ペルソナ3
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真田と美鶴のセンター試験も無事に終わり、最後の対決の日まで二週間を切った日。放課後に美鶴から電話が入った。
その電話の内容を聞いて慌てて昇降口へ向かえば、集まっている美鶴と有里達に合流する。
「桐条先輩、チドリさんが蘇ったって」
「ああ、本当だ」
タルタロスの前で伊織へ命を分け与え息を引き取ったはずの人。聞けば亡くなって数日後から影時間内にて、適性の無い者がなる筈の象徴化現象が彼女の遺体へ起こっていたらしい。
更にここ最近になってからは眼を覚ます兆候さえ見え始め、先程病院から連絡があって目を覚ましたのだという。
美鶴が手配したタクシーで辰巳記念病院へ向かえば、先に来ていたらしい伊織が病室の前で呼吸を整えていた。有里と美鶴がその背中を押すように促して病室へと入っていく。
アマネはそう大人数で病室へ詰め入るのも悪かろうと、岳羽と山岸と一緒に廊下で待つ。開け放された病室の中からは、以前とは違う明るい声色のチドリの声が聞こえてきていた。
長い夢を見ていたのだと、暖かい夢だったと彼女は言う。
壁へ寄りかかってその言葉を聞きながら、アマネは小さく左手で指を鳴らした。その動作も今は殆ど意味の無いものだが、はじいた指の音を聞いて少しだけ安心する。
良かったというには彼女はアマネにとって他人過ぎて、どうでもいいと思うには彼女はアマネに似過ぎていた。
チドリは夢の中で出てきた『あの人』を探し出す為に寝込んでなんていられないらしい。それを聞いて伊織が号泣し、廊下でアマネ同様聞いていた岳羽と山岸ももらい泣きしている。
山岸は自身の物を持っていたようなので岳羽へ鞄から出したタオルを渡して、病室から出てきた医者へ頭を下げた。
まだ安静や検査があるので退院とはいかないチドリに今日はもう帰ろうという話になり、アマネは来た時同様タクシーで帰る美鶴達に、買い物をして帰るからと断って歩き出す。後ろから美鶴達が乗ったタクシーがアマネを追い越し、それを僅か立ち止まって見送っていると、後ろから肩を叩かれた。
「湊さん?」
「一緒に帰ろう」
美鶴達と一緒にタクシーへは乗らなかったらしく、隣へ並んで歩き出す有里へアマネは小さく息を吐く。大丈夫なつもりだったが、やはりどうにも有里にはばれるらしい。
「伊織先輩、良かったですね」
「そうだね」
「記憶が無くても、漠然とした思いは覚えてるみてぇだし、きっとまた、二人は仲良くなれるっていうか、……いえ、羨ましいかな」
「どっちが?」
「彼女が、です」
有里は、相槌はせずにアマネを見た。
「俺は『今までの事』を全部覚えてはいますが、きっと彼女の様に忘れて、都合のいいことだけを覚えてるってのは出来ねぇと思うのでぇ」
酷い言い方だが正確だろう。彼女はペルソナ能力を与えられ苦しんだことや、仲間だと思っていた者へ拒絶されたことを忘れて、ただ伊織の与えた真摯な思いだけを心へ留めていた。
逆にアマネは今をもって尚、自分が死んだ時の記憶や大切な者が死んだ時の記憶、辛い経験や苦しい思いも、弟が傍に居た時の喜びや最初の母親の優しさ、親友に出会った時や友人達と笑い合った時やその後の人生で貰った幸せと好意を覚えている。
全部を覚えているからこそ、アマネは今を生きていられるという部分だってある筈だ。
「オレは、よく分からないけど、アマネのこと忘れたくないよ」
有里は自分の足元を見下ろしながら言う。
「アマネは、……『今までの事』、よく覚えてるみたいだけれど、忘れたことはないの?」
「ありますよ。でも一応友人達が思い出させてくれたので」
アマネにだって忘れたく無かった筈が一度は忘れて、死に掛けてやっと思い出したものもあった。もうそれを忘れたいとは思っていないが。
けれどだからこそ、チドリを羨ましいと思うのだ。
親友や弟のこと、そして友人達からの想いを、アマネは二度と忘れたくない。忘れてしまった瞬間、アマネは『独り』になる。
けれど、その『忘れた』という経験が一度しかないものだから、友人達の手を借りてやっと思い出せたものだったから、次に忘れた時チドリの様に一人で思い出せるとは思えなかった。
だから彼女が羨ましい。
まぁ、今後は忘れないようにすればいいだけの話かもしれないが。
「オレも、覚えていられたらいいのに」
有里の呟きを聞いてアマネは思わず苦笑した。思い出したのは望月の事だ。
大晦日に彼が与えた選択肢のもう一つは『全てを忘れて』だった。あれだってアマネだけは全てを忘れさせられても、もしかしたら世界が終わるその瞬間でも、下手すれば生まれ変わった後もアマネは覚えていたかもしれない。
そうだとすれば便利なことだ。例えそれが辛い記憶になろうとも、アマネだけは何があったのかを決して忘れないのだから。
「……湊さんのことは、俺が覚えてますよ」
「それだとオレがアマネのこと忘れる。それはイヤだ」
どうすれば忘れないでいられるのかを考えるように有里が唸る。いつ終わるのか分からない人生だが、この人のことは弟や親友達同様忘れたくないと思った。
アマネを『弟だ』と言ってくれた人。アマネを甘やかしてくれた人。
「俺が絶対、貴方の事を覚えてますよ。今後、どんな人生を歩んだってずっと」
その電話の内容を聞いて慌てて昇降口へ向かえば、集まっている美鶴と有里達に合流する。
「桐条先輩、チドリさんが蘇ったって」
「ああ、本当だ」
タルタロスの前で伊織へ命を分け与え息を引き取ったはずの人。聞けば亡くなって数日後から影時間内にて、適性の無い者がなる筈の象徴化現象が彼女の遺体へ起こっていたらしい。
更にここ最近になってからは眼を覚ます兆候さえ見え始め、先程病院から連絡があって目を覚ましたのだという。
美鶴が手配したタクシーで辰巳記念病院へ向かえば、先に来ていたらしい伊織が病室の前で呼吸を整えていた。有里と美鶴がその背中を押すように促して病室へと入っていく。
アマネはそう大人数で病室へ詰め入るのも悪かろうと、岳羽と山岸と一緒に廊下で待つ。開け放された病室の中からは、以前とは違う明るい声色のチドリの声が聞こえてきていた。
長い夢を見ていたのだと、暖かい夢だったと彼女は言う。
壁へ寄りかかってその言葉を聞きながら、アマネは小さく左手で指を鳴らした。その動作も今は殆ど意味の無いものだが、はじいた指の音を聞いて少しだけ安心する。
良かったというには彼女はアマネにとって他人過ぎて、どうでもいいと思うには彼女はアマネに似過ぎていた。
チドリは夢の中で出てきた『あの人』を探し出す為に寝込んでなんていられないらしい。それを聞いて伊織が号泣し、廊下でアマネ同様聞いていた岳羽と山岸ももらい泣きしている。
山岸は自身の物を持っていたようなので岳羽へ鞄から出したタオルを渡して、病室から出てきた医者へ頭を下げた。
まだ安静や検査があるので退院とはいかないチドリに今日はもう帰ろうという話になり、アマネは来た時同様タクシーで帰る美鶴達に、買い物をして帰るからと断って歩き出す。後ろから美鶴達が乗ったタクシーがアマネを追い越し、それを僅か立ち止まって見送っていると、後ろから肩を叩かれた。
「湊さん?」
「一緒に帰ろう」
美鶴達と一緒にタクシーへは乗らなかったらしく、隣へ並んで歩き出す有里へアマネは小さく息を吐く。大丈夫なつもりだったが、やはりどうにも有里にはばれるらしい。
「伊織先輩、良かったですね」
「そうだね」
「記憶が無くても、漠然とした思いは覚えてるみてぇだし、きっとまた、二人は仲良くなれるっていうか、……いえ、羨ましいかな」
「どっちが?」
「彼女が、です」
有里は、相槌はせずにアマネを見た。
「俺は『今までの事』を全部覚えてはいますが、きっと彼女の様に忘れて、都合のいいことだけを覚えてるってのは出来ねぇと思うのでぇ」
酷い言い方だが正確だろう。彼女はペルソナ能力を与えられ苦しんだことや、仲間だと思っていた者へ拒絶されたことを忘れて、ただ伊織の与えた真摯な思いだけを心へ留めていた。
逆にアマネは今をもって尚、自分が死んだ時の記憶や大切な者が死んだ時の記憶、辛い経験や苦しい思いも、弟が傍に居た時の喜びや最初の母親の優しさ、親友に出会った時や友人達と笑い合った時やその後の人生で貰った幸せと好意を覚えている。
全部を覚えているからこそ、アマネは今を生きていられるという部分だってある筈だ。
「オレは、よく分からないけど、アマネのこと忘れたくないよ」
有里は自分の足元を見下ろしながら言う。
「アマネは、……『今までの事』、よく覚えてるみたいだけれど、忘れたことはないの?」
「ありますよ。でも一応友人達が思い出させてくれたので」
アマネにだって忘れたく無かった筈が一度は忘れて、死に掛けてやっと思い出したものもあった。もうそれを忘れたいとは思っていないが。
けれどだからこそ、チドリを羨ましいと思うのだ。
親友や弟のこと、そして友人達からの想いを、アマネは二度と忘れたくない。忘れてしまった瞬間、アマネは『独り』になる。
けれど、その『忘れた』という経験が一度しかないものだから、友人達の手を借りてやっと思い出せたものだったから、次に忘れた時チドリの様に一人で思い出せるとは思えなかった。
だから彼女が羨ましい。
まぁ、今後は忘れないようにすればいいだけの話かもしれないが。
「オレも、覚えていられたらいいのに」
有里の呟きを聞いてアマネは思わず苦笑した。思い出したのは望月の事だ。
大晦日に彼が与えた選択肢のもう一つは『全てを忘れて』だった。あれだってアマネだけは全てを忘れさせられても、もしかしたら世界が終わるその瞬間でも、下手すれば生まれ変わった後もアマネは覚えていたかもしれない。
そうだとすれば便利なことだ。例えそれが辛い記憶になろうとも、アマネだけは何があったのかを決して忘れないのだから。
「……湊さんのことは、俺が覚えてますよ」
「それだとオレがアマネのこと忘れる。それはイヤだ」
どうすれば忘れないでいられるのかを考えるように有里が唸る。いつ終わるのか分からない人生だが、この人のことは弟や親友達同様忘れたくないと思った。
アマネを『弟だ』と言ってくれた人。アマネを甘やかしてくれた人。
「俺が絶対、貴方の事を覚えてますよ。今後、どんな人生を歩んだってずっと」