女性は体へ脂肪が付きやすい為、体温の変化というのが男性より起こりにくい。夏場でも冷え性を起こすのはその体へ蓄積されている脂肪が冷えて、なかなか発散されないその冷えに体が冷えるからだ。
同時に、脂肪が多い故に女性は老いに強く男性よりも寿命が長い。世界的平均寿命も男性より女性だ。

「敵はほんのちょっとだけ変化する体温差で『老い』スピードを区別してるのです。男は早く『彼女』は遅ければそれでいい」

それを聞いてしかしミスタはまだ納得出来ていないようだったが、トムは理解できた気がした。

「『体温の変化』。そういえばわたしたちは体がちょっぴり冷えていた。今まで冷たい飲み物を飲んでいたから……。ナランチャは飲んでなかった」

トリッシュの言葉に、テーブルの上の飲みかけのグラスを振り返る。トリッシュとブチャラティはそれぞれ氷入りの飲み物を摂取していて、ミスタとトムは開けて冷気が漏れ出ていた冷蔵庫の前にいた。
グラスから氷を取り出したトリッシュが一番老化の激しいナランチャへ近付き、氷を押し当てる。途端ナランチャの肌が若返るのに、その仮説が正しいことを悟った。
トムとミスタが冷蔵庫へ走る。冷蔵庫を開けて製氷器を取り出した。

「体を冷やすんだ！ みんなの体を氷で冷やすんだ！」
「分かってる！ 貸せ！」

製氷器の中には既にそれぞれが飲み物へ入れるなどして使っていた為に二つしかない。当然その量で皆の体を冷やすなんて不可能だ。
でもここにはトムがいる。増殖の性質をもった『雲の炎』を使えるトムがだ。
首にチェーンへ提げていた指輪を指へ填めて、ミスタが持っていた製氷器に手を突っ込む。ミスタが慌てた声を出すのも気にせず霧の炎を灯せば、製氷器の中の氷が入れ物から飛び出す勢いで増殖し、トムとミスタの周りに散らばった。

「おわっ！？」
「……これで足りる？」
「いや、つかお前」

一気に膨大な量の炎を灯したから疲れている。けれどもこれでこの亀の中を冷気で満たすことは可能なはずだ。

「くそっ……父さんならもっと多くの氷を増やせたのに」

立ち上がって氷を掴み、勢いよく現れた氷に驚いているトリッシュへ真っ先に氷を渡す。まず彼女の安全を確保しなければブチャラティ達が氷を受け取らないと思ったからだ。
それからブチャラティへも氷を渡して、老化の激しいナランチャから順に氷を押し当てていく。
大量の氷が現れた事で一気に室温が下がった亀の中の部屋で、変温動物であるナギニが必死にトムの体温を求めていた。

「ナギニ。匣へ戻って」

言うなりナギニが匣へ戻る。これでナギニは問題ない。