六部
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徐倫視点
父が嫌いだった。
徐倫の父は家族をないがしろにしていた男だ。最終的には母と離婚して母と徐倫を捨てた。
心から父のことを追い出そうとしたけれど結局完全に追い出すことも出来なかったのは、それでもやっぱり『父親』だったからと、『父の友人』の人がいたからだと思っている。
優しい人だった。四つ年上な幼なじみの父親で、聞いた話では父が学生の頃からの付き合いだという。
優しい人だった。もしかしたら徐倫は父よりもその人が好きだったかも知れない。物心が付いた頃には『この人が父であったならどんなに良かったか』と何度思っただろう。
実際幼い頃の初恋はその人だ。けれども父と同じ年齢であることや子持ちであることを考えたら当然、その初恋が実ることもなく。
幼なじみには笑われて、けれども貶しはしなかったなと関係ないことを思い出す。二番目の初恋が幼なじみであったこともそいつは知っているが、自分より見た目に関してはいい男がいないから仕方ないと言ってもいた。今思えばちょっと幼なじみは自意識過剰だ。だが実際見た目だけはいい。
両親が離婚してからは母に遠慮してか、手紙でのやりとりしかしなくなってしまったその人はどこまでも優しい人であった。
そう、父にも母にも徐倫にも分け隔て無く優しく、でもいつも寂しそうで悲しそうな人。
伴侶はいなくとも息子はいるというのに、それでは寂しさを埋めきれていない。
父という友人も懐く徐倫のような子供もいたというのに、あの悲しみは消せない。
何があってそうなったのか分からないが、いつだってあの人は泣くのを堪えているように見えた。
『父さんは光を失ったんだ。砂漠や海原で星の光も見失った人はさまようしかないだろ』
『光?』
『今は君の父親の、承太郎さんが照らす光で辛うじて世界を見てる。その恩恵を受けているからこそ、父さんは承太郎さんを何があっても助けるだろうね』
幼なじみとの会話。徐倫には全く意味の分からなかったそれを、けれども父がDISCを取られた事で漠然と悟った。
嫌っていた筈の父でもこれなのだ。徐倫を守ろうとしていたと知らなかった父の行動を少し知っただけでもこれなのだから、あの人はどうしているのだろうと。
見えない昼間の星のことを教えてくれたのはあの人だった。見えずとも確かに在るものの事を教えてくれたのは、あの人だ。
意識のない父を徐倫が乗るはずだった潜水艦へ押し込み、父のDISCを取り返す為に刑務所へ残る。懲罰房へ入れられていた徐倫が面会人が来たと出され、向かった面会室には幼なじみが苛立った様子で佇んでいた。
「――トム」
「徐倫。父さんが倒れた」
父が嫌いだった。
徐倫の父は家族をないがしろにしていた男だ。最終的には母と離婚して母と徐倫を捨てた。
心から父のことを追い出そうとしたけれど結局完全に追い出すことも出来なかったのは、それでもやっぱり『父親』だったからと、『父の友人』の人がいたからだと思っている。
優しい人だった。四つ年上な幼なじみの父親で、聞いた話では父が学生の頃からの付き合いだという。
優しい人だった。もしかしたら徐倫は父よりもその人が好きだったかも知れない。物心が付いた頃には『この人が父であったならどんなに良かったか』と何度思っただろう。
実際幼い頃の初恋はその人だ。けれども父と同じ年齢であることや子持ちであることを考えたら当然、その初恋が実ることもなく。
幼なじみには笑われて、けれども貶しはしなかったなと関係ないことを思い出す。二番目の初恋が幼なじみであったこともそいつは知っているが、自分より見た目に関してはいい男がいないから仕方ないと言ってもいた。今思えばちょっと幼なじみは自意識過剰だ。だが実際見た目だけはいい。
両親が離婚してからは母に遠慮してか、手紙でのやりとりしかしなくなってしまったその人はどこまでも優しい人であった。
そう、父にも母にも徐倫にも分け隔て無く優しく、でもいつも寂しそうで悲しそうな人。
伴侶はいなくとも息子はいるというのに、それでは寂しさを埋めきれていない。
父という友人も懐く徐倫のような子供もいたというのに、あの悲しみは消せない。
何があってそうなったのか分からないが、いつだってあの人は泣くのを堪えているように見えた。
『父さんは光を失ったんだ。砂漠や海原で星の光も見失った人はさまようしかないだろ』
『光?』
『今は君の父親の、承太郎さんが照らす光で辛うじて世界を見てる。その恩恵を受けているからこそ、父さんは承太郎さんを何があっても助けるだろうね』
幼なじみとの会話。徐倫には全く意味の分からなかったそれを、けれども父がDISCを取られた事で漠然と悟った。
嫌っていた筈の父でもこれなのだ。徐倫を守ろうとしていたと知らなかった父の行動を少し知っただけでもこれなのだから、あの人はどうしているのだろうと。
見えない昼間の星のことを教えてくれたのはあの人だった。見えずとも確かに在るものの事を教えてくれたのは、あの人だ。
意識のない父を徐倫が乗るはずだった潜水艦へ押し込み、父のDISCを取り返す為に刑務所へ残る。懲罰房へ入れられていた徐倫が面会人が来たと出され、向かった面会室には幼なじみが苛立った様子で佇んでいた。
「――トム」
「徐倫。父さんが倒れた」