六部
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承太郎視点
『――あの写真集を最後まで見たんだ』
『へえ』
目の前に花京院がいる。
夕日の射し込む放課後の教室だ。けれども承太郎には花京院とこうして学校で話した記憶なんて無かった。
ではこれは『誰の記憶』だとぼんやり思う。
『その中にあった一文がとても印象的でね。『すみわたる夜空のような』という一文だ。――君なら、どんな続きを考える?』
『ふふ、国語の授業かなぁ? すみわたる夜空のような――『孤独の中で星になりたい』、とかどうだぁ?』
答える声はアマネのものだ。けれどもその姿はどこにもない。花京院はこの何者かへ話しかけているらしい。
『孤独の中なのに星になりたいのか』
『星ってのは遙か遠くの恒星だぁ。太陽が出てる時はその光が強すぎて見えやしねぇけど、太陽も月もない暗闇の夜にその光は照らしてくれる』
どうやらこれは、アマネの記憶なのだろう。
『星がある限りは、誰も孤独になんてなれねぇように世界は出来てる』
花京院の背後に緑色の何かがボンヤリと見えた。嗚呼これがアマネの見る世界なのかと漠然と思って、スタープラチナやスタンドの存在に慣れていた承太郎には、なんだがそれが酷くもの寂しいことに思える。
ただそれが、ぼんやりとでも見えることになのかぼんやりとしか見えないことになのかは分からなかった。
視界が暗転する。
給水塔へめり込む花京院の遺体。腹部へ空いた大穴。壊れた給水塔から漏れる水の音が雨垂れのそれに似ている。
『あの日』、アマネは泣かなかった。あの日からアマネは泣いていない。
星がある限りは誰も孤独になんてなれないように世界が出来ているというのなら、その星を失った者は孤独になるしかないのかと。
左手に何かがしがみついている感触に目を覚ます。見慣れない黒い天井は徐倫を助けに行った刑務所のそれではない。
「……アマネ?」
アマネが顔を覗き込んでいて、目が合うと微笑む。
確か自分は『記憶』と『スタンド』を奪われたのだと思い出した。その為に動けなくなり銃弾を避けることも出来ず、『記憶』はペンダントを徐倫へ託したところまで。
奪われた筈の『記憶』が、ある。
「……ふ、……ゴフッ――」
あれは思い違いだったのかと起き上がろうとしたところで、アマネが吐血し承太郎へ覆い被さるように倒れた。その顔の、穴という穴から血が流れ出ているのに驚いて起き上がろうとすれば、目の前に黒く巨大な手が伸びてきて承太郎の身体を押さえつけてくる。
何かが左手へしがみついている事に気が付いた。強ばっている筋肉を無理に動かすように首を動かせば、左手はアマネによって握ってしっかりと握られている。
見上げれば目の前には赤い眼をした、黒い化け物が承太郎を見下ろして綺麗に並んだ白い歯を鳴らしていた。
「……エ、レボス?」
知らない筈の名前が脳裏に浮かんだ。ガラスの向こうで誰かが動く気配へ見れば、怒ったようなトムの姿。
トムが部屋へと入ってきて、天井と勘違いするほど大きい化け物を撫でながら口を開く。
「何があったの。『エレボス』まで出して」
「……私自身、よく分かっていない」
『――あの写真集を最後まで見たんだ』
『へえ』
目の前に花京院がいる。
夕日の射し込む放課後の教室だ。けれども承太郎には花京院とこうして学校で話した記憶なんて無かった。
ではこれは『誰の記憶』だとぼんやり思う。
『その中にあった一文がとても印象的でね。『すみわたる夜空のような』という一文だ。――君なら、どんな続きを考える?』
『ふふ、国語の授業かなぁ? すみわたる夜空のような――『孤独の中で星になりたい』、とかどうだぁ?』
答える声はアマネのものだ。けれどもその姿はどこにもない。花京院はこの何者かへ話しかけているらしい。
『孤独の中なのに星になりたいのか』
『星ってのは遙か遠くの恒星だぁ。太陽が出てる時はその光が強すぎて見えやしねぇけど、太陽も月もない暗闇の夜にその光は照らしてくれる』
どうやらこれは、アマネの記憶なのだろう。
『星がある限りは、誰も孤独になんてなれねぇように世界は出来てる』
花京院の背後に緑色の何かがボンヤリと見えた。嗚呼これがアマネの見る世界なのかと漠然と思って、スタープラチナやスタンドの存在に慣れていた承太郎には、なんだがそれが酷くもの寂しいことに思える。
ただそれが、ぼんやりとでも見えることになのかぼんやりとしか見えないことになのかは分からなかった。
視界が暗転する。
給水塔へめり込む花京院の遺体。腹部へ空いた大穴。壊れた給水塔から漏れる水の音が雨垂れのそれに似ている。
『あの日』、アマネは泣かなかった。あの日からアマネは泣いていない。
星がある限りは誰も孤独になんてなれないように世界が出来ているというのなら、その星を失った者は孤独になるしかないのかと。
左手に何かがしがみついている感触に目を覚ます。見慣れない黒い天井は徐倫を助けに行った刑務所のそれではない。
「……アマネ?」
アマネが顔を覗き込んでいて、目が合うと微笑む。
確か自分は『記憶』と『スタンド』を奪われたのだと思い出した。その為に動けなくなり銃弾を避けることも出来ず、『記憶』はペンダントを徐倫へ託したところまで。
奪われた筈の『記憶』が、ある。
「……ふ、……ゴフッ――」
あれは思い違いだったのかと起き上がろうとしたところで、アマネが吐血し承太郎へ覆い被さるように倒れた。その顔の、穴という穴から血が流れ出ているのに驚いて起き上がろうとすれば、目の前に黒く巨大な手が伸びてきて承太郎の身体を押さえつけてくる。
何かが左手へしがみついている事に気が付いた。強ばっている筋肉を無理に動かすように首を動かせば、左手はアマネによって握ってしっかりと握られている。
見上げれば目の前には赤い眼をした、黒い化け物が承太郎を見下ろして綺麗に並んだ白い歯を鳴らしていた。
「……エ、レボス?」
知らない筈の名前が脳裏に浮かんだ。ガラスの向こうで誰かが動く気配へ見れば、怒ったようなトムの姿。
トムが部屋へと入ってきて、天井と勘違いするほど大きい化け物を撫でながら口を開く。
「何があったの。『エレボス』まで出して」
「……私自身、よく分かっていない」