六部
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トム視点
そんな事が可能なのかと言われたら、トムは計算上は可能だと答える。
魔法の中にも開心術というものがあって、それは相手の記憶を読みとる魔法だ。応用して相手へ自分の記憶や間違った情報を送り込むことも不可能ではない。
けれどもその場合、送り込む事が出来るのも読み込む事が出来るのも本来は相手か自分の記憶だけだ。間違った情報を送り込む事だって記憶を厳選して送り込むことも出来なくはないが、通常、人というのは自身の体験した記憶しか持ち得ない。他人の記憶を持っているなんてことはあり得ないので、送ることが出来るのも自分の記憶だけ。
だが、父のアマネは『例外中の例外』だ。
アマネは『アカシックレコード』に干渉出来る。
普段は『×××』と呼んでいるそれは元始からの事象、想念、感情全てを情報として記録されているという『無限の記録の図書館』だ。人間一人の誕生から死亡までの記録どころか、その人間が考え思い抱いた感情や思考全てすら記録されている。
そこから承太郎の記憶や記録を探し出し、承太郎へ読み込ませたということなのだろう。
だがそれは当然危険を含む。通常の人間の脳は約八十年分の記録しか記憶出来ない。他人の記憶を全て自身へ取り込むなんて脳の処理能力を超える行動であり、仮にそれを行えば脳が限界を超えて死ぬだけだ。
本来であれば。
今の承太郎は問題ない。何者かへ『記憶』を奪われ空っぽの状態だったからだ。
だがアマネは。
「父さんは自分の記憶を保持したまま承太郎さんの『記憶』を一時的に取り入れて承太郎さんに送ってるんじゃないかな。その処理に脳へ負担が掛かり過ぎて出血してるし意識もない。最低限の生命維持を除いて全部を承太郎さんの記憶と生命維持に務めてる」
「大丈夫なのか」
「大丈夫じゃないよ。いくら父さんでも無謀だ」
そう、無謀である。ほんの少しの情報を探り出すのでさえ激しい頭痛を伴う『×××』への干渉を、トムが来る前からおそらく今も継続して行なっているのだ。
「手を離せば」
「駄目。そしたら承太郎さんが死んじゃう。せっかく死なせない為の行動をしてるのに無駄にしないで」
全ては承太郎を死なせない為に。その為だけにアマネは今も無い意識の中で苦痛に耐えているのだろう。
だとすればトムと承太郎がするべきは、一刻も早くその状況からアマネを解放することだ。
アマネの匣生物であるはずのエレボスがトムと承太郎の顔を覗き込んでくる。部屋の外では財団の職員が騒がしいが、トムと承太郎ではこのエレボスをどうにかすることは出来ない。おそらくはアマネが自身と承太郎を守らせる為に出したか何かなのだろうが。
「とりあえず、徐倫はどうなったのか調べないと。――承太郎さんは父さんに負荷を掛けないようにあまり動かないで。考えるのも本当はやめて欲しい」
「……頼む」
そんな事が可能なのかと言われたら、トムは計算上は可能だと答える。
魔法の中にも開心術というものがあって、それは相手の記憶を読みとる魔法だ。応用して相手へ自分の記憶や間違った情報を送り込むことも不可能ではない。
けれどもその場合、送り込む事が出来るのも読み込む事が出来るのも本来は相手か自分の記憶だけだ。間違った情報を送り込む事だって記憶を厳選して送り込むことも出来なくはないが、通常、人というのは自身の体験した記憶しか持ち得ない。他人の記憶を持っているなんてことはあり得ないので、送ることが出来るのも自分の記憶だけ。
だが、父のアマネは『例外中の例外』だ。
アマネは『アカシックレコード』に干渉出来る。
普段は『×××』と呼んでいるそれは元始からの事象、想念、感情全てを情報として記録されているという『無限の記録の図書館』だ。人間一人の誕生から死亡までの記録どころか、その人間が考え思い抱いた感情や思考全てすら記録されている。
そこから承太郎の記憶や記録を探し出し、承太郎へ読み込ませたということなのだろう。
だがそれは当然危険を含む。通常の人間の脳は約八十年分の記録しか記憶出来ない。他人の記憶を全て自身へ取り込むなんて脳の処理能力を超える行動であり、仮にそれを行えば脳が限界を超えて死ぬだけだ。
本来であれば。
今の承太郎は問題ない。何者かへ『記憶』を奪われ空っぽの状態だったからだ。
だがアマネは。
「父さんは自分の記憶を保持したまま承太郎さんの『記憶』を一時的に取り入れて承太郎さんに送ってるんじゃないかな。その処理に脳へ負担が掛かり過ぎて出血してるし意識もない。最低限の生命維持を除いて全部を承太郎さんの記憶と生命維持に務めてる」
「大丈夫なのか」
「大丈夫じゃないよ。いくら父さんでも無謀だ」
そう、無謀である。ほんの少しの情報を探り出すのでさえ激しい頭痛を伴う『×××』への干渉を、トムが来る前からおそらく今も継続して行なっているのだ。
「手を離せば」
「駄目。そしたら承太郎さんが死んじゃう。せっかく死なせない為の行動をしてるのに無駄にしないで」
全ては承太郎を死なせない為に。その為だけにアマネは今も無い意識の中で苦痛に耐えているのだろう。
だとすればトムと承太郎がするべきは、一刻も早くその状況からアマネを解放することだ。
アマネの匣生物であるはずのエレボスがトムと承太郎の顔を覗き込んでくる。部屋の外では財団の職員が騒がしいが、トムと承太郎ではこのエレボスをどうにかすることは出来ない。おそらくはアマネが自身と承太郎を守らせる為に出したか何かなのだろうが。
「とりあえず、徐倫はどうなったのか調べないと。――承太郎さんは父さんに負荷を掛けないようにあまり動かないで。考えるのも本当はやめて欲しい」
「……頼む」