで戻ってはこないだろう。
となれば残されたアマネの役目はこの逃げる為のボートを守ることと、犬達が徐倫達へ気付かないようにすることだ。
深く息を吐く。それから指を鳴らした。
「俺が意識を失う前に、戻ってきてくれりゃいいんだがなぁ……」
犬が鳴くのをやめる。一直線にボートへいるアマネを見て、けれども誰かが異変を覚える間もなくボートへ背を向けて見当違いな方向へ走っていった。
遠ざかる鳴き声。霞む視界。
『緑色の赤ん坊』のことを考える。あの赤ん坊は人間の形をしていて、左肩に『星形の痣』があった。
その痣を持つ者を、アマネは数人知っている。その者達が今までに何をしてきたのかもだ。
「二世は死んでるが三代目はまだ生きてる……。隠し子が他にいなけりゃ二世以前の人物か、もしくは――」
そこまで考えてアマネは自分の思考に嫌悪する。アマネはおそらく『彼』を憎んでいるのだ。
カキョウインを『殺した』彼を。
世界にはどうしようもないことだってある。アマネはそれを痛い程体験しているのだ。それに似た何かをあの赤ん坊から感じた。
暫くすれば慣れて受け入れることは出来るだろうが、あの赤ん坊へ今すぐ近付くのは出来そうにない。
『ニュクス』と対峙したような気分だった。
「あそこよ! あそこにいるッ!」
落ちた赤ん坊を捜していた徐倫が近くの陸地を指差す。赤ん坊はボートから遠ざかるように陸地を這っていく。
「やはりあれには『意思』がある……。逃げているという事はつまり、そーゆーことだッ!」
アナスイはそう言うが、アマネにはそこまで意思があるとは思えなかった。単に溺れそうになった水から逃げているという可能性もまだある。
あの大きさの赤ん坊にさほど知識はない。例え産まれ方が“異常”でも、異常であるが故に普通なのだ。
徐倫とアナスイがボートを飛び降りて赤ん坊を追いかける。
「二人とも!」
「アマネは待ってて!」
それは先程から血を吐いているアマネを気遣うものだったのだろう。徐倫だけならともかく、意外と理知的なアナスイが一緒なら大丈夫だと思うが、それでも不安は残った。
犬の鳴き声が聞こえてボートの上から陸地を見やれば、看守達が放したのか猟犬が鳴きながら周囲を散策している。臭いや音でこちらへ気付くのも時間の問題だろうが、きっと徐倫達は赤ん坊を回収するまで戻ってはこないだろう。
となれば残されたアマネの役目はこの逃げる為のボートを守ることと、犬達が徐倫達へ気付かないようにすることだ。
深く息を吐く。それから指を鳴らした。
「俺が意識を失う前に、戻ってきてくれりゃいいんだがなぁ……」
犬が鳴くのをやめる。一直線にボートへいるアマネを見て、けれども誰かが異変を覚える間もなくボートへ背を向けて見当違いな方向へ走っていった。
遠ざかる鳴き声。霞む視界。
『緑色の赤ん坊』のことを考える。あの赤ん坊は人間の形をしていて、左肩に『星形の痣』があった。
その痣を持つ者を、アマネは数人知っている。その者達が今までに何をしてきたのかもだ。
「二世は死んでるが三代目はまだ生きてる……。隠し子が他にいなけりゃ二世以前の人物か、もしくは――」
そこまで考えてアマネは自分の思考に嫌悪する。アマネはおそらく『彼』を憎んでいるのだ。
カキョウインを『殺した』彼を。