先日と同じ場所に着地して辺りを見回せば、前方から前に見たシャドウとは少し違う気配を持つ物体がやって来た。

「だ、誰クマ！ もしや犯人クマね！？」
「……はぁ？」
「今はセンセイがいないクマけど、クマが逃がさないクマよ！」

意味が分からないがとりあえず向かってきたので跳び箱の要領で飛び越えてみる。思ったよりフサフサな感触を手に残して背後へと突き飛ばしたそのシャドウとは違う物体は、反動で転がったかと思うと腕をでたらめに振り始めた。害意のない子供のような行動は少し和むが今はそれどころではない。

「クマー！ やっぱり犯人は酷い奴クマ！」
「っていうか犯人って何の話だぁ？」
「クマ？ お前が人間を突き落とした犯人じゃないクマ？」
「突き落としたぁ……？」
「もしかして突き落とされたクマ？」

話がかみ合っていないことは理解できたが、悪いのはこちらの気がしてくるのはこのクマクマ言う物体が起き上がらないで喋っているからだろう。
とりあえず助け起こして座らせ、その前にしゃがんで視線を合わせた。

「俺は俺の意志で来たんだが、そうじゃない奴らもいるのかぁ？」
「んーと、最近こっちの世界に人が突き落とされてシャドウ達が騒がしくて困ってるクマ。センセイ達はそういう人を助けるために自分の意志で来てるクマよ」
「センセイって？」
「センセイはセンセイクマ！」

思考能力が低いのか会話に慣れていないのか。仕方が無いので質問を変える。

「最近高校生がここに出入りしてるだろぉ？ あいつ等は知り合いかぁ？」
「センセイや陽介のことクマ？ センセイたちはー、クマの友達クマ！」

恥ずかしがりながら自慢するクマを語尾にする彼には悪いが、そろそろ頭が破裂しそうだ。会話が成り立たないのと、欲しい情報が自由に得られないのは三年目に入ったが慣れる気がしない。とりあえず高校生のどれかがセンセイで男子の片方が陽介だ。

「突き落とされた人って、どうなったぁ？」
「最初の二人は死んじゃったクマ。でも雪子チャンは千枝チャンたちが助けたクマ！」
「雪子……ちゃん、ねぇ」

それは確か旅館の娘さんの名前である。ニュースでそういう情報は聞いていないので、助けられたのはまだそう時間が経っていないのではと思った。

「それいつの話だぁ？」
「少し前クマ。もうセンセイたちも帰ったクマよ」
「今日の話？ じゃあその雪子さんは助かってもう外に戻ってるんだなぁ？」
「そうクマ」

だったら俺がこれ以上ここにいる意味は無い。後ろにあるテレビを振り返って手を差し入れ、彼を放置して戻る。
背後で何か言っていたが、戻ってきてから自分のことを口止めし忘れていたと思い出した。