ペルソナ3
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目を覚ますとこの一年で見慣れた天井がぼやけていた。ぼやけている原因は目を潤す涙で、その涙は吐き気を催しそうなほどの頭痛によってもたらされているものだ。
けれども本当にそうであるかは、アマネには分からない。
起きなければいけないのに起き上がる気にはなれず、両手で目元を覆って少しでも早く、脳内で行なわれている情報の整理が終わるのを待つ。手の冷たさが目蓋に気持ちよさを与えているけれど、それに反して感情は最悪だ。
「……み、なと、さん」
搾り出すような声しか出なかった。
全てが何も無かったかのように世界が改竄されていた音が聞こえている。多分それは気のせいで、本当のところは自分の拍動の音か何かなのだろうけれど、アマネにはそれが酷く悲しい音に聞こえた。
召喚器やあの日使ったナイフは、部屋を探せば見つかった。引き出しの奥へ隠されていたそれに何とも言えなくなりながらも、召喚器をこめかみへと押し当てて引き金を引く。
カチ、という音だけが響くそれに、アマネは落胆と同時に納得もした。一年前まではずっと馴染みのあった鈍い頭痛。深く息を吐き出すことでそれを気にしないことにして、立ち上がって部屋を出る。
ラウンジには誰も居ない。皆タルタロス探索の為に寮で待機している必要が無くなったから、放課後も夜も門限まで好きに出歩いているようだった。
ということは、覚えているのはアマネだけ。そのアマネだって思い出したのは今日の朝の事で、あの日から既に一ヶ月も過ぎていた。
思い出したのだってアマネ自身の力ではなく戻ってきた『×××』のお陰かもしれない。
指を鳴らせば腕輪がなくともそれなりの大きさに燃え上がる死ぬ気の炎。細かい操作は出来ないが灯すだけなら出来るそれを消して、ラウンジのソファへと腰を降ろした。
誰も覚えていない。伊織も岳羽も真田も山岸も天田もコロマルも美鶴も、アイギスも。
テレビさえ点いておらず静まり返ったラウンジで、時計の秒針の音が嫌に響いていた。前屈みになって俯いていると、寮の玄関が開く。
顔を上げれば驚いた様子の有里がアマネを見ていた。
「……おかえりなさい」
有里は何も返さない。ただ無言でアマネを見つめている。
きっと『おかえり』と言われたことに驚いているのだろう。この一ヶ月の間、全てを忘れた寮の皆はアマネも含めて、誰かが帰ってきたところへ出くわしてもそんな事を言っていなかった。
思い出してしまった今ではそれが酷く悲しい。
同時に、有里の姿を見ることさえ辛い。
「……ただいま」
ややあって返された帰宅の挨拶に、アマネは立ち上がって笑みを浮かべる。ちゃんと笑えているだろうかと不安に思いながらも、鈍い頭痛が訴える『事実』をあえて無視し続けた。
「何が食べたいですか、夕食」
「アマネ……斑鳩が作るの」
「ええ、朝じゃねぇけど、目玉焼きだっていいですよ。食べたかったんでしょう?」
「……!」
今度はハッキリと驚く有里へ涙が溢れる。男なのだしこんな事で泣くなよと思いながらも、あの日のアイギスのように涙が止まらない。
歯を食いしばって嗚咽を堪えて袖口で涙を拭っていれば、有里が近付いてくる。有里は何も言わずに手を伸ばしてアマネを抱きしめて、頭を撫でてきた。
少し冷たい身体。
「……っ、なんで。湊さん、なんでっ……」
「……アマネが言ったんだよ」
『土壇場になったら、結構自分のことは考えませんでした』
そんなつもりで、話した訳ではなかった。
けれども本当にそうであるかは、アマネには分からない。
起きなければいけないのに起き上がる気にはなれず、両手で目元を覆って少しでも早く、脳内で行なわれている情報の整理が終わるのを待つ。手の冷たさが目蓋に気持ちよさを与えているけれど、それに反して感情は最悪だ。
「……み、なと、さん」
搾り出すような声しか出なかった。
全てが何も無かったかのように世界が改竄されていた音が聞こえている。多分それは気のせいで、本当のところは自分の拍動の音か何かなのだろうけれど、アマネにはそれが酷く悲しい音に聞こえた。
召喚器やあの日使ったナイフは、部屋を探せば見つかった。引き出しの奥へ隠されていたそれに何とも言えなくなりながらも、召喚器をこめかみへと押し当てて引き金を引く。
カチ、という音だけが響くそれに、アマネは落胆と同時に納得もした。一年前まではずっと馴染みのあった鈍い頭痛。深く息を吐き出すことでそれを気にしないことにして、立ち上がって部屋を出る。
ラウンジには誰も居ない。皆タルタロス探索の為に寮で待機している必要が無くなったから、放課後も夜も門限まで好きに出歩いているようだった。
ということは、覚えているのはアマネだけ。そのアマネだって思い出したのは今日の朝の事で、あの日から既に一ヶ月も過ぎていた。
思い出したのだってアマネ自身の力ではなく戻ってきた『×××』のお陰かもしれない。
指を鳴らせば腕輪がなくともそれなりの大きさに燃え上がる死ぬ気の炎。細かい操作は出来ないが灯すだけなら出来るそれを消して、ラウンジのソファへと腰を降ろした。
誰も覚えていない。伊織も岳羽も真田も山岸も天田もコロマルも美鶴も、アイギスも。
テレビさえ点いておらず静まり返ったラウンジで、時計の秒針の音が嫌に響いていた。前屈みになって俯いていると、寮の玄関が開く。
顔を上げれば驚いた様子の有里がアマネを見ていた。
「……おかえりなさい」
有里は何も返さない。ただ無言でアマネを見つめている。
きっと『おかえり』と言われたことに驚いているのだろう。この一ヶ月の間、全てを忘れた寮の皆はアマネも含めて、誰かが帰ってきたところへ出くわしてもそんな事を言っていなかった。
思い出してしまった今ではそれが酷く悲しい。
同時に、有里の姿を見ることさえ辛い。
「……ただいま」
ややあって返された帰宅の挨拶に、アマネは立ち上がって笑みを浮かべる。ちゃんと笑えているだろうかと不安に思いながらも、鈍い頭痛が訴える『事実』をあえて無視し続けた。
「何が食べたいですか、夕食」
「アマネ……斑鳩が作るの」
「ええ、朝じゃねぇけど、目玉焼きだっていいですよ。食べたかったんでしょう?」
「……!」
今度はハッキリと驚く有里へ涙が溢れる。男なのだしこんな事で泣くなよと思いながらも、あの日のアイギスのように涙が止まらない。
歯を食いしばって嗚咽を堪えて袖口で涙を拭っていれば、有里が近付いてくる。有里は何も言わずに手を伸ばしてアマネを抱きしめて、頭を撫でてきた。
少し冷たい身体。
「……っ、なんで。湊さん、なんでっ……」
「……アマネが言ったんだよ」
『土壇場になったら、結構自分のことは考えませんでした』
そんなつもりで、話した訳ではなかった。