ペルソナ3
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旧約聖書、その冒頭の物語。『知恵の実を食べたアダムは楽園を追放された』
その時からアダムを祖とする人間は楽園を、何かを求めるように放浪の民となった。歩き続ける事に何の意味があるか。行き着く先は楽園ではない。
「いかなる者の行き着く先も……絶対の“死”だという事を!」
ニュクス・アバターの声にシャドウを消滅させて振り返る。
「死に抗うことなど出来ない。生きることと死ぬことは同じだ……」
抗ったことなんてなかった。いつだって受け入れていた。自殺だって考えられたし死ぬ事を利用しようとさえ思えたこともある。
生きる事と死ぬ事が同じなら、死ぬ事は生きる事だ。もしそうであるのなら、自分が何度も生まれ変わる理由も何となく理解してしまった。
生きると同時に死に、死ぬと同時に生きる。万物は流転して巡り続けるのなら。
死して尚、何かがあるとしても。
「俺が行きたい場所は、そこじゃねぇよ」
倒れ伏すニュクス・アバター。同時にあれだけ集まり襲い掛かってきていたシャドウの攻勢が止む。
警戒しながらも構えを解き、完全に構えを解いても襲ってこない事を確認してから、天田とコロマルと一緒に有里達の元へ駆け寄った。
アマネとしてはむしろそのままニュクス・アバターへ駆け寄りたくもあったが、いつ動くとも知れないニュクス・アバターへ無為には近づけない。案の定やがて起き上がったニュクス・アバターはそのまま空へと浮き上がった。
「惜しい……本当に惜しいよ。運命を理解し、それでもなお、正面から戦おうとする強い意志……その心がもっと多くの人にあれば滅びの訪れは無かったのかも知れないね。でも、もう遅いんだ」
ニュクス・アバターの後ろで卵の殻を破るように月の表面が開かれ、赤い眼のようなものが現れる。
驚きに絶句している間にもその月が、地球上へ居るアマネ達を覗き込むように迫ってきていた。
あの月が、月そのものがニュクスだというのなら、そんな大きさのものがぶつかれば地球などひとたまりも無い。
タルタロスの下では象徴化していたはずの人々が元の姿へ戻り、同じく月の異状に気付いてか混乱による悲鳴や怒号がアマネ達の元へも聞こえてきていた。とはいえ何も出来ず、ただ迫り来る月に何か手立ては無いのかと無駄な抵抗のように考え続ける。
何か、何か。
「月から、何か来ます!」
山岸の叫びと殆ど同時に、頭上からの強い波動を受けた。身体を押し潰されるような激しい重力。必死にそれを抗っていれば、気絶していたはずのタカヤが階段を這い登ってくる。
そうしてニュクスの姿を見上げ笑い声を上げた。こんな時にまでふざけるなと言ってやりたいところだったが、強い波動のせいでまともに動く事すら出来ない。
膝を突いてしまいたかった。けれども膝を突くわけにはいかない。
まだアマネは何一つ為していやしないのだ。
息さえも自由に吸えないほどの波動を何度も受けて、天田が、真田が、岳羽が、山岸がと次々に耐え切れずに倒れていく。悔しさに叫ぶ伊織もとうとう倒れ、アマネは膝へ手を突いて必死に身体を支えた。
何度耐えればこの攻勢が止むのかさえ分からない。再び強い波動を受け、有里が倒れていく。
「湊さん!」
思わず叫んでアマネは震える足を踏み出した。
地面に足を降ろせばそのまま全身が地面へめり込んでしまいそうな錯覚に陥りながら、ただ必死に有里の元へと近付いていく。アイギスも同じく叫びはしたものの、アマネのように動く事は出来ないようだった。
「湊さん――兄さん! 起きて、起きろよぉおおお!」
衝撃波へ負けて倒れこむように座り込み、倒れている有里の肩を掴む。揺さぶることは出来なかった。
動かない身体。自身のそれは何度も経験しているし、誰かのそれだって見た事はある。かつて死んで欲しくないと願った者達だって目の前で倒れていたではないか。その時自分はどうしていただろうかと思い出そうとする。
思い出しても、結局今の自分じゃその時のようには出来やしないのだと、痛感させられるだけだった。
何が自分ならどうにか出来るだ。何が助けたいだ。結局いつも『×××』に頼っていただけで何も出来ないではないか。
自分はこんなに弱く、無力で、傲慢で、愚かだったのかと。
「……ぁ?」
有里の肩を掴んでいた左手に、黒い炎が燃え上がり絡みつく。アマネの意思とは関係なく燃え上がったそれが有里の身体へ吸い込まれるようにして消えたかと思うと、有里がゆっくりと身動ぎした。その有里の手へ一瞬、虹色の光があったような気がする。
見間違いかと空からの波動へ抗い続けてあまり上手く働かない頭で思った。有里がまるで波動など感じていないかのように簡単に起き上がり、立ち上がる。
何故動けるのかと、問い掛られても有里は答えなかった。ただニュクスを見上げたその身体がぼんやりとした光に包まれ、地面から離れるのに慌てて有里の服を掴んだ。
何処へ行こうとしているのかは言われなくとも分かる。経験則から察せられる。
察せられて、しまった。
「……駄目です。駄目です湊さん」
必死に、必死に呼び止めた。
「湊さん、―――――――」
なんて言ったのか、自分でさえ分からなかった。
ただ、それを聞いたのだろう有里が振り返ってアマネを見つめ、優しく、やさしく微笑んだ。
するりと力が抜ける指。
岳羽達が叫んでいる。けれどもアマネはもう止めるなんて無理だと悟って、追いかけるように伸ばしていた腕を下ろす。
こんな時にそんな風に笑うなとか、笑うくらいなら連れて行けとか、一人でいくなよとか、言いたい事はたくさんあったが何一つ言葉にして叫ぶことは出来なかった。
空で、ニュクスの中から光が溢れる。地上へも降り注ぐその光に包まれて、アマネは誰かに抱きしめられた気がした。
その時からアダムを祖とする人間は楽園を、何かを求めるように放浪の民となった。歩き続ける事に何の意味があるか。行き着く先は楽園ではない。
「いかなる者の行き着く先も……絶対の“死”だという事を!」
ニュクス・アバターの声にシャドウを消滅させて振り返る。
「死に抗うことなど出来ない。生きることと死ぬことは同じだ……」
抗ったことなんてなかった。いつだって受け入れていた。自殺だって考えられたし死ぬ事を利用しようとさえ思えたこともある。
生きる事と死ぬ事が同じなら、死ぬ事は生きる事だ。もしそうであるのなら、自分が何度も生まれ変わる理由も何となく理解してしまった。
生きると同時に死に、死ぬと同時に生きる。万物は流転して巡り続けるのなら。
死して尚、何かがあるとしても。
「俺が行きたい場所は、そこじゃねぇよ」
倒れ伏すニュクス・アバター。同時にあれだけ集まり襲い掛かってきていたシャドウの攻勢が止む。
警戒しながらも構えを解き、完全に構えを解いても襲ってこない事を確認してから、天田とコロマルと一緒に有里達の元へ駆け寄った。
アマネとしてはむしろそのままニュクス・アバターへ駆け寄りたくもあったが、いつ動くとも知れないニュクス・アバターへ無為には近づけない。案の定やがて起き上がったニュクス・アバターはそのまま空へと浮き上がった。
「惜しい……本当に惜しいよ。運命を理解し、それでもなお、正面から戦おうとする強い意志……その心がもっと多くの人にあれば滅びの訪れは無かったのかも知れないね。でも、もう遅いんだ」
ニュクス・アバターの後ろで卵の殻を破るように月の表面が開かれ、赤い眼のようなものが現れる。
驚きに絶句している間にもその月が、地球上へ居るアマネ達を覗き込むように迫ってきていた。
あの月が、月そのものがニュクスだというのなら、そんな大きさのものがぶつかれば地球などひとたまりも無い。
タルタロスの下では象徴化していたはずの人々が元の姿へ戻り、同じく月の異状に気付いてか混乱による悲鳴や怒号がアマネ達の元へも聞こえてきていた。とはいえ何も出来ず、ただ迫り来る月に何か手立ては無いのかと無駄な抵抗のように考え続ける。
何か、何か。
「月から、何か来ます!」
山岸の叫びと殆ど同時に、頭上からの強い波動を受けた。身体を押し潰されるような激しい重力。必死にそれを抗っていれば、気絶していたはずのタカヤが階段を這い登ってくる。
そうしてニュクスの姿を見上げ笑い声を上げた。こんな時にまでふざけるなと言ってやりたいところだったが、強い波動のせいでまともに動く事すら出来ない。
膝を突いてしまいたかった。けれども膝を突くわけにはいかない。
まだアマネは何一つ為していやしないのだ。
息さえも自由に吸えないほどの波動を何度も受けて、天田が、真田が、岳羽が、山岸がと次々に耐え切れずに倒れていく。悔しさに叫ぶ伊織もとうとう倒れ、アマネは膝へ手を突いて必死に身体を支えた。
何度耐えればこの攻勢が止むのかさえ分からない。再び強い波動を受け、有里が倒れていく。
「湊さん!」
思わず叫んでアマネは震える足を踏み出した。
地面に足を降ろせばそのまま全身が地面へめり込んでしまいそうな錯覚に陥りながら、ただ必死に有里の元へと近付いていく。アイギスも同じく叫びはしたものの、アマネのように動く事は出来ないようだった。
「湊さん――兄さん! 起きて、起きろよぉおおお!」
衝撃波へ負けて倒れこむように座り込み、倒れている有里の肩を掴む。揺さぶることは出来なかった。
動かない身体。自身のそれは何度も経験しているし、誰かのそれだって見た事はある。かつて死んで欲しくないと願った者達だって目の前で倒れていたではないか。その時自分はどうしていただろうかと思い出そうとする。
思い出しても、結局今の自分じゃその時のようには出来やしないのだと、痛感させられるだけだった。
何が自分ならどうにか出来るだ。何が助けたいだ。結局いつも『×××』に頼っていただけで何も出来ないではないか。
自分はこんなに弱く、無力で、傲慢で、愚かだったのかと。
「……ぁ?」
有里の肩を掴んでいた左手に、黒い炎が燃え上がり絡みつく。アマネの意思とは関係なく燃え上がったそれが有里の身体へ吸い込まれるようにして消えたかと思うと、有里がゆっくりと身動ぎした。その有里の手へ一瞬、虹色の光があったような気がする。
見間違いかと空からの波動へ抗い続けてあまり上手く働かない頭で思った。有里がまるで波動など感じていないかのように簡単に起き上がり、立ち上がる。
何故動けるのかと、問い掛られても有里は答えなかった。ただニュクスを見上げたその身体がぼんやりとした光に包まれ、地面から離れるのに慌てて有里の服を掴んだ。
何処へ行こうとしているのかは言われなくとも分かる。経験則から察せられる。
察せられて、しまった。
「……駄目です。駄目です湊さん」
必死に、必死に呼び止めた。
「湊さん、―――――――」
なんて言ったのか、自分でさえ分からなかった。
ただ、それを聞いたのだろう有里が振り返ってアマネを見つめ、優しく、やさしく微笑んだ。
するりと力が抜ける指。
岳羽達が叫んでいる。けれどもアマネはもう止めるなんて無理だと悟って、追いかけるように伸ばしていた腕を下ろす。
こんな時にそんな風に笑うなとか、笑うくらいなら連れて行けとか、一人でいくなよとか、言いたい事はたくさんあったが何一つ言葉にして叫ぶことは出来なかった。
空で、ニュクスの中から光が溢れる。地上へも降り注ぐその光に包まれて、アマネは誰かに抱きしめられた気がした。