三部
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学校から帰った承太郎が自宅の玄関前へいる青年に気付いたのは、ある雨の降りしきる日のことだった。
青年といってもそれは着ている学生服が男子のモノであったからで、もし仮に私服姿であったなら承太郎でもそれが男であるとは思えなかったかも知れない。黒髪を首許で一つに結わえた、細い人物であった。
見覚えは無い。そもそも承太郎の同級生であったなら玄関前で待っている必要もないだろう。
承太郎が居ることに気付いたのか振り返ろうとするその人物に、雨水が傘へ跳ねる音を聞きながら、承太郎は待った。
警戒も敵意も何も無い。例えるならあの『五十日間の旅』の間に何度も感じた“胸騒ぎ”に少し似ていた。
「空条、承太郎さん、ですか」
「……誰だ」
玄関の軒下で身体ごと振り返った黒髪の男が頭を下げる。
「初めまして。俺は、貴方が花京院の知り合いと伺って来ました」
再び上げられた顔は張り付けたような愛想笑いを浮かべていた。その瞳が紫色であることに気付いたが、それより彼の言った名前に承太郎は柄にもなく動揺する。
花京院。あの旅で仲間だった男。
だった、なんて過去形であることは失礼かも知れない。仲間だ。玄関前の男は承太郎を見つめたまま小さく笑みを深くする。握りしめられた手。腰に提げられたウォレットチェーンの飾りが揺れていた。
「俺は斑鳩といいます。花京院の転校前の同級生で……ただの、同級生だったんですけど、アイツが死んだって聞いて」
雨垂れの音だけが響いている。多くの音は逆に無音を引き寄せているようで。
「貴方が、アイツの最期の時に傍へいたと聞きました。無礼を承知でお願いしますが、アイツの最期の事を話してもらえたらと」
「聞いてどうする」
「分かりません。貴方の傷を抉るだけかも知れません。でも俺は花京院の最期が知りてぇ。どうやって死んだのかも、どうして死んだのかも俺は知らねぇんです」
男は決して冗談で訊きに来たわけではないらしい。それくらいは勘で分かる。
花京院の死は、彼の両親や身辺の者にとっては不可解なものだった。何せ承太郎に肉の芽を引き抜かれて一日安静にした後、そのまま承太郎達へ付いてきたのだ。連絡も何もあったものではなくて、家出だと騒がれていたと聞いている。
だから誰も、承太郎達以外は誰も何も知らされなかった。
帽子の鍔を掴んで深く被る。冷えた指先。水溜まりに庭の木の青々しい葉が浮いていた。
「……大した話はできねえが、それでいいなら」
青年といってもそれは着ている学生服が男子のモノであったからで、もし仮に私服姿であったなら承太郎でもそれが男であるとは思えなかったかも知れない。黒髪を首許で一つに結わえた、細い人物であった。
見覚えは無い。そもそも承太郎の同級生であったなら玄関前で待っている必要もないだろう。
承太郎が居ることに気付いたのか振り返ろうとするその人物に、雨水が傘へ跳ねる音を聞きながら、承太郎は待った。
警戒も敵意も何も無い。例えるならあの『五十日間の旅』の間に何度も感じた“胸騒ぎ”に少し似ていた。
「空条、承太郎さん、ですか」
「……誰だ」
玄関の軒下で身体ごと振り返った黒髪の男が頭を下げる。
「初めまして。俺は、貴方が花京院の知り合いと伺って来ました」
再び上げられた顔は張り付けたような愛想笑いを浮かべていた。その瞳が紫色であることに気付いたが、それより彼の言った名前に承太郎は柄にもなく動揺する。
花京院。あの旅で仲間だった男。
だった、なんて過去形であることは失礼かも知れない。仲間だ。玄関前の男は承太郎を見つめたまま小さく笑みを深くする。握りしめられた手。腰に提げられたウォレットチェーンの飾りが揺れていた。
「俺は斑鳩といいます。花京院の転校前の同級生で……ただの、同級生だったんですけど、アイツが死んだって聞いて」
雨垂れの音だけが響いている。多くの音は逆に無音を引き寄せているようで。
「貴方が、アイツの最期の時に傍へいたと聞きました。無礼を承知でお願いしますが、アイツの最期の事を話してもらえたらと」
「聞いてどうする」
「分かりません。貴方の傷を抉るだけかも知れません。でも俺は花京院の最期が知りてぇ。どうやって死んだのかも、どうして死んだのかも俺は知らねぇんです」
男は決して冗談で訊きに来たわけではないらしい。それくらいは勘で分かる。
花京院の死は、彼の両親や身辺の者にとっては不可解なものだった。何せ承太郎に肉の芽を引き抜かれて一日安静にした後、そのまま承太郎達へ付いてきたのだ。連絡も何もあったものではなくて、家出だと騒がれていたと聞いている。
だから誰も、承太郎達以外は誰も何も知らされなかった。
帽子の鍔を掴んで深く被る。冷えた指先。水溜まりに庭の木の青々しい葉が浮いていた。
「……大した話はできねえが、それでいいなら」