ペルソナ4
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逃げ切った。俺はやった。
無骨な青年が倒れたらしくて荷物になっていたことや、月森達が戦闘で疲れていたことが勝因だと思う。多少は自信のある足の速さとすぐに逃げることを選択した自分の脳に乾杯。
さすが俺、やったぜ俺。
まぁそんな冗談はさておき、これで月森達に俺という存在がバレたことは確かだろう。彼らが俺のことをどう認識するかが今後の焦点だ。
自分達以外の『テレビへ入れる人間』として不思議に思うか、もしくは『テレビへ入れられてしまった人間』として被害者と見なすか。後者は我ながら無理だろうと思うが。
だって逃げたし。
あそこで人に会えた事を怯えつつ喜んで助けてとでも言っていれば、もしかしたら被害者だと思ってくれただろう。だが俺はそれをせずに逃げてしまった。つまり逃げる必要があるということになる。
何故逃げるのか。あの場合じゃその理由は一つしか思い浮かばないだろう。
『アイツはこの空間と関わりのある人物だ』
どこがさすがだ俺。むしろ墓穴を掘っていた。
英語の授業を聞き流しながら考える。今日の授業はこれが最後だ。長年生きているせいで『×××』が使えなくとも高校や大学程度の知識なら寝惚けていても分かる。だから今日はサボろうとも考えていたのだが、生憎日直だったのだ。
無論休み時間は気を付けた。学年が違うとはいえ月森が覚えていれば俺がこの学校の三年だと分かる。忘れていてくれれば万々歳だがそう上手くいかないだろう。
現に、この授業の前に二年の男子が俺を捜しに来たとクラスメイトから聞いた。その時は教師に雑用を与えられて職員室に居たうえ、休み時間を少しオーバーして教室へ戻ったので会わなかったのだ。
だが親切で何も知らないクラスメイトは俺がこのクラスだということをその二年に教えたらしい。だとすれば確実に放課後、来る。
授業が終わって、まず鞄を持ってさっさと教室を出た。トイレで少し時間を潰してから伊達眼鏡を掛けて教室へ戻り、日直の仕事を平然と終わらせる。職員室へ日誌を持って行ってから縛っていた髪を違う髪形で縛り直して、上着を脱ぎながら昇降口へ向かった。
昇降口には緑ジャージの女生徒とヘッドホンの男子。チラリと見ただけで視線を逸らして靴を履く。彼らは俺に気付いていない。
そもそももう探していないんじゃないかと思いもしたが、そういうことを考えるのは後回しにして彼らの前をいっそ堂々と通り過ぎた。
俺の勝ちだ。
「……斑鳩先輩、待ってください」
腕を掴まれる。勝ったと思った瞬間だった。
振り返れば月森が俺の腕を掴んで俺を見つめている。目が合うと僅かに微笑んだ。
「なんで分かったぁ?」
「鞄に付いてるキーホルダー」
端的に告げられたそれは、落としたのを拾ってもらったその日に直して鞄へ付け直していた。そういえばと思い出しても遅い。
月森の後から緑ジャージの女子とヘッドホンの彼が駆け寄ってくる。
「月森君捕まえた!?」
「ああ」
俺は珍獣か、と思ったが黙っておく。腕を放してもらい髪形をいつものものに直してから伊達眼鏡を外して仕舞った。
「……で、俺に何か用かぁ?」
「昨日、会いましたよね?」
何処で、とは言わない。校門の前で言える様な場所ではないということは分かっているのか、それともまだ会ったのは俺だと断定していないのか。
前者だろう。
「ジュネスのフードコート。行こうぜぇ」
ため息を吐いて提案すれば三人は神妙な顔で頷く。今日は旅館の娘さんはいないのかとか、無骨な青年はどうなったのかも気になったが、そういう疑問もジュネスへ着くまでおあずけ。
俺が逃げない様にか常に誰かが横に並ぶ状態でジュネスのフードコートへ到着し、周囲に人気の少ないテーブルを選んで座る。鞄から財布を取り出してヘッドホンの彼に投げた。
「な、なんスか?」
「アイスコーヒー。あとは好きなもんそれぞれ買って来い」
奢りと理解したのか緑ジャージの子と月森がそれぞれ飲み物を言いつけ、ヘッドホンの彼が何でオレがと言いながらも走っていった。
その間に緑ジャージの子が自己紹介する。里中千枝と名乗ったその子は、以前家電売り場のテレビの前で項垂れていた時俺が話し掛けたことを覚えていなかった。
思ったよりも早く戻ってきたヘッドホンの彼から財布を返してもらい、こちらも自己紹介を受ける。花村陽介という彼はこのジュネスの店長の息子らしい。
「それで、俺に何の用だぁ?」
わざと名乗らないまま本題に入る。俺の学年と苗字しか知らないと思われる彼らは、俺が早々に尋ねたことで少し狼狽した様だった。
「昨日、先輩と会いましたよね。その……テレビの中で」
「テレビの中」
言葉尻を単調に繰り返す。
「それで私達に見つかって逃げた、ですよね?」
意外にも里中のほうがペース回復が早かった。それでもこのまま黙っていれば、人違いかもしれないと考えそうな状態だ。
ストローを咥えながらどうしようかなと考える。俺が何かしたという訳でもないし、疑いの目が少しばかり俺に向けられるだけで特に支障はない。
出会った本人だと断定されてしまう前に、しばらくテレビの中へ入らず通常の学校生活を送ればいい。そうなれば当然アリバイはある訳だから本人ではないと考える。被害者を助けているらしい彼らからすれば迷惑だろうけれど。
だって俺の目的は別にヤツラ探しではない。あくまでも『愚者』探しだ。
じゃあ誤魔化す方向で、と三人を順に見ていく。そして最後の彼で視線が止まる。
少し似ているな、なんて思ってしまった。
無骨な青年が倒れたらしくて荷物になっていたことや、月森達が戦闘で疲れていたことが勝因だと思う。多少は自信のある足の速さとすぐに逃げることを選択した自分の脳に乾杯。
さすが俺、やったぜ俺。
まぁそんな冗談はさておき、これで月森達に俺という存在がバレたことは確かだろう。彼らが俺のことをどう認識するかが今後の焦点だ。
自分達以外の『テレビへ入れる人間』として不思議に思うか、もしくは『テレビへ入れられてしまった人間』として被害者と見なすか。後者は我ながら無理だろうと思うが。
だって逃げたし。
あそこで人に会えた事を怯えつつ喜んで助けてとでも言っていれば、もしかしたら被害者だと思ってくれただろう。だが俺はそれをせずに逃げてしまった。つまり逃げる必要があるということになる。
何故逃げるのか。あの場合じゃその理由は一つしか思い浮かばないだろう。
『アイツはこの空間と関わりのある人物だ』
どこがさすがだ俺。むしろ墓穴を掘っていた。
英語の授業を聞き流しながら考える。今日の授業はこれが最後だ。長年生きているせいで『×××』が使えなくとも高校や大学程度の知識なら寝惚けていても分かる。だから今日はサボろうとも考えていたのだが、生憎日直だったのだ。
無論休み時間は気を付けた。学年が違うとはいえ月森が覚えていれば俺がこの学校の三年だと分かる。忘れていてくれれば万々歳だがそう上手くいかないだろう。
現に、この授業の前に二年の男子が俺を捜しに来たとクラスメイトから聞いた。その時は教師に雑用を与えられて職員室に居たうえ、休み時間を少しオーバーして教室へ戻ったので会わなかったのだ。
だが親切で何も知らないクラスメイトは俺がこのクラスだということをその二年に教えたらしい。だとすれば確実に放課後、来る。
授業が終わって、まず鞄を持ってさっさと教室を出た。トイレで少し時間を潰してから伊達眼鏡を掛けて教室へ戻り、日直の仕事を平然と終わらせる。職員室へ日誌を持って行ってから縛っていた髪を違う髪形で縛り直して、上着を脱ぎながら昇降口へ向かった。
昇降口には緑ジャージの女生徒とヘッドホンの男子。チラリと見ただけで視線を逸らして靴を履く。彼らは俺に気付いていない。
そもそももう探していないんじゃないかと思いもしたが、そういうことを考えるのは後回しにして彼らの前をいっそ堂々と通り過ぎた。
俺の勝ちだ。
「……斑鳩先輩、待ってください」
腕を掴まれる。勝ったと思った瞬間だった。
振り返れば月森が俺の腕を掴んで俺を見つめている。目が合うと僅かに微笑んだ。
「なんで分かったぁ?」
「鞄に付いてるキーホルダー」
端的に告げられたそれは、落としたのを拾ってもらったその日に直して鞄へ付け直していた。そういえばと思い出しても遅い。
月森の後から緑ジャージの女子とヘッドホンの彼が駆け寄ってくる。
「月森君捕まえた!?」
「ああ」
俺は珍獣か、と思ったが黙っておく。腕を放してもらい髪形をいつものものに直してから伊達眼鏡を外して仕舞った。
「……で、俺に何か用かぁ?」
「昨日、会いましたよね?」
何処で、とは言わない。校門の前で言える様な場所ではないということは分かっているのか、それともまだ会ったのは俺だと断定していないのか。
前者だろう。
「ジュネスのフードコート。行こうぜぇ」
ため息を吐いて提案すれば三人は神妙な顔で頷く。今日は旅館の娘さんはいないのかとか、無骨な青年はどうなったのかも気になったが、そういう疑問もジュネスへ着くまでおあずけ。
俺が逃げない様にか常に誰かが横に並ぶ状態でジュネスのフードコートへ到着し、周囲に人気の少ないテーブルを選んで座る。鞄から財布を取り出してヘッドホンの彼に投げた。
「な、なんスか?」
「アイスコーヒー。あとは好きなもんそれぞれ買って来い」
奢りと理解したのか緑ジャージの子と月森がそれぞれ飲み物を言いつけ、ヘッドホンの彼が何でオレがと言いながらも走っていった。
その間に緑ジャージの子が自己紹介する。里中千枝と名乗ったその子は、以前家電売り場のテレビの前で項垂れていた時俺が話し掛けたことを覚えていなかった。
思ったよりも早く戻ってきたヘッドホンの彼から財布を返してもらい、こちらも自己紹介を受ける。花村陽介という彼はこのジュネスの店長の息子らしい。
「それで、俺に何の用だぁ?」
わざと名乗らないまま本題に入る。俺の学年と苗字しか知らないと思われる彼らは、俺が早々に尋ねたことで少し狼狽した様だった。
「昨日、先輩と会いましたよね。その……テレビの中で」
「テレビの中」
言葉尻を単調に繰り返す。
「それで私達に見つかって逃げた、ですよね?」
意外にも里中のほうがペース回復が早かった。それでもこのまま黙っていれば、人違いかもしれないと考えそうな状態だ。
ストローを咥えながらどうしようかなと考える。俺が何かしたという訳でもないし、疑いの目が少しばかり俺に向けられるだけで特に支障はない。
出会った本人だと断定されてしまう前に、しばらくテレビの中へ入らず通常の学校生活を送ればいい。そうなれば当然アリバイはある訳だから本人ではないと考える。被害者を助けているらしい彼らからすれば迷惑だろうけれど。
だって俺の目的は別にヤツラ探しではない。あくまでも『愚者』探しだ。
じゃあ誤魔化す方向で、と三人を順に見ていく。そして最後の彼で視線が止まる。
少し似ているな、なんて思ってしまった。