ペルソナ3
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更に上へと続く階段を昇った先、頂上へと繋がるのであろう階段の前に、タカヤは立っていた。
立ち塞がっている訳ではなく、ニュクスが降りてくるのをただ待っているのだと言うタカヤは、世界の終わる瞬間に及んでまで抗おうとするアマネ達のことを哀れむ。
無駄な事だと、どうせ何も出来やしないのだというタカヤの言葉も、アマネは何となく理解も同意も出来た。なんだったら彼の半生にだって同情してやれるだろう。
けれども同時に、アマネだけが彼の言葉を、意見を、主張を、真っ向から否定できるという皮肉。
『前世』というものがあって、そこで生きてきた経験があって、更にはそこでも同じように世界の終わりだとか、滅ぼそうとするものだとか、継続させようと躍起になっている者達を通して、タカヤの言葉を否定出来た。
「これは“総意”なのです。人は、生に意味を見出せないと死を受容できない。なのに世界はそうした意味を既に失っている……その事に、もう誰もが気付いているのです。ニュクスは、そんな閉そく感に満ち満ちた今という時代に望まれて訪れたのですよ!」
「でもさぁ、お前の言う『世界』ってのは、人類だけの事なんだよなぁ」
タカヤの言葉へ飲み込まれかけた山岸達の視線が、アマネへと向けられる。
「俺は別にお前が間違ってるとか言うつもりは無ぇし、実際そう考える事が信じるより楽だって事も知ってる。……俺だって、生きる意味を求めてた事があるから」
目を伏せて、脳裏に浮かぶ弟や親友達、後輩や知人達。
どうして自分だけ『二度目の生を受けた』のか。そう悩んでいた時だってあった。
死んで逃げる事は簡単だ。今この瞬間でさえ、持っているナイフで首を掻き切るなり心臓を突き刺すなりして死ねる。その後の事など死人に口なし。
だが、それでは何も変わらない。ましてや生きながらそれを渇望する事も。
「目的を探さない、緩やかな生、緩やかな死。苦しまずに生きようとする事……それが間違いかどうかなんて、わたしには分かりません」
アイギスが胸元を押さえて口を開く。
「でもわたしは、それじゃ『イヤ』だから……何かの為、誰かの為の、わたしでいたいから。だから、ここまで来たんです。それが……わたしの“生きる”だから」
アマネには目的を探さない人生も目的を探す人生もあった。どちらも経験しておきながら、どうにも未だに『どちらのほうが良かったか』なんて評価は出せやしないが。
誰かの為に、何かの為に。そうして生きる事を認めたアイギスと同じだということくらいは分かる。
視線をそっと有里へ向けた。あの人がアマネを受け入れてくれなければきっと、アマネは今もまた、もしくはタカヤへ賛同してこの場へ居なかったかもしれない。
生まれた意味も生きる意味も、今のアマネは何となくだがちゃんと分かっている。それは弟や親友や友人達、そして有里が教えてくれた事だ。
戦いに敗れて仰向けに倒れたタカヤは、それでも悲しむ事も怯える事もない。むしろ清々しささえ感じられるような表情で、全てを諦める。
諦めるというよりはいずれにせよ彼自身へ訪れる結末は変わらないという達観。彼をジンの様にエントランスへ運んでもこのまま放置しても、結局は何も変わらない、変えられない。
アイギスに怖いかと尋ねられて、タカヤは思ったよりも優しい笑みを浮かべる。
「不思議な事を訊きますね。あなたは、死を知らぬ者。なら、死を怖いものだと思っているでしょうね……」
「それは、どういう意味ですか?」
「知らないからこそ、恐れるのです。……私は充分生きた。これ以上、言い残す事などありません」
「死は怖ぇモンじゃねぇですよアイギスさん。怖ぇのは……もっと別の事」
タカヤを見下ろしながら言えば、タカヤがアマネを見上げる。本当に少しだけ嬉しそうな目。
「やはり貴方は、他の方よりも話が分かりますね」
「死ぬのが怖いとは、俺も思った事が無ぇもんでなぁ。銃殺と老衰と撲殺と消滅は、どれが一番悲惨だったのかも分かんねぇし」
「アマネ、くん……?」
岳羽が不思議そうにアマネへ声を掛けてきたが、そちらを振り返りはしなかった。
真田とアイギスは黙ってアマネを見ている。二人が考えている事は予想出来ていたが、残念なことにそれは間違いだ。しかし訂正するタイミングもない。
「俺は正直、お前とも仲良くなれる可能性があると思ってたぁ」
「フ……つまらない話は終わりにしましょう。前言を撤回します。貴方も……話が分からない人だ」
笑って、眠るように意識を失ったタカヤを見つめ、それから顔を上げて周りの皆を振り返る。何か言いたげな顔も有里の真っ直ぐな視線も受け止めて、アマネも笑ってみせた。
可能性があったところで、アマネが選んだのは『こちら側』だ。だからアマネは、皆と一緒にニュクスを倒す権利がある。
誰からとも無く静かに、その場所へ存在している階段を見上げた。
頂上へと繋がる階段。その先は望月が言っていた“約束の場所”
アイギスが近付いてきて隣へ立った。アマネと同じように階段を見上げる姿を見て、アマネももう一度改めて階段を見上げる。
この先で望月が待っているのか、ニュクスが降りてくるのか。今までだってごく稀にしかそんな事はしなかったが、今のアマネでは予知も予測も出来ない。死ぬ気の炎もまともに使えず、神の武器があるわけでも魔術が使える訳もなかった。
無い無い尽くしであっても恐怖は無く、きっとどうにかできると、周りの皆と普通に明日を迎えられると信じている。握り締めた左手に、ほのかな暖かさ。
「これで、終わりにしましょう」
長い道のりだった。多分アマネの今の人生の、一番の正念場だ。
タルタロスの頂上からは、雲が眼下へ眺める事が出来た。まるで高い山の上の様な光景だが、不思議と息苦しいとかそういうことは無く、見上げた空には歪んでいる月。
今まで何度も見上げたその月が異様に近く、思わず細めた視界へ黒い点。月から舞い降りてくるかのようなその姿は巨大で、黒い翼を持っていた。
立ち塞がっている訳ではなく、ニュクスが降りてくるのをただ待っているのだと言うタカヤは、世界の終わる瞬間に及んでまで抗おうとするアマネ達のことを哀れむ。
無駄な事だと、どうせ何も出来やしないのだというタカヤの言葉も、アマネは何となく理解も同意も出来た。なんだったら彼の半生にだって同情してやれるだろう。
けれども同時に、アマネだけが彼の言葉を、意見を、主張を、真っ向から否定できるという皮肉。
『前世』というものがあって、そこで生きてきた経験があって、更にはそこでも同じように世界の終わりだとか、滅ぼそうとするものだとか、継続させようと躍起になっている者達を通して、タカヤの言葉を否定出来た。
「これは“総意”なのです。人は、生に意味を見出せないと死を受容できない。なのに世界はそうした意味を既に失っている……その事に、もう誰もが気付いているのです。ニュクスは、そんな閉そく感に満ち満ちた今という時代に望まれて訪れたのですよ!」
「でもさぁ、お前の言う『世界』ってのは、人類だけの事なんだよなぁ」
タカヤの言葉へ飲み込まれかけた山岸達の視線が、アマネへと向けられる。
「俺は別にお前が間違ってるとか言うつもりは無ぇし、実際そう考える事が信じるより楽だって事も知ってる。……俺だって、生きる意味を求めてた事があるから」
目を伏せて、脳裏に浮かぶ弟や親友達、後輩や知人達。
どうして自分だけ『二度目の生を受けた』のか。そう悩んでいた時だってあった。
死んで逃げる事は簡単だ。今この瞬間でさえ、持っているナイフで首を掻き切るなり心臓を突き刺すなりして死ねる。その後の事など死人に口なし。
だが、それでは何も変わらない。ましてや生きながらそれを渇望する事も。
「目的を探さない、緩やかな生、緩やかな死。苦しまずに生きようとする事……それが間違いかどうかなんて、わたしには分かりません」
アイギスが胸元を押さえて口を開く。
「でもわたしは、それじゃ『イヤ』だから……何かの為、誰かの為の、わたしでいたいから。だから、ここまで来たんです。それが……わたしの“生きる”だから」
アマネには目的を探さない人生も目的を探す人生もあった。どちらも経験しておきながら、どうにも未だに『どちらのほうが良かったか』なんて評価は出せやしないが。
誰かの為に、何かの為に。そうして生きる事を認めたアイギスと同じだということくらいは分かる。
視線をそっと有里へ向けた。あの人がアマネを受け入れてくれなければきっと、アマネは今もまた、もしくはタカヤへ賛同してこの場へ居なかったかもしれない。
生まれた意味も生きる意味も、今のアマネは何となくだがちゃんと分かっている。それは弟や親友や友人達、そして有里が教えてくれた事だ。
戦いに敗れて仰向けに倒れたタカヤは、それでも悲しむ事も怯える事もない。むしろ清々しささえ感じられるような表情で、全てを諦める。
諦めるというよりはいずれにせよ彼自身へ訪れる結末は変わらないという達観。彼をジンの様にエントランスへ運んでもこのまま放置しても、結局は何も変わらない、変えられない。
アイギスに怖いかと尋ねられて、タカヤは思ったよりも優しい笑みを浮かべる。
「不思議な事を訊きますね。あなたは、死を知らぬ者。なら、死を怖いものだと思っているでしょうね……」
「それは、どういう意味ですか?」
「知らないからこそ、恐れるのです。……私は充分生きた。これ以上、言い残す事などありません」
「死は怖ぇモンじゃねぇですよアイギスさん。怖ぇのは……もっと別の事」
タカヤを見下ろしながら言えば、タカヤがアマネを見上げる。本当に少しだけ嬉しそうな目。
「やはり貴方は、他の方よりも話が分かりますね」
「死ぬのが怖いとは、俺も思った事が無ぇもんでなぁ。銃殺と老衰と撲殺と消滅は、どれが一番悲惨だったのかも分かんねぇし」
「アマネ、くん……?」
岳羽が不思議そうにアマネへ声を掛けてきたが、そちらを振り返りはしなかった。
真田とアイギスは黙ってアマネを見ている。二人が考えている事は予想出来ていたが、残念なことにそれは間違いだ。しかし訂正するタイミングもない。
「俺は正直、お前とも仲良くなれる可能性があると思ってたぁ」
「フ……つまらない話は終わりにしましょう。前言を撤回します。貴方も……話が分からない人だ」
笑って、眠るように意識を失ったタカヤを見つめ、それから顔を上げて周りの皆を振り返る。何か言いたげな顔も有里の真っ直ぐな視線も受け止めて、アマネも笑ってみせた。
可能性があったところで、アマネが選んだのは『こちら側』だ。だからアマネは、皆と一緒にニュクスを倒す権利がある。
誰からとも無く静かに、その場所へ存在している階段を見上げた。
頂上へと繋がる階段。その先は望月が言っていた“約束の場所”
アイギスが近付いてきて隣へ立った。アマネと同じように階段を見上げる姿を見て、アマネももう一度改めて階段を見上げる。
この先で望月が待っているのか、ニュクスが降りてくるのか。今までだってごく稀にしかそんな事はしなかったが、今のアマネでは予知も予測も出来ない。死ぬ気の炎もまともに使えず、神の武器があるわけでも魔術が使える訳もなかった。
無い無い尽くしであっても恐怖は無く、きっとどうにかできると、周りの皆と普通に明日を迎えられると信じている。握り締めた左手に、ほのかな暖かさ。
「これで、終わりにしましょう」
長い道のりだった。多分アマネの今の人生の、一番の正念場だ。
タルタロスの頂上からは、雲が眼下へ眺める事が出来た。まるで高い山の上の様な光景だが、不思議と息苦しいとかそういうことは無く、見上げた空には歪んでいる月。
今まで何度も見上げたその月が異様に近く、思わず細めた視界へ黒い点。月から舞い降りてくるかのようなその姿は巨大で、黒い翼を持っていた。