五部
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出てきた影は、影そのものとでも言うべきか真っ黒であった。影の中にある濃淡から服を着ていることは分かるが、それがどういった服であるのかまでは分からない。
服どころか顔や手も真っ黒で判別が出来なかった。最初から顔立ちなんてものはないのかもしれない。全てが影で構成された、影が具現化したような存在だった。
その影がトムの前へ立ちはだかる。その存在に似たモノをトムは知っている。
差し出される手。
「――……ぼ、くは、違う。僕はトムだ。トムなんだ」
咄嗟に否定して首を振る。目の前の影はトムの言葉を聞いたのか聞いていないのか、トムがその手を取らないと悟ると踵を返し倒れているブチャラティへと近づいていった。
何もかもが眠っている場で唯一自分以外に起きている影。その手にはスタンドの矢が握られている。
トムがそろそろと影を追いかけると、影はブチャラティの傍で屈み腰に着けられていたウォレットチェーンを外した。それを持って立ち上がるのに慌てて声をかける。
「待って。それは父さんの物を貸してただけなんだ。持っていかないで」
影が振り返った。相変わらず眼も鼻も口も分からないが、顔の正面が向けられているのだからトムを見てはいるのだろう。
スンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ、再びトムへとウォレットチェーンを乗せた手を差し出してきた。さっきと同じ行動なのだけれど、少し雰囲気が違う。
「皆に、何をしたの?」
影は答えない。答えるための声を持たないのかも知れなかった。
トムは少し迷ってからウォレットチェーンを受け取って腰に着け、思い切って影の差し出してきた手へ自分のそれを重ねる。
トムの魂は『特別』だ。トムの魂はこの世界へ生まれる事なんて本当は出来るはずがない。それを無理矢理生まれる為に、父には内緒で『欠片』を持ってきた。
父の持つ召喚器の中へあり、姉である機械乙女の核であるのと同じ『欠片』が。
トムの魂はその『欠片』を握りしめて生まれることを選んだ。
きっとこの影はそれに気付いたのだろう。片手に持っているスタンドの矢は、隕石の欠片から作られているらしい。
影がトムの事を抱き上げる。途端にうとうとと眠くなるのに、十二歳にもなって抱っことか抱っこされて眠くなるとかと変な気分になるも、それを考えている意識も沈んでいった。
何も考えられなくなる。それを心地よいとも思う。
守られている、という気持ちは嫌いじゃない。それはトムがいつだって父に求めているものの一つだった。
トムは『ヴォルデモート』じゃない。だから奴の『業』なんて関係がなかった。
愛を与えられて幸せを望まれた、『トム』だ。
服どころか顔や手も真っ黒で判別が出来なかった。最初から顔立ちなんてものはないのかもしれない。全てが影で構成された、影が具現化したような存在だった。
その影がトムの前へ立ちはだかる。その存在に似たモノをトムは知っている。
差し出される手。
「――……ぼ、くは、違う。僕はトムだ。トムなんだ」
咄嗟に否定して首を振る。目の前の影はトムの言葉を聞いたのか聞いていないのか、トムがその手を取らないと悟ると踵を返し倒れているブチャラティへと近づいていった。
何もかもが眠っている場で唯一自分以外に起きている影。その手にはスタンドの矢が握られている。
トムがそろそろと影を追いかけると、影はブチャラティの傍で屈み腰に着けられていたウォレットチェーンを外した。それを持って立ち上がるのに慌てて声をかける。
「待って。それは父さんの物を貸してただけなんだ。持っていかないで」
影が振り返った。相変わらず眼も鼻も口も分からないが、顔の正面が向けられているのだからトムを見てはいるのだろう。
スンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ、再びトムへとウォレットチェーンを乗せた手を差し出してきた。さっきと同じ行動なのだけれど、少し雰囲気が違う。
「皆に、何をしたの?」
影は答えない。答えるための声を持たないのかも知れなかった。
トムは少し迷ってからウォレットチェーンを受け取って腰に着け、思い切って影の差し出してきた手へ自分のそれを重ねる。
トムの魂は『特別』だ。トムの魂はこの世界へ生まれる事なんて本当は出来るはずがない。それを無理矢理生まれる為に、父には内緒で『欠片』を持ってきた。
父の持つ召喚器の中へあり、姉である機械乙女の核であるのと同じ『欠片』が。
トムの魂はその『欠片』を握りしめて生まれることを選んだ。
きっとこの影はそれに気付いたのだろう。片手に持っているスタンドの矢は、隕石の欠片から作られているらしい。
影がトムの事を抱き上げる。途端にうとうとと眠くなるのに、十二歳にもなって抱っことか抱っこされて眠くなるとかと変な気分になるも、それを考えている意識も沈んでいった。
何も考えられなくなる。それを心地よいとも思う。
守られている、という気持ちは嫌いじゃない。それはトムがいつだって父に求めているものの一つだった。
トムは『ヴォルデモート』じゃない。だから奴の『業』なんて関係がなかった。
愛を与えられて幸せを望まれた、『トム』だ。